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あなたの家にはソファはありますか? ちゃんと使いこなしていますか? 今回は建築家の目線から、住まいと家具の関係についてお話いただきました。
イラスト
稲 垣
僕らが幼かった頃、家具といえば箪笥であろうとテーブルであろうと高級品でした。現在は超安い家具から、高級家具までバリエーションに富んでますが、ここで量販店の中国製家具の話をしても仕方ないので、対極にある家具の話を。
編集部
安い家具が中国製とは限りませんよ。新潟県内には店舗はありませんが北欧家具の安い大型店もあるじゃないですか。あえて名前は出しませんけど。
稲 垣
そうでしたね。最近流行の北欧家具。北欧独特の色使いとカジュアルさ、なんとも言えないお洒落な感じが受けているのでしょうか。
けれど僕の所の社員が結婚を期にそのショップでお洒落なソファを買い求めたんですが、座面の高さが外国人寸法なので高さが高すぎて、どうも座り心地が悪いと言ってました。
見た目だけじゃなくて実際に座ってみたりしてその使い心地を確かめないと駄目ですよね。北欧家具というと、真っ先に名前が出てくるデザイナーがいます。アルネ・ヤコブセン。ヤコブセンデザインの家具はセブンチェア、アントチェア、エッグチェアと割と椅子ばかりが有名ですがヤコブセンは建築家でもありました。ヤコブセンは1971年に亡くなっています。
 けれどすごいことだと思いませんか? 没後40年経ってもなお、ヤコブセンのデザインは世界中で愛されています。そのヤコブセンの事務所に勤務していて後にビッグネームになるのがハンス・J・ウェグナー。ウェグナーも2007年に亡くなっています。
 個人的には師であるヤコブセンよりウェグナーの方が暖かい感じがして好きです。テレビドラマなんか見ていますと、撮影のセットの中でかなりの頻度でヤコブセンの椅子を使っています。40年経った今でも自分のデザインした物が世界中で愛されてるってすごいことだし、幸せなことですね。ただ……ヤコブセンデザインの椅子はとてもシンプルで……恐らくは原価としては大して掛っていないのではないかと個人的には思うのですが……高い……(笑)。  
建築界の巨匠は家具の世界でも巨匠です。まずはル・コルビジェ。グランドコンフォート(大いなる快適)と名付けられたシリーズや、コルビジェ自身が『休息のための機械』と呼んだ安楽椅子など、現代においてもあまりにも有名でかつかっこいい。フランク・ロイド・ライト、ミース・ファン・デル・ローエ、チャールズ・イームズ…………基本、ヤコブセンを含めてミッドセンチュリー(1950〜60年代)と呼ばれる時代にデザインされた家具です。
 その中でも僕が建築を学んでいた学生の頃、「いつかこの椅子を買おう」と決めたのがチャールズ・レイニー・マッキントッシュのヒルハウス・ラダーバックチェア。事務所に一つあったのですが座り心地がすこぶる悪い(笑)。長く腰掛けたら間違いなく腰を痛めそう(笑)。けれど見ているだけで幸せでした。そのラダーバックチェアも大学生の息子に持っていかれてしまいましたけど……。
編集部
ヤコブセンやコルビジェ、イームズ辺りは建築素人の僕も名前くらいは聞いたことがありますが、マッキントッシュと言うのは初耳です。某メーカーのパソコンの名前と同じですね。

ソファは背もたれの家具?

稲 垣
悪い癖で本来お話したい本筋からどんどん離れてしまいました。先ほどの僕ん所の社員のお洒落だけど座面が高すぎて座り心地が悪いソファ、今は荷物置場と化し、そこに座ることは滅多にないということです。そこで想像してもらいたいのは、本当に『座り心地が悪かった』から座らなくなったのかということ。本当は座り心地が例え良かったとしてもいずれは座らなくなっていたのではないかと思うのですが。
編集部
我が家のことですか?(笑)我が家も新築してからL型のリビングの大きさにはあまりそぐわない大きさのソファを買いました。が、子供が昼寝するくらいで大人はほとんど座らないまま、大きさも災いして知り合いにくれてやりました。
稲 垣
(笑)でしょうね。僕が思うに僕ら世代は特に、幼い頃から畳の上や床の上で直接生活していました。新築し、自分の家を持っても長年のその習慣は消せないと思ってます。だから案外ソファを背もたれにして床に座っていたんではないですか?
編集部
あれ?見てました?(笑)その通り。遊びに来る仲間も最初はソファに座るのですが、いつの間にかソファが背もたれに。
稲 垣
わかりますよ。我が家もそうですから(笑)。日本人的には、あるいは誤解を恐れずに言うと、庶民的にはソファは憧れではあったけれど使いこなせない。ああ、もちろん若い世代はちゃんとその用途なりに使えるのでしょうし、ソファを本来の目的なりに使いこなせている方がたくさんいらっしゃるのは承知してます。僕や編集さんとはライフスタイルが違うので一緒にしたら失礼です(笑)。けれど経験上、案外多いんですよ。いつの間にかソファが背もたれっていう方は。と言うことは体に染み付いたライフスタイルは易々と変えられるものではないと言うことだと思うのです。住まいは「だらっ」と出来る場所。唯一の場所とも言っていい。だから床に座ったり寝転がったり出来ていいんだと思っています。それだって立派なライフスタイルですから。
 家具繋がりの話を少し。最近はテレビボードや様々な収納を家具として造り付けにしたり、極端な場合はダイニングテーブルまで固定にされたいという要望をお聞きしますが、なんでもかんでも造り付けで固定にしていいものではないと思っています。例えばテレビボードなどは造り付けで固定しても構いませんよね。計画段階からテレビの位置を想定して間取りは考えられているはずですし、第一コンセントと違ってアンテナの差込はどこにでもあるものではないですから。陽の入り方やリビング中央からの見えやすさを考慮して固定するなら賛成です。僕が反対なのはダイニングテーブルの固定。長い年月の間、ライフスタイルは変わります。ある程度の可変性を持たない住まいは後々使いずらくなってしまいます。固定していい家具と移動できたほうがいい家具。その辺りは使い分けて考えたほうがいいのではないかと思っています。もちろん、テーブルなど移動可能な家具は家具屋さんでお買い求めください……などとは申しません。気に入った家具がなければ建築屋さんに作ってもらえばいいんです。
編集部
そういえば三ッ郷屋コンセプトハウスのウォールナットのダイニングテーブルは、稲垣さんのところの大工さんが作ったそうですね。拝見しましたが世界に一つだけの「一点もの」の雰囲気が出ていていい感じでしたよ。
稲 垣
ありがとうございます。ただ、大工が作ると繊細さがないんですよね。無骨というか。まあ、そこがいいとおっしゃっていただける方もいらっしゃるのですけど。珍しい木が手に入ったらこれからも造ります。