日本の家は日本に返る……それは“本物への回帰”。
間違いなく訪れようとしている、そんな大きな流れ。今回も「日本の家」について考えてみましょう。


編集部 2回に渡って「日本の家は日本に返る」というタイトルでお話を進めてきましたが、それを読んでいただいた42歳主婦の方からこんなハガキが届いています。
  毎回楽しく拝見しています。「日本の家は日本に返る」という記事、大変興味深く読ませていただきました。
私も今すぐというわけではありませんが、近い将来家を建てたいと思っています。
でも、現在の家の多くは正直どれも同じように見えてしまうのですが、実際、住宅の造り手側から見るとどう思われますか?
稲 垣 う〜む、鋭い……。というか、業界においては痛い意見ですね。
確かに住宅においても流行り廃りはどの時代もあるんですね。
一定の経験を積んだ方なら、その家のプロポーションを一見すれば何年前くらいの建物かおおよそわかります。
というか、わかる家が多いです。もうかなり前ですが大屋根の家が流行った時代もありますし、数年前から現在まで南欧風という、いわゆる南ヨーロッパ地方の家の外観が流行っています。現在一番多いのは、デザイナーズハウスというカテゴリーに無理矢理押し込まれた家ですね。
ガルバリウム鋼板という外壁を使って、形はシンプルに、カラーはモノトーンに……といったものです。
中にはデザイナーズハウスじゃないだろうってのもありますけどね(笑)。
編集部 本屋さんに並ぶ住宅雑誌もその傾向にありますよね。
稲 垣 ですから、住宅においての流行は造り手が発信しているものの、本当の意味で流行を作っているのはユーザーのような気がします。
僕は将来的な日本の住宅の流れは“本物への回帰”派と、一切の生活感を消し去ろうとする“住宅のホテル化”の二極に大別できるのではないかと考えています。
ホテル化といっても、住まい方がそうなるという意味ではなく、インテリアのまとめ方などがシンプルでも貧相でない……たとえて言うならビジネスホテルではなくて、高級シティホテル化するという意味ですけどね。
ホテル化という言い方が適切でなければ、住宅の店舗化。
要するに毎日の生活空間から一切の生活臭を消し去ろうとする非日常的な空間に近寄りつつあるのではないかと考えています。
いずれにしても、これからも流行は多種多様だと思います。
流行に惑わされることなく、ご自分の理想の住まい方と、かっこいい、気持ちいいと感じられるプロポーションを探してみてください。
編集部 “本物への回帰”という言い方にすごく興味があるんですが、その辺を説明して いただけますか?   
稲 垣 大きい流れとしては間違いなく、“本物”への回帰が始まります。
ただ、その本物をどう捉えるかは造り手の考え方、ユーザーのこだわりや嗜好に左右されますので、一つのカテゴリーに集約されないかもしれません。
編集部

もう少しわかりやすくお願いします。

稲 垣 先ほどのおハガキにもあったように、現在の住宅雑誌を見れば無垢の木を使ってさえいれば、判で押したように“健康住宅”だとか“地球に優しい”などという活字が躍りますが、それはあくまでイメージだけの世界です。
木を使うことが地球に優しいかどうかは、その木が育った山が今現在どのような状態にあるのかということが重要で、それを知りもせずに“地球に優しい”とはいえないはずですよね。造り手側のユーザーへの責任とは別に、ちょっと大げさに言えば環境責任みたいなものをも負える造り方が必要になると考えています。
もう一つは、例えば○○風という言葉がありますが、その“風”という部分が薄れていくと思います。
より本物しか残らない、そんな時代に必ずなると思っています。
編集部 可変空間といいますか、広がる間取りということですね。
稲 垣 その広がる間取りを造るにはある程度、家全体がオープンになります。
冷暖房のことを考えれば当然一定以上の断熱性が必要になります。
断熱材の選択を間違えるとリサイクルできません。
リサイクルが可能であり、一定以上の断熱性も確保できなければなりません。
そういった意味で、さっき挙げた僕の目指す『日本の家』はすべてがリンクしていくんです。
編集部 古正寺に稲垣建築事務所としてのモデルハウスを建築中だそうですが、当然ながら先ほど言われた環境責任はまっとうしていらっしゃるのですよね?
稲 垣 当然です。
まず、合板(ベニヤ)は構造上重要な床下地の合板を除いて一切使っていません。
床の28mmの厚い合板は建物の水平剛性を保つ上で重要ですので、この部分だけは残しましたが、その合板でさえ新潟県産の杉で初めて作った構造用の合板です。
そして構造材においても輸入材は一切使用せず、その大部分に福島県産の国産赤松を使用しています。
また、この赤松は福島の材木屋さんの自社保有林からの伐採ですので、伐採後は新しい山へと生まれ変わります。輸入の欧州赤松と混同しないでくださいね。
欧州赤松はレッドパインと呼ばれるものです。
編集部 先日、工事中のモデルハウスを拝見しましたが、国産の赤松って白いんですね。
輸入の米松や欧州赤松を見慣れている人間にとってはすごく新鮮でした。
稲 垣 最初はね。真っ白なんですよ。
でも日に焼けるとものすごく綺麗な飴色に変化します。
何年か後の方が絶対にキレイですよ。床も一部赤松を使っています。
国産赤松の床材は一部ではブランド化され、非常に高価で入手も容易くはないのですが、あのざっくり感の中にも凛とした存在感が好きなんですね。
床は他に静岡産の杉、岐阜産の桧を使っています。
今回はあえて足ざわりが温かい針葉樹のみを使いましたが、他にも北海道産のカバ・本桜・板屋カエデ、岩手産のブナ・栗など、広葉樹も出所のはっきりした、責任の持てる国産材を使っていきたいと考えています。
編集部 今まで言ってきたことの集大成と考えてよろしいのでしょうか?
稲 垣
ある意味ではそうかもしれません。
けれど僕はこれでいいとは思いません。人様から気持ちいいと感じていただくには、まずは僕自身が気持ちいいと思えなければいけません。
それは材料だけでなく、当然のことながら安全性や採光、通風に至るまで安心、安息の場でなければならないと考えています。
だから、これですべてが具現化したとは思っていません。
編集部 「進化しながら回帰する」ですね。
稲 垣 そうですね。
必ずフェイクではなく本物に回帰します。
それは住まい方も同じだという気がしてなりません。
日本で脈々と受け継がれてきた暮らし方。家族を取り巻く様々な問題や環境の問題。僕の中でこれらの問題の回答を探した時、やはり日本家屋の住まい方に回帰するのです。
それは、ただ単に昔の暮らしに戻ろうというのではありません。
進化はしています。けれど、良い物や優れた考え方には回帰しようと思います。
編集部 なるほど。今日もとても勉強になりました。
次回は「日本の家は日本に返る」のCでしょうか?
稲 垣 いや、次は古正寺に建築中のモデルハウスについてお話したいと考えています。
編集部 予定通り完成するのでしょうか?
稲 垣 ……と、思います……たぶん。