住まいの価格

今回のテーマは、「住まいの価格」。
一般的には"坪単価"で考えることが多いようですが、実は……。
イラスト
稲 垣
ずいぶん前に一度だけ住宅価格の話をしたことがありました。その時にも冒頭で申し上げたと思うのですが、私ども「稲垣建築事務所」はその社名からよく誤解されるのですが設計事務所ではありません。設計と施工、双方のプロが居る工務店とお考えください。現在自社大工が6人居る工務店なんです。ですから私たちにとっても住まいの価格と言うのは重大な話なんです。
編集部
坪単価の話ですか? 以前お話されたときに坪単価は一つの目安でしかなく、それだけで高い安いを語れるものではない、みたいなことおっしゃってましたが?
稲 垣
その通りです。坪単価は一つの目安にしか過ぎません。例えば外装、内装、キッチンやお風呂などの設備機器に始まり、細かく言えばコンセントは何個とかそのメーカーさんなり建築屋さんで決めた「標準的な仕様」に則った"坪単価"なら口頭で言えるはずです。しかし、それすら本来は目安にしか過ぎません。間取りが違い、面積が違えば、本来、坪単価は変わるはずなんです。逆に変わらなければおかしい。
 30坪と50坪の同じ外壁、同じ屋根、同じ内装、同じキッチン、同じお風呂の単世帯の家があったとします。同じ建築屋さんなりメーカーさんの造った家です。坪単価が同じなのはどう考えてもおかしい。なぜならキッチンやお風呂といった水廻りはコストが集中する部分です。その仕様がまったく同じで、かつ単世帯ですから数も同じだとすれば広いほうの50坪の家の方が坪単価は安くなって当然です。
 同じ考え方で、50坪の単世帯の家と、50坪の2世帯完全分離住宅でも坪単価は劇的に違います。キッチンやお風呂が2箇所ずつある家と、1箇所しかない家では同じ面積でも総体価格はまったく違うんです。わかりますよね?
編集部
良くわかります。平屋より総2階が、小さな家より大きな家の方が、凸凹した家より間四角な家の方が、下屋があるより無いほうが、坪単価は安くなる。これは以前に稲垣さんから教わったことですよ。
稲 垣
そうですね。あとは窓の数とか、間仕切壁の長さとか、ドアや引戸の数とか、住まいの価格を左右する事柄は山のようにあります。多くの建築屋さんが賛同して頂けると思うのですが、坪単価だけで高い安いは語れないということです。では、なぜ未だに坪単価なんて言葉が一人歩きしているんでしょう? これは単純な話、わかりやすいからに他ならないと思います。簡単なんですね。概算的に予算を把握するのが。
 だって坪単価に大した意味は無いと知っている建築屋さんでさえ、お客さんと始めて話をするときは必ずするはずです。坪単価の話を。まあ、僕もその一人ですけれど(笑)。家を建てようと考えている方は坪単価をある程度頼りにしてその建築屋を計る。建築屋側は坪単価を目安にお客さんの予算を探る。当初はそんな探り合いの手段として使用されているような気がしてなりません。

御社の坪単価はいくらですか?

稲 垣
逆に言えば、こう言って頂けるお客様ならもっと話しは簡単ですよね。『坪45万円で40坪の家、つまり総額1800万円の家を建てたいが、こちらの会社ではその予算の中でどういった提案をしていただけますか?』と。ここでポイントなのは坪単価ではなく、総予算額と住まいの面積がはっきりしていること。例えば総額だけ指定して間取り作成を依頼したら間違いなく40坪以下のプランしか出てきません。40坪という面積しか指定しないなら価格が不透明です。広さと価格、この二つを決めた上で数社の建築屋さんから間取りや材料や設備機器を提案してもらえば、あとはその中のどの提案を選択するかでしかありません。
編集部
すごく何気なく言いますが、思い切ったこと言いますね。数社の建築屋さんから提案してもらえばいいだなんて、本来、建築屋さんからしたら競合他社は居ない方がうれしいんではないですか?
稲 垣
そりゃそうです(笑)。けれどね、僕だって大きな買い物、例えば大型のテレビとか買うときは家電屋さんを回りますよ。まあ、テレビの場合はモノが同じ物ですし、価格以外に提案もなにもないと思いますが。だから僕は価格が同じであればここから買いたいと思う家電屋さんはあります。
編集部
建築屋として、同じ土俵の上なら、面積と価格を縛った上なら、自信ありと見ていいですか?
稲 垣
すべての建築屋さんが自信を持つでしょうね。僕がこのやり方がいいなと思うのは、建築屋の考え方の違いが見えやすいと思うからです。どんな間取りを提案し、どんな材料をプレゼンするのか、業者によって様々だと思いますから迷ってしまわれるかもしれませんが、間違いなく違いは見えるはずです。
編集部
思い切ったことを言う稲垣さんに質問です(笑)。僕が家を建てようとしている人間だと思ってください。お聞きします。『御社は坪単価いくらくらいですか?』
稲 垣
なんだ、そんなことですか。別にお答えしますよ。
 『ここ5年間で"坪単価"で一番安いお宅は35万円です。ただし立派な家ですが100坪超の大きな家です。平均的な大きさ、35〜40坪くらいだと平均40〜48万円ですね。巾があるのは間取りや材料によって変わるとお考えください。具体的にはすべてのお宅にお客様が居られるわけですから言えませんが、40坪、総額1900万円というお宅もあります。もちろん税込み、必要な物はすべて付いている状態。つまりお引渡しの瞬間からお住まいになれる状態までの価格です。僕等は"高額"な住宅しか造らないという目で見られることが多いですが、それは濡れ衣です(笑)。高級ではなく上質な家造りを目指しています』。
編集部
ぶっちゃけますね (笑) 。お付き合いは長いのに初めて稲垣さんの会社の価格を伺いましたが……案外アレですね……高くないですね……僕も高いと思い込んでいた一人かもしれません。
稲 垣
でしょ? 間取りも決まってない、仕様も未定の状態でお客さん側と建築屋側の頭の中にあるものがミスマッチな可能性もありますから、坪単価だけを一人歩きさせないほうがいいですよ。たかが坪単価、されど坪単価。"時価"では怖いのであくまでも目安としてとらえ、ご家族がどんな暮らし方がしたいのかを考え、それを容にできる建築屋を探されることです。蛇足ですが、坪単価に含む工事内容は会社によってバラバラです。照明器具が別。地盤調査費用は別。コンセントなんて個室に一個。こう言うところと、それらを最初から住まいとして必要なものと捕らえて坪単価に含めて考えているところとバラバラです。ですから、なおさら坪単価ではなく、あくまでもご自分の予算総額内で最大限理想の住まいをお手伝いいただける建築屋を探すべきです。

3.11のあの日から半年が経ちました。以前もこの紙面に書きましたが、地震当日に僕は福島県郡山まで行ってきました。正直、郡山そのものは大した被害は見受けられなかったと思っていますが、通る車も無く、幹線道路以外の信号は消え、町中が真っ暗。中越地震のあの夜と同じでした。感じられたのは町中を包む緊張感。まるで息を潜めて何かが通り過ぎるのをじっと待っている様な感覚になりました。
 半年が過ぎて、ややもすると忘れがちになってしまう被災地の事。そして原発事故。止まらない余震。規模が違うとはいえ、僕等と同じく地震で被災した隣県や東北を忘れちゃならないと深く反省しています。
 たった一発の地震で多くの方々の尊い命が奪われました。ただただ、手を合わせるのみです。