2世帯住宅という住まい方…“ありがとう”

今回は、このコーナーではあまり触れられていなかった 2世帯住宅がテーマです。その理由とは……。
イラスト
編集部
ずいぶん前に紙面上で一瞬だけ触れました。その時は、親世帯と子世帯の寝室は重ねないほうがいいというお話しでした。大人の事情で。設計されてる方ってそんなことまで考えてるんだ、と少しびっくりしつつも感心したので覚えています。それ以降あまり2世帯住宅については触れませんね。
稲 垣
なぜ触れなかったかは後に説明させてもらうとして、まずは住宅雑誌でも、もはや言い古されている2世帯住宅の分類です。

◎2世帯完全分離型
玄関はもちろん、キッチンやお風呂も世帯別に専用の完全分離です。玄関ホールや廊下など1ヵ所で内部の行き来ができるパターンが多いようです。ちなみに、まったく内部で行き来ができない2世帯住宅は建築法規的に申し上げますと専用住宅ではなく、長屋住宅や共同住宅に分類されます。一般の一戸建て住宅とは違う法的な規制があります。それぞれの世帯が完結した生活ができ、プライバシーも保たれやすい。ただ、僕の感覚、というか私どものお客様を見ていると、独立性が高い分だけ逆に世帯同士の繋がりを意識されている方が多いような気がしています。

◎2世帯・部分共有型
このパターンはたくさんありますね。例えば玄関だけを共有して水廻りやLDKはそれぞれ専用。玄関、お風呂は共有でトイレやLDKは専用。様々なパターンがあります。共有部分がどこなのかにもよりますが、ご家族の中に自然とプライバシーの確保の意識が発生すると考えています。

◎2世帯・共用型
ひとつの家の中に2世帯が住まうという感覚でしょうか。どちらかの世帯に小さなシャワールームやミニキッチン、セカンドリビングなどがあるパターンも考えられますが、基本は共用。世帯同士の独立性やプライバシー確保は上記の2パターンよりは難しいと思います。
編集部
その3つの分類は聞いたことがあります。稲垣さんはどのパターンがお薦めですか? 僕は核家族で住んでいるので正直実感が沸きません。
稲 垣
どれがお薦めとは言えません。そのご家族の考え方だったり、敷地の形状や法規的な制約、もちろんご予算まで含めてご家族が目指す着地点は違うと思います。ちょっと後ろ向き……というかネガティブな話をしてもいいですか?
 僕がこの紙面上で2世帯住宅という一番身近な話題にあえてあまり触れなかったかという話にも繋がります。2世帯住宅については建築や設計という僕の仕事の範疇を超えて考えたり、語らないと中途半端になると思っています。
よく、住宅雑誌の表紙に、例えばですが……「家族が仲良く過ごせる2世帯住宅」とか「家族の絆を深くする間取り」なんていう表題のタイトルを目にします。
ホントにそんなことが間取り、建築側のハード面で実現可能でしょうか? 
誤解しないでいただきたいのはもちろん僕にも理想論としてはありますし、家族間の距離を適度に保つ手法も身に付けてはいるつもりです。
だけど2世帯という世帯は複数なのに単体の単位となる「家族」を考えると、そんな通り一遍の手法では通用しないことも様々あることは十分わかっているつもりです。
編集さんはご自分が核家族で住まわれているから、2世帯住宅について実感がないとおっしゃいましたが、それは何を意味するものですか?
編集部
う〜ん……僕は男だから例えば自分の実家に住んだとしてもあんまり抵抗ないけれど、家内は、世の女性はどう思われているのかな? と思います。
ああ、家内と母親が仲悪くて間に挟まれるもの嫌だな……(笑)。
でも、逆に僕が婿に行ってたりしたらと考えると、複雑ですね。
稲 垣
でしょ? でも「僕は男だから」って発言は男尊女卑にあたると思いますよ……関係ないか(笑)。男性でも女性でも、生活様式も生活常識もまったく違う、何十年もその家だけのスタイルが確立されている家で、ある日を境に生活していくストレスは並大抵じゃないと思います。
また、親世帯と同居するのが、“息子とその嫁”なのか“娘とその婿”なのかによっても間取りへのアプローチはぜんぜん違う。
だから間取りで「家族が仲良く」なんてものはその家特有の手法であって、平均的な手法などはありえないと思っています。
編集部
ちょっと待ってください。同居するのが嫁なのか婿なのかで間取りが違うというのはどういうことですか? ちょっと興味深い。
稲 垣
ご自分が親だと想像してみてください。親世帯から見て息子の嫁なら、(ちょっと冷たい言い方に聞こえるかもしれませんが)他人同士の女性……主婦と言ったほうがいいかな……が二人同じ家の中にいることになる。この辺は距離感が難しいですよね。
例えば極端な話、台所共有しているにもかかわらず食事は別。二人の主婦が時間帯を分けてそれぞれの世帯分のみの調理作業をしてる。
なんて話も聞かないばかりではないです。それは2世帯住宅のあるべき姿……もっと言えば「家族」のあるべき姿だとは思えないですね。
 で、逆に娘の婿と同居するなら、その家の若い方の主婦はもともと娘なわけですから、お互いが気兼ねすることはないでしょう。というか……恐らく娘さんはいくつになってもある程度お母さん、つまり親世帯に寄りかかると思います。
親にしてもそれが苦痛ではないんでしょうね。僕んちにはまだ嫁も婿もいませんから、想像の世界ですけど(笑)。まぁ、血縁の親子だから遠慮も何もなく激しいケンカになることもあるでしょうけどね(笑)。
この場合はお婿さん専用の「男の居場所」を狭くてもいいからきっちり作ることが大切だと思っています。
編集部
なるほど! なんかわかります。説得力ある話ですね。 そうか、2世帯住宅と簡単に言うけれど、そのご家族の考え方や住まい方がわからない限り2世帯住宅はこうあるべきっていう答えは一律には導けないってことですね。
稲 垣
そうです。わが社の社員(女性)が姑さんに電話してるのなんて聞くと、本当の親子のように会話してます。 ある意味、どんだけ強いんだよって思います(笑)。 でも、姑さんにああやって好きなこと言えるのは、信頼関係がしっかりできてる証拠なんですよね。きっと。家はその家族を現すとしても、家=家族ではありません。 やはりお住まいになるご家族の気持ちが一番大切。僕の仕事で家族のあり方を問うとか、僕の思想で家族が仲良くなれる間取りとか、そんな大それたこと考えてませんし、そういったハード面では人間の感情や気持ちをコントロールできるはずはありません。 やはりそのご家族がどのように接し、住まわれたいか。ここが一番大切なんだと思います。

追 記

前回のこの紙面上で僕は「母のような家を造りたい」と書きました。実は10月某日、僕の母は他界しました。母から最後の最後に教わった「ありがとう」という言葉の偉大さと大切さ。もしかしたら間取りや建築といったハードな面ではどうにもできない2世帯住宅の諸問題も、この言葉ひとつの使い方でなくなってしまうのかもしれない。それほどすごい言葉だと思っています。
 2008年もお世話になりました。来年もよろしくお願いいたします。