抗ウイルス住宅

この秋、爆発的な流行が懸念されている「新型インフルエンザ」。 今回は『木の底力』とも言えるウイルス殺菌効果についてお話いただきました。
イラスト
稲 垣
新型インフルエンザがすぐそこまで忍び寄っている感じですね。数年前から噂されていた鳥インフルエンザではなくて、感染力は強いものの致死率はそんなに高くない豚インフルエンザですのでパニックも起きていないのでしょうが、本当に圧倒的致死率と噂される鳥インフルエンザが流行ったら大パニックになるんでしょうね。
 ずいぶん前になりますが新型肺炎のSARSが流行ったことあったじゃないですか。あの頃報道されていたことなんですけど、どこか……東南アジアの割と豊かではない国の話だったと記憶してるんですけど、病院施設さえも空調をコントロールできなくて、SARSの病院内感染がパンデミック(爆発)感染した。しかし、コントロールできない空調に頼るのを止めて、窓を全開にして空気の入れ替えを意識的に行ったら、程なくSARSは国内全土で鎮圧されたっていう記事を思い出しました。  空調の効いた、適正温度で若干乾燥気味の空間は人間にとって快適なだけでなく、ウイルスにも快適なんでしょうね。コントロールできないながらも窓を締め切り、空調に頼るのを止めて、大昔から続けられてきた窓を開けての自然換気にしたらウイルスは鎮圧されたという皮肉な記事をよく覚えています。
編集部
僕を含めて、メキシコで新型インフルエンザが発見されてからしばらく、マスクしたり、うがい手洗いに気を使ったり……しかし症状はそんなに重くないとわかった時からすべてを止めてしまっていて、ここへ来てすぐそこまでウイルスが来ているのを肌で感じるようになってからまた、マスク買ったり消毒液買ったり……。これも軽いパニックなんだろうなと思ってました。ウイルスという目に見えないものと戦うのはどうしたらいいんでしょうね。
 以前、この紙面上で書かれた『木の底力』と言うタイトルで木材の持つ抗ウイルスについて話をしていただきました。時期が時期ですのでもう一度同じ話をお願いできますか?
稲 垣
僕もそう思ってました。(財)日本住宅木材技術センターっていう国の出先機関がサンプリング調査した結果です。小中学校で児童のインフルエンザによる学級閉鎖率のデータ。インフルエンザの学級閉鎖率は木造を1とすると鉄筋コンクリート校舎は3。つまり実際にインフルエンザで学級閉鎖になっている学級は、鉄筋コンクリート造の方が木造の3倍多かった。同じように児童の病欠率も木造は鉄筋コンクリート造の1/3。全国の高齢者施設でも同じ調査をしたら結果はまったく同じ。しかも転倒率や不眠を訴える方の割合も木造のほうが圧倒的に低いんだそうです。全国的に幼稚園・保育園はもちろん、小学校も木造が見直され、古い鉄筋コンクリート造の建て替えの時は木造を選択する行政も多くなっているのはこういったデータを反映させているのかもしれません。
 僕は医療素人ですし、ウイルスなんてチンプンカンプンですが、インフルエンザウイルスは湿度50%以上の中ではそのほとんどが死滅すると聞いたことがあります。コンクリートでは湿度をコントロールできないけれど、木材は部屋が乾燥すれば自ら蓄えた水分を放出し、湿度が高ければ余分な湿度は吸収します。その辺りの木の持つ調室作用が体にいい環境を作ってくれていると考えるのが妥当なのではないでしょうか。そんな木の持つ効能にその香りからくるリラックス効果があります。リラックス効果は杉や桧などの針葉樹に多く含まれるフィトンチッドという物質によるものです。森林浴なんかに行くと感じる、言葉では言い表しにくい心地よさ。あれこそがフィトンチッドの効能です。そんな優しげな印象の『フィトンチッド』。その語源を調べてみたらまったく優しくはないのです。元々ロシア語でフィトンは「植物」、チッドは「殺す」という意味です。フィトンチッドを発見した博士は樹木や植物を傷つけるとその傷の周囲の細菌だけが死滅する現象を見つけ、その現象は絶えず侵入してくる虫や細菌から自らを守るために作り出し、発散する木の底力なんだということに気付いたんだそうです。人間で言えば抗体を体内で作るみたいな感じでしょうか。

杉や桧の家は殺菌作用が高い?
編集部
と言うことは、フィトンチッドが多く含まれるという杉や桧を使った家のほうがより殺菌作用があると考えてもいいんでしょうか?
稲 垣
それはどうなんでしょう。フィトンチッドはあくまでも木材が自分自身を守るために自らの体内で作り出す物質です。製材後もフィトンチッドは残っているらしいですが、その成分がその上で住まう僕たち人間までも守ってくれるのかどうかは僕なんかでは判断できません。
ただ一つ言えるのは、前述のデータ。サンプリングのデータですから100%が当てはまるとも思っていませんが、やはり信頼できるデータだとは考えられます。
だからといって、木の家に住んでいれば病気にならない、ウイルスに強いんだ!などと言い切るつもりも更々ありません。現在の住宅は高気密高断熱化が進み、エネルギー消費を抑えて、引いては地球温暖化抑制というお題目がありますから国も推奨していますし、近い将来は義務化されると思っています。既に義務化されているのは換気です。機械換気により家中の空気を2時間に1回総入れ替え可能な能力を法律で求めています。
けれど最初の話で東南アジアのどこかの国の病院がSARSを鎮圧したように、あまりにも家とその設備というハード面に頼っているよりも、窓を開け放って自然換気したり、カーテンやブラインドを開け放って太陽の光、つまり紫外線で殺菌という自然の力を借りたほうがいいのではないのでしょうか(ちなみにほとんどの病原菌の一番苦手としているのが紫外線なんだそうです)。すごい大袈裟な話になりますけど、人間が作り出したものなんて高が知れてる。自然の持つ力を借りないと……って思います。  余談ですが、洋服ダンスに入れる防虫剤の主成分は楠(クス)という木の成分ですし、天然由来の体に優しい虫除けスプレーとして売られているものも主成分は沖縄だけに自生している月桃(ゲットウ)という背の高い草が成分です。お線香の煙はすごい防虫と防腐効果があるらしいのですが、その主成分も白檀(ビャクダン)という木です。
月桃を主成分とした壁紙も発売されていますし、楠の木は製材後もうっすらと防虫剤の匂いがします。
大昔から樹木を含めた植物は、そういう力があったんですよね。
抗ウイルス住宅なんてものすごいタイトル付けてしまいましたが、結局のところ家自体の健康にも、そこに住まう人間の健康にも一番必要なのは“陽と風”。陽の光と風通しなんだと思います。