“木をデザインする”ということ2012

今年の本コーナーは、稲垣さんの得意とするテーマでスタートです。
今回は学術的な内容を絡めてのお話となりました。
イラスト
編集部
明けましておめでとうございます。……と言ってもいいのでしょうかね。やっぱり少しだけ複雑な気分です。さて、気持ちを切り替えて……"木をデザインする"というのは稲垣さんの会社のキャッチフレーズと言いますか、強みの一つになっていますよね? 改めてその話ですか?
稲 垣

おめでとう御座います。本年もよろしくお願いします。僕等は僕等に出来ることをしっかりやりましょう。それが被災地の方々のために繋がると信じて。
 本題に入ります。先日、知り合いに「最近、木の使い方がおとなしくなってきた」と言われたんですね。その方に悪気は無いはずだし、率直な意見なんだと思いますが少しショックだったので改めて僕等の会社のスローガン(笑)でもある"木をデザインする"ということについて説明させていただけたらと思いまして。
 そもそも自然素材である木、つまり地球からの頂き物である材木をデザインするなんておこがましい話ではありますし、一時期に比べると木質感、つまり木を多用するインテリアは全国的に少なくはなってきています。ただ、住まいにおいてムクの木を使ってあるか、どの程度の面積を使っているかということは視覚的にも精神的にも影響はあるんです。以前も書きましたが、これは学術的にも証明されていて、一つの部屋の床、壁、天井、つまり目に飛び込んでくる全ての面積の40〜50%に本物の木が使われている場合が一番精神的に"落ち着いた"状態になる。脳波でわかるんだそうです。それ以下でもそれ以上でも、40〜50%という黄金比率に対しては精神安定度から言うと落ちてしまうんです。わかりやすいように例えますが、10畳のリビングがあるとします。床、壁、天井の合計面積は入口や窓を除いてもおよそ70uくらい。その40〜50%といえば28〜35u。床と天井に全部木を張ってやっとそのくらいの面積になるんですね。
 恐らくここまで読んでいただいたほぼ全ての方が木の色のイメージに白木に近いイメージを持たれたのではないでしょうか? ナチュラルなイメージ。驚かれる方もいらっしゃるのかもしれませんが、木の色=白木に近い色をイメージするのは日本人特有なんだそうです(学術的にはわかりませんが、世界各国から木材を輸入している会社の社長がおっしゃっていました)。僕が考えるに、日本に一番多い樹木は杉、次いで桧。双方とも白木の代表格みたいな木です。生れた日から目にする多くの建築用材は杉と桧が多かったはず。それで木の色=白木という固定観念がすり込まれているのではないかと考えています。あくまでも僕の私見ですけれど。

編集部
私見なのかもしれないけれどその通りなのかも知れないですよ。僕も前半の稲垣さんの話を聞きながらイメージしたのは白木でした。でも、それと"木をデザインする"ということは関係有るんですか?
稲 垣
大有りです。もし木の色のイメージが白木であれば杉や桧がきちんと張り分けられていれば"イメージ通り"と感じられるはずです。逆に色の濃い、例えばブラックウォールナット、チーク、などの色の濃い広葉樹は、そもそも日本人にとっての木の色のイメージではなくなってしまう。けれど立派な木です。高価な木でもあります。そういった今のトレンドでもある色の濃い木を使っても、ちゃんとデザインされていると感じていただけるような木の空間を僕達は造らなきゃいけない。

ビフォーアフターの違いとは?

稲 垣
最近は床をこういった色の濃い木で仕上げて、壁と天井はほぼ真っ白というインテリアが流行っています。住宅雑誌でもお馴染みです。もちろんお客様のご希望であればお手伝いもしますが、僕はもう少し、ひとひねりしたいと画策したりします(笑)。色が濃くても、日本人の木の色のイメージから離れたとしても"木をデザインする"というスタンスは変えたくない。
写真は年末にリフォームしたお宅のビフォーアフター。築20年ですがビフォーはいわゆるナチュラルインテリアで、白木っぽい色を使用面積も40%には満たないものの当時としては大目の面積に木を使っていました。ちなみに床はブナ、壁は米松のオールドグロスと言われている、マグロでいえば"大トロ"の部分です。アフターの方は床がブラックウォールナットで天井がレッドシダー。間仕切壁の位置等は替えていません。構造的にはまったくいじらないインテリアリフォームという形です。印象がガラッと変わるのがお判りいただけますか? 色のトーンだけでもこれくらい印象は変わります。写真ではお伝え出来ませんが、色が濃くても、その木の優しさやぬくもりはその場所に居れば伝わります。僕等は床などに使うムクの木に色を付けないというポリシーが有るんですね。色の濃い床がご希望だといっても比較的安価な白木の床材に着色してしまっては、その木が、その色を持って生まれてきたことを否定する気がしまして……大袈裟ですかね? 素材の持っている元々の色、質感をまとめてこそ"木をデザインする"ということなんだと思うんです。僕はムクの木の素材においてはその辺の材木屋さんより知識があると自負していますので、僕の会社のお客様には様々なご提案をさせていただいています。時には採算を度外視して……(笑)。
編集部
確かに2枚の写真を見比べると印象はまったく違いますね。ま、ビフォーもアフターの方も実際に拝見しているので温かみや優しい感覚はわかります。実際にそこに立ってみた感想は、アフターの方は色が濃い分、重厚な感じですが、だからといって居心地が悪いわけではなく、すごく気持ちいい。稲垣さん風に評論してみましょうか?(笑)。
色合いを含めた視覚から伝わる硬さや温度までも含めてデザインする。それが"木をデザインする"ということ。
すごく伝わりましたよ。
稲 垣
 (笑)よくできました。何はともあれ、僕等はすべてにおいて"本物"をお勧めしてバランスのとれた住まい造りのお手伝いをさせていただきたいと思います。表現者として。本年もよろしくお願いいたします。