住まいの中の事故

室内での事故で年間何人くらいがお亡くなりになるかご存知ですか? 住まいの中は危険でいっぱいという認識がもっと必要なのかもしれません。
イラスト
稲 垣
住まいをはじめ、建築物の内部で起きてしまう事故を家庭内事故とか、建築内事故と呼びます。例えば昨年6月に東京都内の小学校でプラスチック製のドーム型天窓が破損し、天窓に乗って遊んでいた小学生が3階分の高さの吹抜を転落し亡くなってしまったという痛ましい事故もまだ記憶に新しいです。
そもそもドーム型の天窓に人が乗るということは想定されていないのですが、児童がそこに“上がれてしまう”高さに設定してあったことが問題視されているようです。家庭内事故、つまり我が家の中での事故で亡くなる方は年間何人くらい居られると思いますか?
編集部
う〜ん……どれくらいなんでしょう? 数字は予想もできませんが、事故はお年寄りや子どもさんが多いのだろうなとは想像できます。
稲 垣
普通は外に出掛けるより家の中のほうが安全だと思うじゃないですか。僕もこのデータを見るまではそう信じていました。家庭内、つまり我が家で起きてしまう事故でお亡くなりになられる方は年間8000人を超えています。
その数は交通事故で亡くなる方よりは少ないですが、びっくりするほど多い数字だと感じます。
そして家庭内事故で亡くなる方の7割が65歳以上のお年寄りです。そればかりではなく、統計的には0〜10歳の低年齢のお子さんより45〜64歳の方のほうが死亡事故は多い。……僕も既にその年齢なんですよね。なんて言うか、自分でも意外なところでつまずいてみたり、実感はありますね。寝ぼけて階段から転がり落ちたことも数回ありますし(笑)。
幼い頃、たぶん5〜6歳の頃に自分が使っていた歩行器で遊んでいて、歩行器ごと2階から1階に転げ落ちた記憶もあります。 
編集部
まだ若いじゃないですか。見た目は(笑)。小さい頃は別として、いい大人が階段を転げ落ちたんですか? しかも寝ぼけて?(笑)。よく無事でしたね。
でもきっと、今は笑っていられるけれど僕らももう少し歳を重ねると笑いごとではなくなるんでしょうね。住まいの中での事故で多いのはやはり階段ですか?
稲 垣
あくまでも死亡事故でだけ言えばお風呂です。その中でも、お年寄りと幼児の溺死、つまりお風呂で溺れるという事故が多い。浴室内外の温度差によって心臓系や脳疾患で亡くなるケースも多いと思われます。ただ、死亡事故に限定せず、住まいの中で起きてしまう事故で圧倒的に多いのは、転倒あるいは転落や墜落といった落下事故です。
 窓からの墜落、階段からの転落より多いのは同一平面上での転倒事故。なんでもない段差につまずいてしまうということなんです。床に置いてある物、例えば新聞で滑ったり、ジュータンでつまずいたり。もっとびっくりするのは同一平面上での転倒事故で亡くなられる方は、家庭内死亡事故のおよそ1割もいらっしゃる。
すごく多いと思いませんか? 転倒や落下事故で亡くなる方の数字を1としますと、軽傷で済んだ事故の発生割合は10000になるそうです。転倒、落下事故でお亡くなりになる方は年間2000人程らしいので、我が家で転倒や転落によって軽傷を負う方は2000万人という計算になります。
驚くべき数字ですが、高齢者が転倒をきっかけにして寝たきりになってしまうという話は身近にあります。実際、要介護認定の原因で病気、衰弱についで多いのは転倒骨折だそうです。

本当のバリアフリーとは?
稲 垣
家庭内事故で一番多いのは転倒事故。だから、事故の発生箇所で一番多いのは実はリビングなんです。リビングとキッチンを併せると全体の50%以上の数字になる。
つまり、一番身近な、最も多くの時間を過ごすであろう場所で事故は起きているんですね。三番目が階段。当然ですが階段を下る時の事故発生率は上るときの5倍近いということです。
編集部
意外ですね。台所は火を扱うところだけに火傷とかの事故も多いとは思いますが、リビングが一番多いんですね。
しかしなんでもない段差、さっき言っていたような新聞で滑ったり、ジュータンでつまずいたりしてしまうのは、稲垣さんたち建築屋さんではどうにもできないことじゃないですか?
稲 垣
きっとそうなんだと思います。僕らの立場で家庭内事故をパーフェクトに防ぐなんてことは無理なんだと思ってます。けれどやれることはたくさんあります。
我が社の標準的な階段は15段上がり切りなんですね。多くは14段上がり切りという階段が多いはずです。 段が一段増えるということは一段分の高さは低くなります。それだけ階段の勾配が緩くなるということです。
階段の踏面と蹴込の色を変えると、視力の弱くなってきた高齢者には色のコントラストで視認性が良くなるというデータもあります。
 また、浴室でのヒートショック(温度差による血圧や脈拍の急上昇または急下降により血管や心臓に負担を掛ける現象)を和らげるために室温のバリアフリーも大切なことだと思います。要は室温の差をなるべく少なくすることです。
浴槽の大きさも重要です。大きな浴槽は気持ちよさそうですが、浮力で体が浮いてしまい溺れる原因にも考えられています。
 最近は少ないと思われますが、トイレの入口は必ず外開きか引戸にしてください。
内開き(トイレに向って開く形)ですと、万が一トイレで倒れた方を救出するときに倒れた方本人が邪魔になり扉が開かないということも考えられます。
 バリアフリーというと単に床の段差をなくすということに終始しがちですが、例えばリビングの中に畳コーナーを設けるなら、中途半端な段差をつけるのではなく、腰を掛けてしまえるほどの段差をとったほうが高齢者の移動は楽な場合もあります。バリアフリー。物理的に床に段差を付けないとか、手摺を付けるとか、既に誰しもがご存知のバリアフリーだけではなく室温のバリアフリー、そして意識のバリアフリーも考えてみてください。
編集部
意識のバリアフリー?
稲 垣
はい。高齢者が家庭内事故に合うのは一人で在宅中か、家族の目が届かない場合が圧倒的に多いんです。
おじいちゃん、おばあちゃんを一人にさせない。あるいは常にその存在の空気を感じられる距離感を保った住まいが本当のバリアフリーなのではないかと思っています。