フィクション:家造り物語2

何度も申し上げますが、あくまでもフィクション……ということで 話が進行している「家造り物語」の第3回目です。
イラスト

Aさんご夫妻のフィクション・家造り物語。30代前半のAさんご夫妻が家造りを目指します。土地は決まりました。間口は広くありませんが南向きの土地。資金融資の目処も立ちました。そして、いよいよ家造りの佳境を迎えようとしています。

編集部
いよいよ住まい造りの醍醐味の部分に突入ですね。フィクションで。
稲 垣
はい。フィクションですが、家造りで一番楽しいのがこの時期です。間取りを検討し、仕様を検討し、ご自分の住まいが少しずつ見えてくるこの時期こそが住まい造りの一番の山場だと思っています。さて、Aさんご家族はご夫婦、幼いお子さんが3人、将来的に親御さんの同居も考えられています。
具体的なご要望は……
○将来的な親御さんとの同居に備えて増築できるスペースを空けること。
○子ども部屋3部屋は南向きにしたい。
○玄関からリビング経由で階段、そして2階へと続く僕達がお勧めしているリビングアクセスの広がる間取りであること。ただし、階段への動線やリビングからキッチンが見えないこと。キッチンはいつも整然と片付けが出来ているとは限らないのでお客さんや子どもさんのお友達からも見えない位置にしたい。
○旦那さんからの要望でご自身の隠れ家、基地みたいなものが欲しい。狭くて良い自分だけの場所が欲しいということでした。
○クルマ2台の駐車スペースの他に、雨の当たらない大型バイクの駐輪場が必要。
  ……大きくはこんなところでしょうか。最初のご要望としては多くもないし、少なくもない感じだと思います。住宅雑誌の切抜きと、旦那さんがパソコンのフリーソフトで書かれた簡単な間取り図をお持ちでした。
編集部
あの……いい加減白状してもらいたいのですが、フィクションにしては要望が具体的過ぎると思いますが……?
稲 垣
ああ、僕は夢見る妄想家ですので(笑)。これぐらいのフィクションはいつでも作り上げられますよ。最初のお打合せで僕が申し上げたのはこんな感じです。
 前述のように、親御さんの部屋は必要に迫られてから増築するつもりで居られました。増築は新築よりも広さに対する価格、つまり坪単価が高くなりがちです。僕は最初から造っておいた方がトータル的に金額は掛らないとアドバイスさせていただきます。資金的に許されるなら最初に造ってしまったほうがトータル的な金額は低く抑えられますから。
最初から造っておいて、当初は子どもさんの遊び場、来客時の客間、それこそ親御さんが遊びにこられた時に休んでいただく部屋に使っていただければいいと思っています。
 他の多くのお客様と同様に、Aさんも子ども部屋を南に向けたいとご希望されました。僕は反対です。家の中で一番良い場所をその家の持ち主であるご夫婦が使われない理由がわからないからです。南向きの子ども部屋。明るくて気持ちよさそうな印象はありますが、ご両親は太陽の光が燦々と降り注ぐ時間、つまりお休みの日の昼間、お子さんに自室に閉じこもって欲しいとは絶対に思われないはずなんです。子ども部屋は勉強ができて、ぐっすりと休むことができる。この2つができさえすれば南向きである必要は感じません。ですから広さもそんなに必要ないと思っています。
自室を快適にし過ぎるからリビングに降りて来ない子どもさんが増えるんです。

施主の要望と建築士の提案

稲 垣
Aさんのお宅の場合は3人のお子さんが小さいこともあり、最初は3部屋を独立させるのではなく、大広間と言う呼び名で、子どもさんたちが走り回れるように広々とした空間で小さな体育館のようにしましょうとご提案しました。
リビングやリビング階段からキッチンが見えないようにというご要望も多いですし、ご要望がなくても極力そうしたいと考えています。
が、あまりにキッチンを閉鎖的に、隅に追いやってしまいますと、せっかくのリビングアクセス、家族の気配が抜ける間取りが意味のないものになってしまいますので、その辺のさじ加減は意識しています。旦那さんの隠れ家はロフトで実現しようと思っています。
もともと基地とか隠れ家というキーワードからは広々として天井も高いスペースはイメージしづらいので。そういう、ある意味抑圧された(笑)空間に身を置きたいという少年のような気持ちは男なら理解できます。
編集部
なるほど。その上で、先ほど言われた住宅雑誌の切り抜きや自作の間取り図を見て、それを反映させようとされるわけですね?
稲 垣
いいえ。まったく(笑)。正直言えばご自身で造られた間取り図はほとんどの場合見ません。と言いますか、ご要望を整理して僕達がご提案する間取りができ上がる前に見てしまいますと、さすがにそれを無視できなくなってしまうんです。
自作の間取りをそのまま建てるなら、お手伝いするのが僕等でなくてもいいわけですよね。お話を伺った上で僕等がご提案するものと、自作の間取りがまったく違っていても気にしません。
お客様が譲れない部分は後に整合させていけばいいだけです。写真の切り抜きは拝見はしますが、すべてを鵜呑みにはしません。その写真のどこに惹かれるのか。空間なのか色なのか、たまには写真に写っている家具に惑わされてしまう場合もあります。
 ですので、その写真の何が気に入っているのかは詳しくお聞かせいただいています。
編集部
ところでAさんとの打合せはどの程度まで進んでおられるのですか? 稲垣さんの妄想の中で(笑)。
稲 垣
始まったばかりです。間取りの打合せはご納得いくまで続きます。
僕等の会社は間取りの打合せに掛ける時間は長いと思っています。一回一回のお打合せのたびに納得していただかなくては、たった一回の打合せですら時間の無駄だと思います。
住まいを造るということは新しい物語が始まること。
ここで時間を惜しんだり、契約契約と急かしてしまっては僕等は、住まいを建てる建築屋ではなく、家を売る販売会社になってしまうと思っています。
ので、しばらくは僕の妄想の中で繰り広げられるAさんとの打合せの記録がここに綴られることになります。
編集部
Aさんの存在が本当にフィクションで、記事ネタに困らないためにフィクションのまま続いていく気がしてきました。本当にどちらなんですか?
稲 垣
さあ?(笑)フィクションだとしてもノンフィクションだとしても半年はこの家造り物語の話でリアリティのあるお話ができると思います。