住まいを間取りから考える〜家を持つということ

今回は“家造り”の目的という観点から “間取り”についてお話を伺いました。
イラスト
稲 垣
あけましておめでとう御座います。本年もよろしくお願いいたします。
さて、前回は住まいを床から考えてみました。今回は建具から住まいを考えてみようと思ってましたが、編集さんからご要望があったので『間取り』を考えてみたいと思います。
……けれど、なぜ、突然間取りの話をしろと? 間取りの話は以前もさせていただいた記憶がありますが。
編集部
実は年末に親しい友人何人かと忘年会を開きまして、その席で昨年家を建てたばかりの友人が「家造りに失敗した」って言うんです。
そいつの奥さんなんか「アパートの方が良かった」とさえ言ってるみたいで。せっかく楽しい家造りが台なしで気の毒に思ったものですから。
稲垣さんはよく『家造りは一生のうちに何度もないのだから楽しまなきゃ絶対に損』って言うじゃないですか。その通りだなと思いました。 
稲 垣
はぁ…なるほど……。で、具体的な話を伺いましたか? 第一、そんなプライベートな話をこの紙面上でしちゃっていいんですか?
編集部
まるごとネタに頂き!って言ってありますから(笑)。そいつん家は子どもさんが2人いるのですが、新築してからほとんど会話がなくなった。呼んでも面倒がってリビングに下りてこない。狭いアパートだと結果的に……まあ物理的な問題からなんでしょうけれど家族が集まれて話も出来たって。家を建てて家族と疎遠になったというか……。
稲 垣
なるほど。お気の毒です。でも難しいなあ……。僕は偉い先生でも学者でもないし、ましてやそのお宅の家族関係や間取りを知らない。
一介の住宅屋が語っていい内容ではない気がしますが……。もちろんお子さんはお年頃なんですよね?だったらある意味当然の親離れ……で片付けちゃ意味ないですね(笑)。  
僕は心理学者ではないですが、年頃だったらある程度仕方ないでしょ。ずっと親とべったりのお年頃のお子さんのほうが少し引きます。僕の息子も僕自身もそうだったから。
けれど、事は重大みたいですね。ご友人のお宅の間取りが具体的にわかりませんし、仮にわかったとしても僕の頭じゃ解決策なんて見出せるとは思えませんので、ここからは僕の私見だと思って聞いてくださいね。僕は家族をバラバラにしてしまう間取りというのは存在すると思っていますし、子どもさんが孤立しやすい間取りは実際にあるはずです。
間取り、というよりも住まいの中での子どもさんの居場所、ポジションを間違えてしまうということはあるような気がしています。
 少し安直ですが、家族間のプライバシー確保を必要以上に声高に唱えたり、あるいは子どもさんの居場所を過度に快適にしたりすると、どうしても居心地のいい方に子どもさんは居ますよね。子ども部屋を重要視するのは親心としては理解できます。けれど、誤解を恐れずに言うなら子ども部屋の位置や大きさは家造りにおいてはそれほど重要だとは思えないんです。
僕は以前も子ども部屋なんて南向きである必要はないと言いました。むしろ北向きで十分。というか北向きがベターだと思っています。それは、北からの日照が一年中安定しているから目に優しい。南側からの、陽が燦々と降り注ぐ子ども部屋、その陽が燦々と降り注ぐ時間帯に子どもさんがその部屋に閉じこもって欲しいと思う親はいないと思うから。
敷地や予算の関係で住まいのトータルの面積というのは限られてきます。例えば子どもさんが「私の部屋8畳にして!」っていうのを聞き入れたお陰でリビングが6畳しか取れなくなったなんて話は本末転倒な話。だいたい子どもさんはいったいあと何年間をそこで暮らすのかわからないんですよ。住まいは子どもさんのために建てるのではない。家族のために建てる。
そして一番尊重されるべきはその家の主婦だと思っています。僕自身この考え方は変えられないと思っています。
“家を造る”ことは目的ではなく手段
稲 垣
子ども部屋は静かに勉強が出来て、本当に最低限のプライバシーが守れればそれで必要十分だと思ってます。間取り的には紙面上で耳にタコが出来るほど言ってますけど、子どもさんを孤立させない間取りを考えるべきです。これは過度なプライバシー確保と少し繋がるのですが、子どもさんの帰宅直後の表情を確認できる間取りにしてください。
子どもさんの友人とも気楽に話せる間取りにしてください。子どもさんが自室で何をしているのか感じられる間取りにしてください。それには間取りというソフトの部分だけではなくて、本当は断熱性や、音の問題などのハードの部分にも絡むのですけどね。
 間取りというのはその敷地とご家族固有のもの。一概にこれだ!とは言えませんが、住まい造りの目的を見失わないようにしてください。
住まいを持つ、家を造る、事が目的だと錯覚しては駄目なんだと思います。住まいを持つ、家を建てるということはあくまでも手段です。ご家族がご家族らしく、個人を尊重しすぎないで家族という単位で生活を楽しむ。それが家を持つということの目的だと思います。
編集部
ああ、言われてしまえばその通りなのかもしれませんが、僕自身、もう何年も前ですが、家を建てるときは『家を持つ』事自体が目的になってました。
稲 垣
そういった方は少なくないと思いますよ。話は間取りという大きな括りではなく、子ども部屋に特化した形になってしまいましたが、凡人の僕が想像するにはご友人の家の間取りは子どもさん最優先なのではないかと考えて話をしました。的外れならごめんなさい。
 少しだけ「間取り」の話を。間取りってどういう意味に捉えればいいのでしょうか? 僕が建築を学び始めた頃、学校で聞いた言葉なのですが、「個の空間、公の空間、その中間、の組み合わせ」を間取りと呼ぶ。あくまでも住宅の間取りと限定しての話ですから、個の空間というのは寝室や子ども部屋などの個室、公の空間というのは(少し大袈裟な気もしますが)家族が集う空間、主にリビングなどを指すのでしょうか。その中間は廊下や階段、あるいはトイレや洗面所などを指します。
 若かりし頃の僕はこの言葉に納得していたつもりでしたが、今は……家族という単位でしか住まない住宅にそれほど明確な線引きをする必要はないと思うようになりました。もちろん、2世帯住宅やご夫婦どちらかの親御さんを引き取って生活する場合などは多少考え方を変えないといけないでしょうけれど、明確に線を引くとどうしても3LDKとか4LDKなどの、○LDKという個室の数で間取りを語るようになってしまうと思うのです。そうではなくて、家族の場所を中心に捕らえて考える。そこさえ充実、充足していればあとはなんとかなる(笑)。少し乱暴ですか?
 ぜひ、ご家族が楽しんで生活できるような住まいを造ってください。それには、住まい造りの過程を思い切り楽しんでください。一緒に楽しんでもらえる建築屋さんを探してください。
編集部
そうですね。それが何よりという気がしてきました。何はともあれ、本年もよろしくお願いいたします!