フィクション:家造り物語2

フィクション・Aさんご夫妻の家造り物語。 30代前半のAさんご夫妻が家造りを目指します。間取りは決定。その先のご提案をご紹介します。
イラスト
編集部
前回までで間取りの話は終わりました。今回はなんのお話ですか? ところで金額的にはAさんの予算内で収まったのでしょうか? まあ、フィクションですから収まりますよね(笑)。
稲 垣
金額的には若干の予算オーバーでした。フィクションですけどね(笑)。
ただ、これから僕がお話しする内容でAさんの目指す住まいと金額のギャップを埋めました。住まいの金額の話になると必ず持ち出される言葉が『坪単価』。
坪単価という考え方はこの紙面でも何回かお話させていただきました。坪単価はいい意味でも悪い意味でも、進化することなく、いえ、むしろ退化した形で現在の住まい造りにも残されている昔ながらの慣習だと思っています。僕たちのお手伝いする住まいでは……恐らく他のご同業者も同じだと思いますが、坪単価はあくまでも目安でしかありません。
 極端な例を挙げますが、50坪、2000万円であれば坪単価は40万円。その時のキッチンの価格が100万円だったとします。奥さんがキッチンにこだわって仕様を変更して150万円のキッチンになれば単純増で50万円価格アップになります。
それだけで坪単価は1万円上ってしまうわけですよね。同じようにフローリングを坪当たり5000円の建材フローリングから20000円のムクのフローリングに代えれば、坪当たり15000円増額になってしまうわけです。まあ、家中にフローリングが張られるわけではないので大雑把な目安ではありますが。坪単価の話をあまり続けても意味があることとは思えませんのでこのくらいにしておきます。
 さて、Aさんご夫妻はLDKの床に濃い色をご希望でした。プラス床暖房。僕等がお手伝いする住まいは基本的にムクの木の床を使います。前回もお話した通り床暖房対応のムクの床材もあることはありますが、乾燥が不十分だったりした場合は床材が反ったりねじれたりしてしまいます。床暖房で直接床を暖めるわけですからそのリスクとは背中合わせです。
僕はただムクの床を使えばいいとは思っていません。例えばその床に塗装をして着色してしまうならムクである必要はないとさえ思っています。
つまり、その木がその木として何十年何百年も大地に立ち、二酸化炭素吸収をしない樹齢に達し、床材という新しい使命を持って生まれ変わった時に、その木の本来の色を変えてしまうのは、その木にとって失礼極まりないことだと思っています。だから僕は床には色を着けません。
しかしこのポリシーが時として邪魔になることがあります。木には白木から淡い赤、淡い黄色、こげ茶、真っ黒に近い色、あまりご覧になったことがある方は居られないと思いますが、真紫を素材の色として持つ木もあります。
少し乱暴な言い方かもしれませんが、素材の色が濃くなるほど価格も高い床になります。

高価な床材は代替品を提案。

稲 垣
何が言いたいか判りにくいですか? すっごく回りくどくなりましたが、
○着色せず素材の色が濃い床は高価。
○節の無いムクの床は高価。
○床暖房対応のムクの床材も高価。比較的安価な床暖房対応フローリングもありますが、いまひとつ信用できない(出所がはっきりわからない怪しい材料は探せばいくらでもあります)。
○床暖房用のムクのフローリングにだけ予算をつぎ込むわけには行かない。
ということで、Aさんご夫妻のお話から僕は夫妻が求められているフローリングの色はウォールナットという北米のクルミの木か、アメリカンブラックチェリーという日本の桜によく似た木のフローリングをイメージしました。が、なんと言ってもそれらの床暖房用のフローリングの材料だけで坪当たり5万円以上もするわけですから結果は火を見るより明らかでした。
 代替品として提案したのはアッシュという木。日本にもあるタモという木と表情が似ている“白木”です。濃い色じゃないじゃん! と突っ込まれそうですが、実は色は濃いんです。乾燥の過程で濃い色に変わるんです。その乾燥方法が『燻煙(くんえん)乾燥』と呼ばれる乾燥方法。
燻製を作る方法と同じで木を燻して乾燥させます。極端に言えば木を焦がすんですね。
例えば何百年も経った古民家の現しの梁(はり)材は、囲炉裏や釜戸の熱で長い年月の間で燻煙乾燥されているわけです(塗装されてしまっている場合もあるらしいのですが)。
決してほこりを被って汚くなってあの色になっているわけではありません。塗装で着色していないだけで素材の色そのものではないのでは? と言われてしまえばその通りかもしれません。けれど燻煙乾燥した材料がすべて同じ色になるかというと決してそんなことはなく、木の種類によって乾燥後の色は様々です。金色っぽく変色する木もあれば、アッシュのように元々は真っ白い木なのに燻煙されることによってウォールナットに近い色になる木もあります。
燻製されているわけですので乾燥状態も良好で寸法安定性に優れています。
編集部
床の話だけで繋ぎますね〜(笑)。けれど予算を調整したのはそこだけではないのではないですか?
稲 垣
Aさんのお住まいはその他にも減額提案をさせていただいた箇所があります。多岐に渡りますので詳しくはご説明しませんが、どれも耐震性、耐久性、断熱性などの、家の基本性能自体にはまったく関係ない部分でのみご提案しています。
編集部
稲垣さんが言い続けていることですね。家の根幹に関わる部分をいじっては駄目だと。今年も終わりますが、Aさんの家造り物語は続くんでしょうか?
稲 垣
家造り物語は今回で中締めということにさせていただきます。フィクションなのかノンフィクションなのかは煙にまいたままにさせていただきますが、Aさんが実在するなら他のお客様の住まい造り同様に、僕はAさんの住まい造りに便乗して一緒に楽しませていただこうと思っています。
 2010年も間もなく終わります。1年間ありがとう御座いました。
2011年も、より突っ込んだ住まいの情報を発信して参りたいと思います。良いお年をお迎えください。