3.11以降の住まい造りを考える

東日本大震災の教訓を住まい造りにどう活かしていくか……。
今回、キーワードとしたのは「耐震・節電・地盤」の3つです。
イラスト
稲 垣
地震の専門家は口を揃えて、日本は、あるいは東日本は数年間から数十年間『揺れ続ける』との見解を発表しています。東日本は3.11のあの地震で5m以上水平に移動しています。よって各プレートや地盤に掛る力が大きく変わってしまい、比較的安全と見られていた活断層でさえ危険。つまり東日本、もちろん新潟県も含んだ地域内の活断層は動きやすい状態にある。ということなんだと思います。
編集部
東日本大震災から5ヵ月が経とうとしている今、正直申し上げてあの時のショックは和らぎ、ともすると被災地を忘れてしまう日々も多くなってきています。稲垣さんはブログやこうして話をさせていただく時でも常に被災地を想っておられるのがよくわかる。それは職業柄でもあるのでしょうけれど、やはり実際に被災地を見てこられたからなのだろうと思っています。顔に似合わず優しいんですよね……(笑)。
稲 垣
絶対最後は落すんだろうなと思いながら聞いていました(笑)。現代を生きる全ての日本人にとって、真っ黒な津波が田んぼを駆け上がり家々や多くの車を飲み込みながら沿岸部を壊滅させた映像はトラウマとして残ってしまうんでしょうね。少なくとも僕の中には残っています。実際に被災地で見たもの、その匂い、違和感を覚えるほど平穏な日差し。たぶん一生忘れません。
 今回の地震被害の多くは津波災害によるものです。地震の揺れそのものではあまり被害が目立たない。それは以前ご説明した「キラーパルス」が無かったせいに他なりません。千年に一度と言われるこの地震から僕たち「住宅屋」が学ぶべきもの、大上段に構えて言えば、後世に伝えなければならない事こそが3.11以降の住まい造りに直結しているのだと思います。とは言え、ここ長岡で津波を心配する必要はありませんよね。キーワードとしては「耐震・節電・地盤」だと思うんです。

【耐震】

すでに新築住宅の耐震化は当たり前のようになってきています。では、現在建てられているすべての住宅の耐震性が全てイコールなのかと言えば決してそうではない。造り手にも色々な考え方があるわけで、法律を遵守してさえいればそれでいい。と言う考え方も有り、それが決して間違っているとも声高には言えないわけです。僕は法律、つまり建築基準法は、その第一章・第一条ではっきり書かれているように、建物を造る上の『最低の基準』だと思っていますので、法律をクリアしていることが安心への後ろ盾だとはまったく思っていません。とは言え、建物を硬く固めすぎる、つまりあまりにもオーバースペックにしてしまうとその部分にコストが集中し、トータルでバランスの取れた住まい造りにはならないと思います。  以前から何度もお伝えしてきましたが、僕の基本的考えは、住まいにおいて何を置いても一番大切なものは『安全』。この安全という広義の言葉の中でも特に耐震性が最重要だとお伝えしてきました。その上で間取りもコストも「耐震性以外の全ての事」は等しく2番目に大切な事だというのが僕の持論です。僕の父は大工の棟梁でしたので大工さんの意見は大切にします。経験値から得られる担保というものはあると思うので。しかし、誰かが「この家は安全だ」と言い放ったところで、それが経験値や、柱が太いとか筋交いが多いとかいう見た目での判断ではなんの根拠にもならないとも思うわけです。僕が何度も申し上げているのは『安心の後ろ盾』を手に入れるべき。つまり構造計算です。木造住宅の計算は簡易な計算でされることが多いです。しかしそれでは「最低の基準」に乗ったやり方です。どうか簡易でない、計算書だけで軽く50頁を超えるような構造計算をすべきだと思いますし、僕等はずっと続けています。  そんな僕が3.11以降に徐々に取り入れ始めているのは『制震』。他にも免震という考え方も有るのですが、いかんせんコストが高い。僕が目指しているのは軸足は耐震性に置いていたとしても、インテリアやその他の部分も含めてトータルでバランスの取れている住まい。そこで選んだのが制震です。コスト的には例えば建坪20坪、総2階40坪の住まいだとすれば、大雑把に坪1万円くらいのアップ。40坪なら40万円のアップです。この金額を安いと見るか高いと見るかは判断の分かれるところですが、それで、実際の地震の揺れが1/3から間取りによってはそれ以上軽減されるなら決して高い投資では無いように思います。

【節電】

3.11のあの地震以降、全国の原発が不安視されています。正直、15%の節電は僕個人で言えば自宅でも会社でも大して難しいことではなかったと思っています。それだけ電力の無駄遣いを続けてきたという事なのかもしれません。原発が不安視され、再生可能エネルギーもお題目ばかりが先行し実現が不透明な今、強い日本を取り戻すのは産業界に過度な節電を強いないことに尽きるような気がしています。  そこで僕みたいな住宅屋に出来ることといえば、少ないエネルギーで快適に暮らせる住まいの提供以外には有り得ないと思っています。ただ、単純に太陽光発電には飛びつきませんよ。対費用効果という観点では(ここ長岡では)元が取れるものでは無いと思っていますし、それを度外視したとしても、太陽光発電パネルをこの豪雪地のどんな家の屋根にも乗せられるものでは無いと言うこと、その雪国の屋根に乗せる事がどれだけリスクを背負う事なのか、という事がアナウンスされていないと思っています。  節電で言えば僕は基本的なことを初心に還って愚直にやる。という事以外に無いような気がしています。例えば断熱性や遮熱性を高める。真夏でも暑くなりにくい住まいを造り、少ないエネルギーでより冷暖房効果を高める。この断熱、遮熱性能を一段引き上げる事により割と簡単に節電可能なのではないかと思っています(僕自身が体験済みです)。そしてもちろん自然エネルギーの活用。自然エネルギーと言っても間取りや窓の取り方一つでタダで手に入る、冬の日差しの活用、夏の日除け効果、そして風通し。こう言った大昔から日本人が手にしていた自然の効用をもう一度足元から見直す事から始めようと思っています。

【地盤】

長岡市を含み新潟県全体は相対的に地盤が弱いといわれています。そう言えば、地盤の液状化という言葉が一般的に知られるきっかけとなったのは新潟地震なのだそうです。その後も大きな地震があるたびに液状化被害は後を絶たない。今回も千葉県浦安や茨城県内等、地盤の液状化による建物の被害はすさまじいです。基本的に砂質地盤で、地下水位が高い地盤、つまり水と砂が混ざり合った地盤に液状化は多いとされています。  昨今、お住まいを新築する際に地盤調査を実施し、地盤が脆弱であれば地盤改良工事をするということは当たり前になってきましたが、一般的な住宅新築工事時に施工される地盤改良工事がイコール液状化対策になるわけではないことをご承知置きください。液状化が心配される地盤にはそれなりの地盤改良工事が必要になります(紙面が足らないので詳しいことはまた後日)。

編集部
なんだか、今まで稲垣さんが言い続けて来たことが基本にあるんですね。
稲 垣
そうですね。3.11以降、僕等の今までの基本的は住まい造りの考え方が間違って居たとは思っていませんので従前の考え方が基本にあります。そこに制震や遮熱の考え方を乗せていこうと考えています。  節電サマーもあとわずか。今年も「夏の終わりの匂い」を感じる前に夏が行こうとしています。思い返すと暑い7月、そして水害、すごしやすい8月とここ最近と同じように変な夏でしたね。夏生まれの僕としては淋しい限りです。  残暑も厳しい可能性があります。皆様ご自愛ください。