Pray For NIPPON 〜ニッポンのために祈ろう〜

建築家としてではなく、体力勝負のボランティアとして 被災地支援に向かった稲垣さん。現地で感じたこととは……。
イラスト
稲 垣
大型連休前半、東日本大震災の被災地、宮城県のある場所に仲間19人とバスを仕立ててボランティアに行ってまいりました。中越地震、中越沖地震では応急危険度判定や被災度判定、住宅相談窓口業務のお手伝い等、仕事、あるいは資格の延長上にあるボランティアのお手伝いは経験がありますが、今回は現地ボランティアセンターにすべておまかせして、津波により浸水したお宅の泥出し、瓦礫の片付け等々体力勝負の作業でした。普段運動不足の僕はさすがにへとへとになりました。  各市町村のボランティアセンターは連休ということもあり、千人を超えるのではないというくらいのボランティアが集まっていました。中には沖縄の方も。日本全国から被災地のお手伝いがしたいという想いだけでとてもたくさんの方々が集まっていました。そのボランティアを配置するセンター側の方も大変な思いをされたと思います。もし、もう少し落ち着いたらボランティアに行こうと考えられている方は、必ず事前に現地のボランティアセンターに問い合わせをして、必要な物や被災された方のニーズを伺ってから現地入りすることをお勧めします。もちろんボランティアは自己完結が原則ですので、宿泊先、食事、移動手段等々すべてはボランティア側で用意し、現地にはなんの心配もご迷惑も掛けないのが鉄則です。  恐らく、泥だし等の重労働はもう暫くすると一段落する時期を迎え、これからは仮設住宅の掃除や引越しのお手伝い等の作業へのニーズが増えるのではないかと思います。連休中、各ボランティアセンターは受付を締め切るほどの人数が被災地に集結しました。けれど、阪神大震災の時に比べるとボランティアの数は圧倒的に不足しているそうです。僕も現地にて肌で感じて思いました。何人居ても足らないと。いずれにしろ現地にはこれからも長い支援が必要だと感じています。
編集部
せっかく誘って頂いたのに仕事のスケジュールが動かせなくてご一緒できなくてすいませんでした。現地はどうでしたか?
稲 垣
まず、僕の発言に不謹慎な言葉があったらご容赦ください。僕達は被災した方のお手伝いをしに行きました。正直言えば津波にさらわれて何もなくなった状態を見たいという気持ちがなかったわけではありません。けれどそれでは被災地見物に来て現地に迷惑を掛け、ひんしゅくを買っている方々と変わりなくなってしまいます。ですので本当に何も無なくなった場所はあえて見ていません。けれど、それでも、現地はまさに天国と地獄です。本当に観測史上最大の地震に襲われた場所なのか?と言うくらい、何事も無い場所もあります。いえ、むしろ被災地と一括りで呼ぶには違和感があるくらい外観目視ではなんともない場所の方が多いです。もちろんそんな軽微な被害の場所だけではなく、建築専門誌を見ると仙台市内の高台の住宅地は地盤崩壊。中越地震の時の市内高町団地の地盤崩壊の何倍もの家々が地盤とともに崩落しているらしいです。
 津波で浸水した地域はどこから流れてきたのかさえわからない瓦礫、車、海苔や牡蠣の養殖に使われていた竹や網、様々な生活用品、そして淡水魚や海の魚、50日以上経ってもヘドロの中で生きている小さな蟹、作業に入ったお宅の床下からは猫の水死体も出てきました。テレビでは何度も同じような風景を見ていますが、現地にはその平面的な風景に、奥行きと、匂いと、儚さと、悲しみ、なんだか心に染み渡る日差しの平穏さ、色んなものが加わって僕を含めて全員が言葉を失い、ただ黙々と作業をしていました。これは地震災害ではなく津波災害なのだと改めて認識しました。
編集部
意外です。津波被害が無いところでもあれだけの地震とその余震でかなりの建物が被害に合っているという印象でした。被害が少ないところもあるんですね?
稲 垣
あります。本当にここに大地震があったのか?と思わせるくらい。もちろん外から建物の外観を見ただけでの判断ですが、僕達が経験したニ度の大地震でも同じ様なことがありましたよね。被害の度合が場所によって全然違うということ。地盤崩壊以外で被災地の甚大な被害は間違いなく津波によってもたらされたものです。本震から暫くした頃、今回の大震災は観測史上最大だった割りに津波や地盤崩壊ではなく、地震の揺れそのもので倒壊した建物が少ないと様々な研究機関が発表しました。その原因は『キラーパルス』が無かったからだということです。

