地域工務店として

工務店、ハウスメーカー、建築事務所、設計事務所……など、住宅を建ててくれる会社はいろいろありますが、その違いは何なのでしょうか?
イラスト
稲 垣

僕らの会社名は『稲垣建築事務所』。建築事務所と聞くと一般の方々は設計事務所だと思われる方が多いみたいですが、僕らのスタンスは工務店なんです。僕は自社に大工さんがいない会社は工務店と名乗るべきではないと考えていますが、僕らの会社には自社大工がいます。設計、現場監督、アフターサービス、それぞれの専任者もいます。打ち合わせから設計、施工、アフターサービスを全て自社でやってこその工務店だと考えています。最近、知り合いを通じて東日本大震災の被災地(主に仙台ですが)の同業工務店から大工さんを貸してくれというオファーが舞い込みました。当然被災地ではすべての職種の手が足りない状態。猫の手でも借りたいくらいでしょう。知り合いを通じてピンポイントで僕らのところにオファーが来たのは、ただ単に大工さんが足りないという理由ではなく、"設計事務所"の仕事が出来る大工さんを探して居られるんだそうです。

編集部
設計事務所の仕事が出来る大工さん? 出来ない大工さんも居られるのでしょうか?
稲 垣
実は僕も意識したことは無いのですが、オファーをいただいた先とお話しさせていただく中で「なるほどなぁ」と思ったことがあります。普段、ローコスト住宅やハウスメーカーのマニュアル化した工事しかされていない大工さんでは、設計事務所の設計者が細かい寸法や納まりを指定した図面を読むことさえ出来ないらしいのです。だからと言って手間賃がハウスメーカーより断然いいわけではない。つまりは細かい図面を読めて、設計者の意図を理解できる事が日常的に当たり前になっている大工さんが圧倒的に不足しているのだそうです。そこで僕らの会社の自社大工にオファーが来たということです。彼らは普段から慣れていますから。
 脱線します。被災地は本当に職人さんが足りない。住宅以外の建築工事で極端な例を挙げると、公共工事を請けてくれる会社が減っているのだそうです。一番安定した受注先であるはずの公共事業に距離を置いてでも民間工事を受注する会社が多いのだそうです。なぜなら公共事業は被災したからといって受注単価が跳ね上がることはありませんが、民間工事は需要と供給のバランスで受注額が上昇するから。なんだか割り切れない話ですが理解できなくもないです。その話を住宅業界に置き換えてみると、下請大工さんなら当然、手間賃のより高い仕事へと流れます。それは仕方のないことですよね。被災地のあるローコスト住宅メーカーは受注ストップなんだそうです。それは受注が多すぎて現場を管理できないからではなく、工事をしてくれる職人さんがいないからだという話です。当地の中越地震時も似たような話は聞きましたが、規模的には比較にならないくらい東北の復興はまだ始まったばかりです。

地域に腰を据える工務店である意味。

編集部
そうか。普段から細かい図面で細かい指定を受けて工事されている大工さんと、家こそ違え、工事内容は常に同じと言う大工さんではニーズに差ができるということですね。稲垣さんは自分の会社は工務店だとおっしゃいますが、工務店とそうでないところは自社に大工さんがいるか、いないかだけですか?
稲 垣
そんなに厳密に工務店はこうであるべき!などと大上段に構えてはいないのですが、営業と現場管理だけで、設計も大工さんも外注、アフターメンテナンスは下請業者任せでは工務店ではなくブローカー……は言いすぎですね……いわゆるメーカーと変わりはないと思います。今日現在(2月6日)過去に僕らがお手伝いした住宅の雪下ろしをかなりの棟数を終わらせました。まだもう少し依頼されたお宅は残っていますが。直近10年間くらいの間にお手伝いした住宅は基本的に(長岡市内であれば)耐雪2mの構造計算のもとで設計していますのでまだ心配は要りませんが、それでも向こう三軒両隣のご近所が一斉に雪下ろしをされると心配になるのでしょうね。新しいお宅でも心配だからと依頼をされればお手伝いしています。
 古いお宅ではもう築40年以上経っています(親父の時代のお客様です。僕の親父は大工の棟梁でした)。そんな結びつきがあってこその工務店なんだなとこの時期になると特に強く思います。お客様の中には若手が転勤で老人世帯になってしまった、なんて場合もあります。そんな時でも僕らの会社の誰かがそれを気にしていて雪の積もり方とか、玄関までの排雪状況とかを覗きに行けるようにしています。普段は頻繁に面と向かってお話しする機会がなかなか設けられなくても、僕らがお手伝いした住まいとそこに住まわれるご家族は常に気にしていたい。そうでなくては僕らがこの地域に腰を据える工務店である意味がないと思っています。
 自社に大工がいるってすごいフレキシブルなんですよ。例えば建て替えの際、仮住まいへの引っ越しを引っ越し業者に頼まずにご自分でされる場合は、営業も現場監督もメンテナンス専任者も大工も関係なく会社総出でお手伝いしますし(笑)。出来上がった新居への引っ越しのお手伝いは基本的にはお断りしますけど。傷つけたら大変ですしね。そこはプロに頼まれたほうがいいです。無償でお貸しできる仮住まいも狭いながらご用意していますし、旧宅の部材を新居にも使いたいなんて場合も自社に大工がいれば自由に動けますから。
編集部
僕の実家を建ててもらった大工の棟梁がそんな感じでした。台風が過ぎた後は家族に声を掛けるでもなく家の周囲を見回り、地震の後もすっ飛んできてくれたり。僕の父もそうした「気にしてもらえている」感じがうれしかったんでしょうね。
稲 垣
ただ、工務店=大工の棟梁と言うイメージは絶対に払拭したいと思っています。近所の大工さん、というイメージからは最近の住宅トレンドだとかセンスといったものからは遠い存在と思われがちだから。センスを磨いてトレンドにも精通したい。最新の住宅ニュースにも詳しいし、最新設備や流行も知っていたうえで、この地に合ったものだけをご提案出来ればいいなと思っています。まだまだ足りないですけどね。こだわる部分は"最新"とか"流行"とかに流されない工務店を目指します。