風の綾事

あやぐ……沖縄、宮古島の言葉。あやぐ=綾事。
      綾事とは美しい言葉、美しい唄の意味
イラスト
編集部
新しい古正寺のモデルハウスもだいぶ工事が進みましたね。完成はいつ頃ですか? 新モデルハウスの特徴も教えてください。
稲 垣
3月末から4月上旬にはオープンできるかと思います。コンセプトも基本的には以前のものと変わりはありません。以前と同じ説明の繰り返しになってしまうかもしれませんが軽くご説明しますね。

■淀みのない間取り

僕が間取りを考える際に常に考えているのは、家の中に“淀み(よどみ)”を造らないことです。ここで言う淀みとは、風や光などの物理的なものも含まれますが一番淀ませてはいけないと考えているのは気配です。
家の中で、しかも家族の間だけでプライバシー確保云々を声高に論じるのはナンセンスだと思っています。そういったことを考えていくと、僕の中では間取りそのものが日本家屋に回帰する。
かつての日本家屋の間取りの特徴は可変空間であることでした。
座敷・茶の間と呼ばれていた家の中心が時に居間として時に応接空間として形体を変え、家族の中心にもなっていた。そしてもうひとつの日本家屋の特徴は光と風と“気配”の抜けだと思うようになりました。光の入り具合を計算し、風の通り道をコントロールする他に、家族の気配を知る間取り。僕はそれを広がりの間取りと呼ぶことにしました。
家族の中心から子どもさんの気配が判る。平面上だけでなく、縦方向にも繋がる間取り。そして間取りは家族へと回帰していきます。

■確実な断熱性

広がる間取りと上下階の風と気配の通り道としての吹抜。この大きな吹抜を設けたためにどうしてもこの家が武装しなければならないものがありました。それは、かなりのレベルでの断熱性。
現在の断熱は柱間に断熱材を入れ込む充填断熱と柱の外側に板状の断熱材を貼る外張り断熱とあります。どちらも一長一短あるのでどちらが優れているとは言えないと思っています。
断熱性を増すために代替フロンを使っているような断熱材を使うわけにはいきませんし、リサイクルの効かない断熱材を使うわけにもいかない。
リサイクルが確立し、人体に有害な物質を発散しない、人にも地球にも優しい断熱材。
そして、より確実に断熱性能を発揮できることが大切でした。結果的に現場で吹き付けるタイプの断熱材を選びました。 現場で吹き付け=発泡=代替フロンと言う問題が付きまとっていたわけですが、私どもが選んだ断熱材の発泡方法は水です。
水で発泡させるのですから地球温暖化物質の発生はありえないわけです。
しかもその断熱材の99%は空気。原料はわずか1%です。水で発泡し、小さな気泡を作って、いわば空気で断熱する断熱材を選びました。
リサイクルも確立していますし、地球にも、人にも優しく、より確実に建物の断熱気密化できる断熱材です。広がりの間取りを完成させるにはある程度の高断熱高気密化が避けては通れなかったわけです。

■合板は悪なのか?

合板は工業製品で体に悪いという印象がどうしても付きまといます。だからこの家から合板を含む一切の工業製品を排除できないだろうか?……そう考えました。
結果から申し上げると無理でした。というより、合板を排除したことによるデメリットの方が大きかったと言ったほうが正解でしょうか。まずシステムキッチン、洗面化粧台は使い勝手やメンテナンス性を犠牲にすれば工業製品でなくとも製作できたのかもしれません。
けれど僕が目指しているのは、すべてにおいてバランスの取れた家です。ある一点に固執してしまうがために他の面を大きく犠牲にするわけにはいきません。
そして合板。この家に使用されている合板は床下地の28mmの厚い合板と屋根下地の合板。これも同じ理由、ある一点に固執してバランスの取れない家にはしたくないという理由から排除できませんでした。床を張るための下地の合板。
役目はそれだけでは無く床の水平方向の剛性(強さ)を高レベルで維持するには1階も2階も28mmの合板は捨てられませんでした。この合板は県産の杉で作られた構造用の合板を使用しています。多くは間伐材(木を育たせるために間引かれた木)の利用です。
屋根下地の合板は国産桧の合板です。こういったところでも日本の木を使おう。そう思いました。

■国産材木

輸入材のすべてが悪いとは申しません。良いものも確かにあると思います。実はこの家でも唯一国産以外の材料があります。外壁の一部に張ったサペリという木です。
水に強いことや変形しにくいことを考慮して採用しました。ただ、一般的には輸入木材はその木が育った山の現況を知ることができにくかったり、輸送に関って排出される二酸化炭素が膨大だということだと思うのです。
最近、木材の輸送距離を表す「ウッドマイレージ」という考え方が始まりました。木材輸入量世界一はアメリカなのですが、日本のウッドマイレージはそのアメリカの5倍以上に及びます。平均的な日本の家をすべて輸入材木で建てるとするとそのウッドマイレージは14万7000kmに及びます。これをすべて国産材木にすればウッドマイレージは1/100〜1/80にまで少なくなります。
ただ、僕は国産であれば、ましてやイメージ先行の県産材であればなんでもいいとはまったく思っていません。ひのき、杉、松、信頼できる構造材。桜、ブナ、クリ、カバ、広葉樹の堅牢な床。構造材に関して言えば福島県・岩手県の材料を主に使っています。
広葉樹は北海道と岩手県産が主流です。価格は……正直申し上げて決して安くはありません。けれどこの家は間違いなく地球と共存しています。日本製の家なのです。

■進化しながら回帰する

住宅の世界は日進月歩。デザインの流行や材料の進化など、恐らく現在より来年、来年より再来年とその流行と進化は進んでいくと思います。僕もその時々の流行の形を作ることもあります。
それはお施主さんの自己主張ですから。家とはお住まいになる方の自己主張そのものだと思っています。けれど、どんな家のお手伝いをさせていただいても、僕の中に、僕の奥に流れている源流は変わらないと信じています。
形こそ違え、“すべては家族に回帰する”。

編集部
新しい古正寺のモデルハウスもだいぶ工事が進みましたね。完成はいつ頃ですか? 新モデルハウスの特徴も教えてください。
稲 垣
そうですね。少し小さいですね。まあ、今流行の家でないことは確かです(笑)。けれどこういう家を新鮮に感じられたり、懐かしく感じられたり方も多いはずです。
編集部
最後に、個人的に気になることを聞いてもいいですか? 前回のモデルハウスのタイトルは「陽と風のあやぐ」でした。今回は「風の綾事(あやぐ)」。いったい何が違うの?
稲 垣
本当は何も違わないんですよ。ただ僕個人的な理由。母のような家を造りたいと思ったからです。母の名前には「綾」と言う文字が使われていたから“あやぐ”ではなく“綾事”。母の友人から旅立つ母に向けて、“風になって”と書かれた書をいただいたから「風の綾事」です。強く暖かく優しく造ったつもりですので、ぜひお越しください。お待ちしています。マザコンですいません(笑)
編集部
僕もマザコン。男なんか皆マザコンですよ。顔には似合わないですけどね(笑)楽しみにしてます。