木造住宅が倒壊する揺れの周波数。

編集部
キラーパルス。……以前も稲垣さんの口から聞いたことがあるような……。
稲 垣
はい。中越沖地震の時にこの話はさせて頂きました。ちょっと乱暴ですが、地盤が揺れることを地震と呼びます。揺れは波。波は周波数で現すことができます。木造住宅が一番倒壊してしまう周波数をキラーパルスと呼びます。周波数1〜2秒の波が木造住宅にとってのキラーパルス。なぜその周波数なのかというと、多くの木造住宅が『共振』してしまう周波数だからです。1〜2秒の周波数の波で建物が揺れると、それ以下の周波数で揺れたときより大きく揺れてしまう。これを共振と呼びますし、その正体がキラーパルスです。東日本大震災の揺れの周波数は殆どが1秒以下だったと言われています。観測上、平均値としてほぼすべての地震周波数は3Hz以下だということがわかっています。ということはそれ以上の周波数を持つ建物にすれば地震に共振しない木造住宅になるということになります。木造住宅の持つ強さがその周波数に共振しないように造る。これだけで木造住宅の『倒壊』の数は少なくなるはずです。
編集部
わかったような、わからないような話です……。
稲 垣
ですよね。そんなに難しい話では無いけれどあまり聞きなれない言葉の羅列ですから馴染みが無くて当然です。実際、建物が持つ固有周波数を予測することは可能ですし、実際に完成した建物の周波数を調べるのも可能です。非常におもしろい実物実験です。近いうちにどこかで公開実験しますのでご興味がある方はお越しください。詳細は追ってご連絡いたします。

中越地震、中越沖地震、二度の震災を経験した僕達だからわかる痛み……そんなことを言うこと自体、ひょっとしたら生ぬるいかもしれない。綺麗事かもしれない。被災地の方々が経験された恐怖、見てしまったものの重さ、僕達が見てきたもの、経験したこと、それを持ってしても恐らく想像を超える惨状です。けれど、それでも、ボランティアの胡散臭い僕等に現地の方々はありがとうと言ってくれます。大して遠くない新潟県から伺った僕達に手を合わせて『遠くからありがとう』感謝の言葉を頂けます。被災地で、すれ違う現地の方々は必ずと言っていいほど『ご苦労様。』と声を掛けてくれます。被災地で見かけた子ども達は笑っていました。  被災地で感じたこと。がんばってます東北。ぎりぎりの状態でがんばってます。これから本当にがんばらなければならないのは僕等です。被災地以外の日本全体です。スポーツ選手や芸能人が被災地を訪れ、最後に決まって言う言葉、『逆に元気を貰いました』。僕はこの言葉を社交辞令、あるいは綺麗事だと思っていました。けれど、恐らく本心の言葉です。なぜなら僕達19人も元気を頂いたから。
 19人で最後に伺ったお宅はご家族で海苔を作られていたそうです。家も工場も、大きな機械も3メートル近く浸水しています。機械は恐らくもう駄目なんだろうと思います。僕等が作業を終え、帰ろうとした時、お父さんとお母さんが僕等に紙袋を差し出されました。
『これ、私らで作った最後の海苔だから、持っていって』 最後の海苔……そんな貴重なもの頂けませんと断っても、気持ちだからと強くおっしゃいます。……ありがたく頂きました。翌朝食べました。久しぶりに本物の海苔の香りと味を感じながら。少し涙が出ました。そのご家族、僕等が乗るバスを最後まで笑って手を振って送ってくださいました。
 ここで人が生きて行く限り、必ずこの街にも灯りは灯りだすのだと確信しました。この「まるごと生活情報」が皆さんの手元に届く頃、僕はまたあそこに居たいと強く思います。