雪国で暮らすということ

普段、何も気にせず当たり前のように考えていることが、
他人が客観的に見るととても気になること。今回はそんなお話です。
イラスト
稲 垣
僕の知り合いの奥さん、先日久しぶりにお会いしたら、いきなり深いため息をついて、『寒くなってきたね……東京に帰りたい』とおっしゃってました。この奥さん東京生まれの東京育ち、既に長岡に嫁いで15年以上が経つのですが、未だに苦手のようです……冬……と言うか雪が。
編集部
僕の知り合いの奥さんにもいますよ。"空がドブねずみ色になる季節"と、長岡の冬を表現していますが、どうも青空の無い長岡の冬と雪の始末に馴染めないようです。しかし、言われるまで気にもしませんでしたが"ドブねずみ色の季節"ってここで生まれ育った僕等には普通のこと過ぎて、改めて考えると冬は基本的に青空の関東の方からみたら気が滅入る季節なんでしょうね。
稲 垣
ドブねずみ色って……失礼だなぁ(笑)。でも正直な意見なんでしょうね。関東の方から見たら新潟県ってだけで豪雪地。本当は新潟市内と長岡では桁が違うし、長岡と魚沼辺りでも桁は違います。けれど長岡も立派な雪国。長岡の人間から見ると新潟市なんて雪国じゃないじゃないですか。そう考えると、たった50キロちょっとしか離れていないのに住まい造りも若干の違いがあるように感じます。長岡と新潟で違うんだから長岡と関東を比べたらもっと違うはずですよね。
 最近、それを痛感したことがありました。新潟市内を中心に住宅写真をほぼ専門に撮影されているカメラマンに長岡市内の物件の撮影をお願いしたんですね。そのカメラマン、現場に着くなり『カーポートが邪魔だなぁ』とポツリと呟いたんですね。アルミ製の駐車場の屋根、カーポートが邪魔だと言い始めたんです(苦笑)。長岡市内では、というか僕等の会社でお手伝いさせていただくほぼ全てのお客様の住まいは、お引渡し時に既にカーポートが設置されています。当然、外観写真をとる場合はカーポートも写ってしまうわけです。それをカメラマンさんは『邪魔』と表現したんですね。少しカメラマンさんとその辺について話をしました。一番単純でわかりやすい新潟市内と長岡市内の住まいの違いが見えてきます。新潟市内では新築引渡し時に既にカーポートが設置されているケースは稀だそうです。カーポートがある家自体が少ないともおっしゃってました。つまり外観撮影時に一番邪魔な物が新潟市内の住まいには無いんですね。そしてもっと違う点は、カーポートと逆で長岡の家にはあまり無くて、新潟の家にはほとんどの家にある物の違い。それが有ると無しでは写真栄えがまったく違うもの。なんだかわかりますか?
編集部
なんでしょう……? 長岡の家に無くて新潟の家に有る物……。有ったほうが写真栄えがするんですよね?……庭?庭木? シンボルツリーみたいな、家の道路側を飾る木ですか?
稲 垣
流石です。新潟市内の家ではカーポートを設置するよりも家の道路側にシンボルツリーなり、生垣なり、緑を植えるんです。そう考えるとカーポートが当たり前で、植栽は二の次、と言う考えに片寄りがちな長岡市内の家と、カーポートなんかとりあえず要らないから家を引き立たせるために樹木を数本植える新潟市内の家では見た目が違うのは明白なわけです。カメラマンさんはその辺の視点で写真栄え、そして写真の撮りやすさを考えておられたんでしょうね。

雪国の住まいの現実路線。

稲 垣
では、長岡市内の家で立派な庭なりシンボルツリーがあるお宅がまったく無いのか?と言うと、決してそうではありません。広い敷地に立派な庭があるお宅はたくさんあります。ここで語りたいのは若い世代の方がご自分達だけの住まいを新しい団地に建てる場合はどうなんだろうか、ということで考えて見ます。ほとんどの方がカーポートはカッコいいものじゃないという認識はお持ちです。本当はカーポートなんて無いほうが自分の家は見栄えがするということもご存知なんです。では青空駐車を選択されるのかというと、ほぼ全員の方が選択されない。冬になれば、雪が降れば、毎朝の出社時に車に積もった雪を落さなければ出て行けない。ほんの3ヵ月程度だけれど、その3ヵ月間、毎日のことだからカーポートは必要。それは車を大切にするということとは別なんですよね。また、緑は欲しい。けれど手入れが大変だし、雪囲いなんて自分じゃ出来ないから造園屋さんにお願いしなければならない。子育て世代の若い方々のそういった余裕があるとは考えにくいんですよね。ですので、雪国の住まい造りでは『わかっちゃいるけど現実路線』を選択してしまう。それは仕方のないことなんだと思います。
編集部
確かにねぇ。僕もご他聞に漏れず、新築した時に、自分で庭木(夏椿)を買ってきて、いそいそと植えてみましたが囲いなんて出来るわけも無く、いや、やろうと思えば出来たのかもしれないけれどそんな気にもなれず、一冬越した僕んちの夏椿は無残な姿で枯れました(笑)。それ以来、僕んちでは木を植えようと言い出す人間は誰もいません。
稲 垣
ありがちですね(笑)。雪国特有の高床式住宅の場合、カーポートはもともと必要がないので当然つけませんが、同じように庭木を植えられるお宅は少ない。たぶんこう言うことなんだろうと思います。広い敷地に高床式住宅を建てる場合、多くの方は屋根を自然落雪にされます。雪がどんどんと家の周りに落ちるわけですから、そこに庭木なんか植えたところでどんな悲惨な状態になるのか容易に想像できます。市街地の高床式住宅では元々敷地がそんなに広くないから選択した高床式住宅。間口の決して広くない敷地に車の出入りのシャッター2箇所と玄関(または玄関に至る外階段)が有るわけですから、そもそもシンボルツリーを植える場所が無い。そんなことを考えていると、雪国で暮らすということは色々な制約があるということを再認識させられます。
編集部
そう考えてみると、住宅雑誌に掲載されているような町並みが形成されている団地というのは長岡では思い当たりませんね。それは長岡人が町並みや緑のことを考えていないということではなくて、雪という、避けては通れない敵とうまく付き合っていくDNAがそうさせているのかもしれないと思えます。
稲 垣
カメラマンさんはこうも言っていました。『その代わり、長岡の家はお隣との境目がはっきりしていない。それは多雪地域特有のことかも知れない』と。これを僕は褒め言葉と受け取りました。つまりは、敷地の境界線にアルミのフェンスなんか建てたところで雪がどっさり降ってしまえばアルミなんて一年でふにゃふにゃに曲がってしまう。雪の処理のことがあるからブロックやコンクリートで高い塀も造らない。せいぜい跨ぎ越せる程度の塀と呼ぶにはあまりにも低い境界塀しか造らない。雪下ろしの時期に、お隣の下した雪が自分ちの敷地に入ったところで目くじらなんて立てない。
 雪下ろしをして、短い時間道路が通りにくくなったとしても仕方ないと思える。それはお互い様だから。雪国に暮らすということは雪との戦いと、雪による様々な制約の中で暮らすこと。けれど雪国人気質はそんなことは気にもせず、"ドブねずみ色"の冬を大らかに暮らす。ドブねずみ色の毎日の中でたまに顔を見せる青空を待ちわびながら大らかに暮らす。そう考えると悪いことばかりじゃないなと思えます。僕は長岡が好きです。