フィクション:家造り物語2

さあ、稲垣さんが言い張る“フィクション”の家造りも、 いよいよプラン決定……のはずが問題発生!
イラスト

Aさんご夫妻のフィクション・家造り物語。30代前半のAさんご夫妻が家造りを目指します。間取りの打合せは着々と進んでいるように見えて……。

稲 垣
本来であれば、ほぼ間取りも固まりつつある時期です。前回の紙面でもご紹介した、

○将来的に同居される親御さんの部屋は最初から造ってしまう。
○子ども部屋は南向きで快適である必要はまったくない。
○当初は3人の子どもさんの個室は造らずに大広間とする。

 という僕からのご提案は受け入れていただいています。僕が間取りを考える時、当たり前のように間取りに入れる外収納や、室内物干スペースは雪国の住まいとしては譲れない部分ですから当然考慮されています。他のご提案としては、親御さんの部屋を造ってしまう代わりに将来的に2階にウッドデッキを設けられるようにする。
2階にウッドデッキがあると、長岡花火の特等席になり得るのではないかと思いました。
 ベランダやバルコニーではなく、ウッドデッキというところがミソです。Aさんは住まいの外壁を板金屋さんに加工してもらうスパンドレルという材料で、しかも真っ黒い家をご希望でした。
しかしそれだけでは味気ない建物になってしまう。外側に少しでも木を使うことで建物の見せ方を締めようと考えていました。
 編集さんもご存知の、僕の右腕の真島がプランをまとめました。おおむねご希望通りの間取りが出来ていました……ところが問題発生。問題発生と書くと誤解を招きかねませんので、以下の内容を前提として知っておいていただきたいです。

○ 初回のお打合せを経てご提案したプランで、Aさんご夫妻は納得されています。
○バーチャルな世界ですが、小さなお子さんたちを含めてその家で笑顔に包まれた生活はすでに始まっている。
 つまり、Aさんはご提案プランを気に入っていただけていたわけです。……ですが、なにかスッキリしない。スッキリしないのはAさんご夫妻ではなく、僕自身。
どんなにその間取りを気に入っていただいていたにしても、とにかくスッキリしない。生意気なようですが、僕自身がスッキリしないといい家造りは出来ないのではないかと思っています。この紙面では言い現せなかったAさんご夫妻の言葉の端々に感じ取れる希望を僕等なりには汲取ったつもりでいました。事実、そのプランをAさんは気に入っていただいているわけです。決して失敗しているわけではない自分等で作った間取りがシックリこない……。
これはとても気持ちが悪いんです。その僕自身のわがままのために、Aさんに再度間取りのお打合せをお願いしました。
編集部
う〜ん。疑問が2つあります。ひとつめはそのスッキリしない感覚は何なのか。ふたつめはそんなに具体的なのにまだフィクションだと言い張るのか(笑)。
稲 垣
まず、ふたつめの疑問は……まあ、いいじゃないですか。前回も言いましたように僕は夢見る妄想家ですから(笑)。ひとつめの疑問は『恐らく』と言う理を付けますが、施主であるAさんが気に入り、納得していただいていても僕自身はまだベストではないと感じていたのではないでしょうか。何か、僕等もAさんも気が付いていない矛盾点があるような気がしてなりませんでした。
 そこでAさんと一緒に、出来上がった間取りを前に暮らし方とか動線(人の動き方)を再確認してみたんですね。それと窓の取り方。実はここにAさんの強い要望がありました。窓の大きさと形、つまり開閉方法ですね。外観をスッキリ見せたいがためだけに窓の大きさや開閉方法を決めていいのかという基本に立ち返って様々なことをご質問しながら確認していただきました。答えは案外簡単なところにありました。

スッキリしない違和感の原因。

稲 垣
まずはリビングからキッチンの見せ方、隠し方と言い換えてもいいでしょうか。ご夫婦の間に考え方のズレがありました。奥様が思い描く見せ方(隠し方)と旦那さんの考え方がズレていたのです。もっとも男性である旦那さんはキッチンその物というよりはリビング、ダイニングとキッチンの繋がり方を意識されていて、キッチンがリビングやダイニングにどう繋がるのか、どう開いて、どう閉じるのか、と言う部分に感覚のズレがあったんです。
Aさんご夫妻と打合せをさせていただいていて、僕の中に残った違和感はここだとわかりました。ご夫婦でそれぞれ同じ方向を見ているようでいて、実は考え方に若干の違いがあったんです。これは設計者が直接お話を伺わないとわからない部分だと思います。
 もう一つは窓の取り方。陽の入り方は意識はしていたものの、Aさんが強くご希望されたのは、外観をシンプルに見せたいという理由から嵌め殺し窓(ガラスだけの開かない窓)を道路側に多く使うと言うご要望でした。あまりの強い要望だったのでそのまま図面化してしまいましたが、例えば窓を拭くという作業、風を入れるという行為、そんな当たり前なことを無視して住まいは成り立たないということをお話しました。そこで、窓の取り方、開閉方法、そして窓拭きをどうするかというところまで詰めて話をさせていただきました。
編集部
なるほど。僕自身、家造りを経験していますからよくわかります。夫婦で同じ夢を描いていても、いかんせん素人ですから微妙に違う考え方を大くくりにしてしまい、同じことを考えていると錯覚してしまうこともありますよね。僕んちも2階の一部の窓に上下窓を付けたのですが、外側から掃除が出来る1階ならまだしも、2階ではとても掃除がしにくい。というか、どうしても手が届かずに、新築後一度もガラスを拭けない部分があります(笑)。
稲 垣
案外簡単な所に違和感の原因があったことがわかり、ほんの少しプランを修整して間取りは決定しました。そして話は見積りへと流れていくのですが、ここで予想もしていなかったご要望が飛び出します。『LDKに床暖房を施工したい』。ご存知の通り僕等がお手伝いするお住まいの居室の床は100%ムクの木です。合板の上に薄いシートを張った建材メーカーの床材ではありません。
ムクの床材で床暖房対応の材料もあることはありますが、やはり床材を直接暖めるわけですからムクの床材では暴れるのではないか……ああ、暴れるというのは床材が反ったり、ねじれたりすることを言います。床暖房をしなくてもほんの少し目地が開く等のリスクは承知しておかなければならないのがムクの床材。それが床暖房となると材料の選定が重要になります。
 しかし、僕には秘策がありました。『床暖房』というキーワードが出てすぐに、ある材料が僕の頭の中にありました。この材料ならムクの床でもリスクはかなり少ない。その材料の話は次回に。
編集部
リアリティがあるなあ……ノンフィクションに間違いないな。この話が稲垣さんの妄想なら頭おかしいですよ(笑)。
稲 垣
いいえ、この話はフィクションです。僕の経験上実際にあったいくつかの話を織り交ぜて一つの話にしているだけですよ(笑)。