地域工務店として

居心地の良い空間というのは確かに存在します。
だけど、その法則というものはあるのでしょうか?
イラスト
稲 垣

唐突ですが、つい先日取引先と新潟の真新しい居酒屋で飲む機会があったんですよ。確かに昨今の居酒屋ですから、ほとんどが個室に区切られていて他の方々を気にせずに飲み食いできるし、造りもオシャレなんですが……どうも落ち着かない。よく外見だけで判断され、一升酒飲みそうだと言われますが、僕はこの世からお酒が無くなっても一向に困らない人種です。そんな酒飲みではないということではなく、とにかく居心地が悪い。一次会なので頑張ってはみましたが、小一時間程で逃げるようにその店を出ました。料理も食べてみればそこそこおいしかったんですが、あんまりおいしそうには見えなかったんですよ。ま、見た目の話ですけど。

編集部
結論を言われませんが、どうせ「なぜ、その店の料理がおいしそうに見えず、居心地も悪かったのか」は結論でているんでしょ?
稲 垣
ええ、まあ。一緒に飲んでいた方は同業ではないのですが住宅業界を広くご存知の方で、その方と「なぜおいしそうに見えないのか」、「なぜ居心地が悪いのか」を割と大きな声で議論し、結論は見いだせています……嫌な客ですよね(笑)。
 まず座った位置を説明します。小上がり席の廊下からの部屋に入る間仕切りを背に僕が、対面する形で相方が座ったのですが、まず僕が大きめのお皿にオシャレに少しだけ盛り付けられたお通しを「不味そう」(失礼)と評しました。相方は「そうですか? うまいっすよ」と食べ始めました。僕は箸を付けてもやはり進んで食べる感じにはなれない。それと同時にその小上がり席に対して猛烈な違和感……を超越した嫌悪感を覚えるようになっていきます。それで、席を替わってもらったんですね。わがままを言ったわけではなく、あまりに落ち着かない僕を見かねて相方が替わろうと言ってくれたんです。そうすると、さっきまでは僕の背中側の内装を見ることになったんですけど、見る方向が違っても落ち着きを取り戻すことは無かったと同時に、相方までそわそわし始めるんですよ。相方も「確かにおいしそうに見えない」と言い始めました。相方は建築業界ではないのですが、ビジネス上の取引先の多くが建築業界って職種ですので、ずぶの素人ではありません。そこからお酒や料理の話ではなく、一気に「この小上がり席の違和感について」(笑)談義に変わりました。
編集部
紙面を考えた上で引っ張っていられるのは十分わかりましたので、そろそろ結論がほしいところです(笑)。
稲 垣
あれ?バレました(笑)。その小上がり席の内装、畳が(実際は畳風のビニール系の床材)薄いグレー。壁がペンキ仕上げの一点の曇りもない白。天井は張っていなかったのですが、見上げて目に入る範囲はすべてペンキ仕上げの真っ白。廊下と間仕切る建具も真っ白。僕が最初に座った位置から相方越しに見える壁は、白いうえに青いライトで演出されている。テーブルを狙うスポットライト越しに見る相方の顔が黒縁の眼鏡を掛けた死人の様に真っ白に見える。つまりは目に入る色と無駄に明るい照明、料理を不味く見せるブルーライト、人の顔から生気を奪うスポットライトのせいで著しく居心地が悪く感じるという結論に達しました。さらには天井を張っていなかったせいでもあるのですが、部屋の広さに対して天井の高さが無駄に高い。つまり間延びした空間になっていて、それが広がりとか解放感には一切繋がっていない。こんな結論でした。

本物の"居心地の良さ"とは?

編集部
手厳しいですね(笑)。つまり色と照明と天井の高さでその小上がり席の居心地の悪さが決まったということですか?
稲 垣
恐らく……いえ、間違いなくそうだと思っています。以前も紙面でお話ししましたが、白、特に真っ白というのは基本的に膨張色とか進出色とか呼ばれる色にカテゴリー分けされます。迫って来るように見えてしまうということです。違う言い方をすれば狭く感じる。小上がり席は薄いグレーの床を含めて6面全部が白く、全体が迫ってくる感覚になったのだと思っています。
 なおかつ、本来は料理をおいしく見せないブルーライトを間接照明に使い、ブルーライトが視界に入る側に座ってしまうと目が疲れると同時に本当はおいしかったはずの料理までそうでなく見えてしまう。白は明度(明るさ)、彩度(鮮やかさ)とも高いので部屋を明るく見せるにはこれ以上ない色なのですが、明るさと、視覚的に狭く見せないあるいは落ち着ける、くつろげるという心理的効果は安易に両立しません。両立を目指すならば真っ白より少しだけ抑えてベージュに近い白、オフホワイトなどを選ばれたほうが双方のバランスが取れると思っています。昔の看護師さんのナース服はほぼ真っ白だったけれど、最近のナース服は薄いピンクや若干の色がついてますよね。患者さん側から見た圧迫感の軽減、興奮しすぎないという配慮から薄い色を付けるようになったと聞いています。
 また天井の高さですが、その部屋あるいは空間に適切な天井の高さというものがあるはずです。わずか四畳半くらいの席の天井高さが6mもあればそりゃ落ち着かないです。建築基準法では居室の天井高さは2100o以上と規定されています。"居室"ですから例えば玄関の天井高さが2000oでも法律違反にはならないのですが、それでも平面的な広さに対する適切な天井の高さって存在すると思っています。個人的には極端に天井が高いだけでは逆に落ち着かない空間が出来てしまうと思っています。住まいの場合なら窓からの光の入り方とか材料の質感とかも関係してきますが、天井をただ高くするのではなく、低いところと高いところを織り交ぜることで本物の"居心地の良さ"が手に入るのだと思います。
編集部
何事も適切ってことですね。話を聞きながらイメージしましたが、天井が高いお宅の方が解放感とか高級感とか出せそうですけれど、床に座る僕んちのライフスタイルでは高すぎるのもいかがなものかなと。ましてやそれが一点の曇りもない真っ白な空間だったらと考えたら言われていることはすごく理解できました。
稲 垣
天井高で思い出しましたが、犬や猫のペットを室内で飼われているお宅は、ほとんどが愛犬または愛猫の居場所を決めておられると思いますが、その居場所は適切な高さでないとワンちゃんたちも落ち着かないですよ。人間にとって適切な天井の高さでも小型犬や猫の体高を考えたら体育館に居るようなものですから。ぐっと天井の高さを抑えた"穴ぐら"の様な部分をワンちゃんたちの居場所として確保して頂きたいと思います。以上、ペットの話のくだりは受け売りでした(笑)。
 天井の高さとか照明の色、内装の色って出来上がってからしか体感できませんが、そこを間違うと快適な"居心地"は手に入らなくなりますのでご注意を。やはりその道のエキスパートに相談されるのが一番だと思います。経験に勝てるものはないですから。とはいえ、言いなりにならず、かといって全部ご自分で決めようとはせずに提案してもらい、相談をしつつカラーコーディネイトしてみてください。家造りはご自分自ら楽しまなければ絶対に損です。大いに楽しんでください。