住まいを床から考える

室内での事故で年間何人くらいがお亡くなりになるかご存知ですか? 住まいの中は危険でいっぱいという認識がもっと必要なのかもしれません。
イラスト
稲 垣
僕のブログにも少し書いたのですが先日、近所のお医者さんに季節性インフルエンザの予防接種を受けに言った時のこと。予防接種を終えたばかりの幼い女の子が若いお母さんに抱かれながら、泣いてるんですね。「○○(自分の名前)、がんばったよ、痛くないよ」。そういいながら、さらにわんわん泣いてるんですよ。見ている僕まで「うん、うん、がんばった。えらいえらい。」と完全におじいちゃん目線で涙ぐんでました。自分の涙目に少しびっくりしました。歳とったなあと。
編集部
おじいちゃん目線ですか?(笑)確かに僕ら世代の子どもはお金は掛かるが手は掛からない年代に達し、手が掛かっていた頃を懐かしむ年代ですかね。
稲 垣
その時にね、お母さんがお会計している間、その女の子はすっかり元気になって床で寝転んだり、手を付いたりして遊んでいたんですよ。僕は潔癖症ではないので子どもが床に寝転んだり、ところ構わず触ってしまうのは当たり前だと思っていますが、インフルエンザ流行期の昨今、その手を口に持っていかないか冷や冷やしながら見てました。これもある意味おじいちゃん目線(笑)。
 子どもさんは母親から様々な免疫を受け継いで生まれていることは知っていますが、大人から比べれば体力はもちろん、代謝能力も免疫力も未熟だと考えざるを得ないわけです。新型インフルエンザの重症化の年齢データを見ても明らかですよね。大人と子どもの体を比較すると、体重1kg当たりの1日の食事の量は大人の約2倍。呼吸の量も2倍なんだそうです。シックハウス症候群、つまり様々な化学物質を呼吸と共に吸い込んでしまう確率は子どものほうがずっと高いというわけです。ましてや床で寝転んだり、でんぐり返りしたりして遊んでいる幼い子どもさん達ならリスクはもっと上がります。
 シックハウス症候群の原因とされるVOC(揮発性有機化合物)は空気より重いため床に近い場所、つまり子どもたちの高さに滞留することが多いからです。そればかりではなく、以前赤ちゃんと母体を繋ぐへその緒から化学物質が検出されたというニュースを聞いたことがあります。また、お母さんの羊水の匂いがパーマ液やシャンプーの匂いがすることがあると美容院のオーナーから聞いたことがあります(ちなみにその美容院オーナーは、だからこそリスクの少ないシャンプーやパーマ液を使わなきゃならないとおっしゃってました)。生まれ出る前から科学物質の脅威にさらされている子どもたちが増えているんですよね。
編集部
だから住まいを床から考える……ですか? 心配性のおじいちゃんみたいですね(笑)。床の話は以前にも数回されてますよ(笑)。ネタ切れですか?
稲 垣
今回からしばらく『住まいを○○から考える』というタイトルで進めてみたいと思います。例えば建具や家具、灯り、構造材料や価格にいたるまで。初回としては今までの繰り返しになったとしても床から始めたかったんです。なぜなら、僕はインテリアの印象を大きく左右する要素の一つとして、その部屋の雰囲気を生かすも殺すも床から始まると思っているからです。
誤解しないでもらいたいのは、だから床はムク材がいいんだ! なんて短絡的に結びつけるつもりはありません。材料はムク材でも塗装がヤバそうなんていう輸入のムク床材も稀ですがありますから。ああ、ちなみに多くの建材がF☆☆☆☆(Fフォースターと読みます。ホルムアルデヒド放散量の少ない建材というお墨付き)認定を受けていますが、最高等級のF☆☆☆☆でも化学物質をまったく放散しないという意味ではありません。
人体に極力影響がない量の放散量に留まると解釈すればいいと思います。
そしてここで言う「人体」とは、恐らく大人基準だろうと思っています。呼吸量が大人の2倍という小さな子どもさんの体をVOCから守れるという担保にはなりえないわけです。
かと言ってムク材がすべていいとは思っていません。ムク材派の僕が自分で自分の首を絞めるようですが、稀にヒノキの臭い成分にアレルギー症状を持つ方さえいらっしゃるのですから。
床に求められる性能とは?
稲 垣
床に求められる性能はたくさんあります。床が堅いほうが傷つきにくいのは当たり前ですが、踏み心地や歩行感も堅くなってしまう。ついでに堅い床は表面温度が冷たいものが多いです。
ムク材で言えばナラやメープル、カバ等の広葉樹系が代表格でしょうか。
杉や桧の針葉樹系ムク材にすれば足触りも歩行感も柔らかくなりますし表面温度も優しく感じますが、まったく逆に柔らかい分傷つきやすくなります。
猫や室内犬を飼われる場合は、針葉樹系ムク材はあまり適していないと言えます。
 滑りやすさ、滑りにくさも大切な床の性能です。ムク材でもテカテカに塗装してしまうと、とっても滑りやすくなってしまいます。これは広葉樹、針葉樹に共通です。テカテカに塗装したほうが手入れは間違いなく楽なんです。けれどせっかくムク材を床に張るなら、あまりテカテカに塗装しないでオイルとかワックスで木材の呼吸を妨げないように仕上げてやりたいですよね。
手入れはテカテカ塗装より手間が掛かるのは間違いないんですが、無農薬とか有機栽培の野菜に手が掛かるように、より自然なものを住まいに取り込むなら、その辺の手間は惜しまずに愛着を持って暮らしていっていただけたらな、と思います。
 あとは、恐らく堅さや滑りにくさ等の性能より先に目がいってしまう「見た目」。色はもちろん、節の有無、先ほどの塗装の話じゃないですが光沢も見た目には重要ですよね。
ムク材であれば同じ木から取った材料でも色の違いが現れます。木は樹皮に近い部分を辺材、中心に近い部分を心材と呼びます。当然すべての木に辺材と心材は存在するわけです。
辺材は通称、白太(しらた)と呼ばれ、心材は通称、赤身と呼ばれることが多いようです。白太と赤身の色の違いは、杉や桧の針葉樹ですとより顕著に出ます。
本来はその色違いや、木目の違いこそがムク材の醍醐味だと思いますが、そういった物が好きじゃない方にはムク材の床はお勧めしません。
 新築やリフォームの際には色んな物を見てください。同じ木でも色や節で大きく印象は違います。
編集部
現在、建築中の古正寺と三ツ郷屋のコンセプトハウスはどんな床を張られるんですか?
稲 垣
古正寺はタガヤサンと言う木です。色はかなり濃い。黒っぽいと言ったほうがいいでしょうか。かなりカッコ良くなると思ってます。
ちなみにタガヤサンという木は、唐木家具や、今は少なくなってしまいましたが高級床柱として使われていました。昔から、シタン、コクタン、タガヤサンといって、水に沈むくらい比重の重い木です。三ツ郷屋はメープル。メープルという木はその色が白いほど貴重とされていますが、今回はあえて辺材と心材の混ざり合う部分を、通常の一枚一枚のフロアの幅より広くして造りました。
こちらは板の色や木目の違いをあえて浮き出させることによりメープルという堅い木の印象を和らげようと試みています。
 早いものでもう少しで2009年も終わります。
 未曾有の大不況と言われる最中、皆さんにとって、来年がすばらしい一年になることを祈念させていただき、本年を締めさせていただこうと思います。
 一年間ありがとう御座いました。来年もよろしくお願いいたします。