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「笑う住宅」……って、住宅が笑うの?  いえいえ、それはそこに暮す人のお話。理想の住まいは奥が深いのです。


編集部 誰の物って……当然、その家を建てた施主のものだと思うんですけどきっと違うこと言うんでしょうね?(笑)
稲 垣 もちろん「所有権」でいえばその家の施主さんの物ですよ。
僕が今回言いたいのは権利ではなくてその家の存在意義と言うか、何のためにその形で、誰のためにその間取りで、そして突き詰めると住まいって何のために存在するのか……なんか大袈裟ですね(笑)。
僕は若い頃から住まいってその家の女性のための物って考えてました。
その家の主婦ではなくて「女性」のための物。
編集部 女性だと子供も入ってしまうからやっぱり主婦のためではないんですか?
稲 垣 いえ、間接的ではありますが女性ならお子さんでもその家の主役だと思ってます。
女のお子さんはお母さんの家事の手伝いから社会性や家庭の中での母親の役割を学んでいくんだと思います。
話は少し逸れますが色んな報道で全てを学校のせいにする親の話題ってあるじゃないですか?子供かわいさのあまり自分が教えるべき社会性を学校に押し付けるのはお門違いだと思うし、義務を放棄して権利だけを主張するのもどうかなと思います。
自分もまだ成人していない子供を持つ親としてそんなに偉そうな事は言えないんですけどね(笑)。まあ、おかしな先生の話題も少なくないですがごく一部の先生のおかげで大多数の先生は迷惑千万な話ですよね。
 話を元に戻します。お母さんは専業であれワーキングママであれその家の主婦であることは間違いない。
一番長い時間をその家で過ごし、例えば家事、育児、場合によっては介護、在宅で仕事をされている方も少なくない。それを全て一人でやるんですよ。
それをこなした上でご自身の時間が持てるわけです。
最近はお父さんが育児を手伝ったり、家事を分担されたりと言う話はよく耳にしますが、お母さんのそれとは負担割合が違う。旦那さんのご両親と同居であればお婆ちゃんがいらっしゃるから多少は楽だという方も稀にいらっしゃいますが、それだって御姑さんへの気の使い方は相当なものだと思うんです。
その家事、育児、介護などの疲れ、ストレスは少なからず子供さんに向けられる。
子供さんが笑っていられるにはお母さんが笑って居なければならない。
子どもさんが笑って無ければお父さんも笑っていられない。
だからお母さんが中心なんです。お母さんを中心とするご家族が住まう器はお母さんにとってもとても大切なもののはずなんです。
編集部 なるほどです。お母さんが笑ってなければ子供さんは笑えないってのはすごく共感できます。だいたい僕ら日本人の男は子供との接点が少なすぎる。……我が家だけかな……?
その分お母さんに任せっぱなしになってますね。
反省もするけど実際は絵に書いたようなマイホームパパにはなれないなぁ。
稲 垣 安心してください。我が家もそうですから。(笑)
編集部 では具体的にその家の主婦、お母さんにとって暮らしやすい住まいってどんなものなんですか?
稲 垣 それはその人の持つ感性や育ってきた環境なんかで大きく違います。と、言ってしまうと話はここで終わってしまいますね。
どんなお宅でも、住まいの最終目的はお母さんを中心としたご家族みんなが笑っていられる住まい造りだと思うんです。
その方法論としてはいくつかアプローチの仕方があって、例えばお子さんとの距離感や、同居の義父母との距離感、お母さん自身の自分の時間を少しでも多く取るためのアプローチの方法だったり。
嫁の立場でご家族全員の家造りのお打ち合わせに参加されても義理のお父さんお母さんの前では何かしらの遠慮があって明確に言葉に出せない事ってあるわけじゃないですか。
もちろんそういった場合は私達の最大限の想像力で「こういう住まい方を望んで居られる」と、こちらからの投げ掛けとして様々なご提案をする事もあるわけです。
編集部 なるほどねえ。子供さんの母親としても立場だけでなく、その家の嫁としての立場も感じ取って、ご家族全員が笑っていられる住まいを提供できるように打ち合わせも大勢になればなるほど要求のベクトルが多少違うのを容認しつつ調整していくと言うことですか。
なかなか大変そうですね。
稲 垣 大変ですがそのあたりのお打ち合わせが一番楽しい。
また、ご家族にとってもそのあたりが家造りの最大の山場であり、実は一番楽しい時期なのだと思います。
間取りでその家の奥さんの生活を楽しくしたり、家事を楽にしたり、ストレスを軽減できないか・・・僕らの自己満足になってしまうかもしれないけれど、少なくともご満足頂ける方が少なくないと言うことはある程度理にかなった方法論なのだろうと思っています。女性は特に住まいにこだわる方とそうでない方がいらっしゃいますので、あくまでも「一般的には」と言うことわりを付けたとしても、一番わかりやすいのは家事動線の短縮、単純化ですよね。
 家事をしやすい動線を造るって言うのは昔から言われていたことです。
僕が他に思うのは奥さん専用の収納を設けるべき。
これは奥さん個人の物の収納と言う意味ではなくて、個人ではなくその家の主婦として必要な物の収納。収納の少なさは後に大きな不満になります。
理想を言えば脱衣室に家族全員の下着類の収納があれば家事動線はかなり短くなるし、ご家族にとっても利用しやすい。家事で言えば物干し室があれば雨の日や冬場にもストレスを感じることなく物干し作業が出来るわけですよね。
 最近はゴミの分別も細かく指定され、将来的にはもっと細かくなると言います。そんな分別ゴミの置き場所だって考えないと十分ストレスになりうる。
 ご家族との距離感で言えば、お子さんとはとりあえずセパレートしてはいるけれど気配を感じれるほうがいい。例えばリビング階段も一つの手法です。
学校から帰ってきて真っ直ぐに自室に行けない。必ずリビングを通らないといけない。
学校帰りに子供さんの顔を見ればお母さんなら元気があるのかないのか位は瞬時にわかりますもんね。お母さんと子供さんの距離を縮めるには有効な手法だと思います。
 逆に義理のご両親とは必要な時以外は気配も消したい。これに関しての手法はそのお宅の事情や考え方で変わってきますが、御同居されていてもそれぞれの生活は尊重されるべきで、近からず遠からずの距離感を置くのは大切なことだと思います。
ここに上げただけでなく、いろんな意味でお母さんのストレスってかなり大きな物なんだろうと想像できます。
僕らの力でやれることは限られていてもやはり何かをお手伝いしたいですよね。
編集部 「笑う住宅」なんて題名で話を始めるからもっと小難しい話になるかと思ってました。本当はその辺もあったんじゃないですか?   
稲 垣 住まいは誰のものか……本当は地域の一部としての住まいでもある。大袈裟に聞こえてしまうかもしれませんが、例えば地域の子供さんや若い娘さんが暴漢に襲われそうになった時、助けを求めやすい家とそうでない家って佇まいで違うと思っています。
それは外に対して開かれた間取りであるかどうかって事も重要なんですが、突き詰めると住まいには一見してそこに住まう方の人間性が出てしまうものなんだと思っていますので、やはり住まう方が笑っていられれば家そのものも「笑う住宅」になると感じています。