緑の設計

今回の住まい講座は、読者から質問が寄せられた話題。 稲垣さんの専門外かもしれない“庭木”のお話です。
イラスト
編集部
読者の方から、「新築したけれど庭木の1本もないのは味気ない。かと言って造園屋さんにお願いするほどの予算もない。ホームセンターや時折開催される庭木祭りみたいなところで自分で買ってきて自分で植えたいんだけど、どんな木がいいんでしょう? シンボルツリーみたいな木を1本だけでいいんです」って質問が来てますよ。専門外ですか?(ニヤリ)
稲 垣
え〜……基本的に造園を詳しく学んだことはないので、できれば造園屋さんにご相談を……と言ってしまうと、せっかくご相談いただいた方に失礼ですね。あくまでも僕の造園知識は、建築屋として最低限知っていなきゃいけないってレベルですし、木の植え方とか、剪定の仕方とかはあんまり詳しくないのをご承知おきいただきたいと思います。編集さんのご自宅は何か木は植えてありますか?
編集部
え〜……何年か前の大雪の年、雪囲いをさぼってしまって、知人からいただいた夏椿の木が根元から折れて無残になってしまって以来、我が家では木は植えないという家訓が生まれました。
稲 垣
ありがちですね(笑)。庭木やシンボルツリーもいいけれど、やはり雪国ですから雪囲いは必要ですもんね。長岡市内でも少し郊外の方に行くと、大きな敷地の農家のお宅がたくさんありますよね。で、家の西側にはケヤキや杉の大木がそびえ立っている。何でかわかります? 西側、長岡市内ならやはり気になるのは西風と夏の西日ですよね。その二つを直接家に当てない工夫がされているんですね。  記憶は定かでないのですが、風除けの樹木の効果は絶大で、風速を八割方消してしまい、冷暖房費も1割くらいは違ってくると読んだことがあります。農家のお屋敷だと、お隣との間に植えてある木を境木(さかいき)と呼んでいらっしゃる地域もあります。昔からのお屋敷ですから、元々は敷地の境界を示すものだったのでしょうけれど、昔、僕が感激したのは境木にエンジュという木を植えてあるお宅があった。エンジュは床柱などにも使われる木です。地域性で言うと、この辺りでは一番ポピュラーな床柱じゃないでしょうか? そのエンジュ、お隣との境界に植えてあって、庭木としてはもちろん、古くからある言い伝えでその地域ではエンジュを植えていたそうです。
編集部
エンジュ? 僕んちの床柱エンジュですよ。白とこげ茶のコントラストの奴ですよね? その言い伝えってなんですか?
稲 垣
エンジュは幹や葉っぱに多くの水分を蓄える木なんです。だからお隣から火を貰わない。つまり火事除けなんですね。そのおまじない的な言い伝えでエンジュは床柱に使われるようになったんだと思いますよ。同じようにイチイという木は文字通り一位と書くので、その家の男性にとって縁起が良いという語呂合わせみたいな理由で床柱に使われています。  あれっ、話が逸れてます? シンボルツリーの話でしたよね? では改めまして、まず、木の何を楽しみたいのかによって木の選定は変わってくると思います。例えば花の咲く木がいいのか、幹の美しさを見たいのか、葉っぱの色を楽しみたいのか、それとも木の形そのものを味わいたいのか。もちろん家のシンボルツリーですから家そのものとマッチングしないと意味がない。僕の庭木に対するボキャブラリーが露呈してしまいそうですので、過去、僕がお手伝いしたお宅に植樹したことのある樹種の紹介に留めさせてください。

●シャラ(夏椿)/一番一般的ですか? 梅雨のころ白い花の咲く幹の綺麗な木です。 ●ハナミズキ/これも一般的ですね。
●エゴノキ/スズランの様な花を咲かせます。赤く紅葉します。
●ヤマモミジ/モミジは漢字で紅葉と書きます。モミジとは通称で本当はカエデなんです。
●アオダモ/花と見間違うほどのかわいい実をつけます。紅葉も真っ赤でとても綺麗。野球のバットの原材料です。
●ジューンベリー/ブルーベリーに似た実をつけます。紅葉も赤く綺麗。
●コナラ/新緑の頃の葉っぱの美しさは一番。幹も綺麗です。

 すいません。高〜中木だと僕のボキャブラリーですぐ名前が出てくるのはこのくらい。他にも東京で仕事していた頃は馬鹿の一つ覚えのようにヤマモモという木を植えていたのですが、どうも雪国には合わないらしく、庭屋さんに止められた記憶があります。サンバーストという木は葉っぱが鮮やかな黄色で、すごく目立って綺麗なんですが、いかんせん流通量が少ないらしく滅多に手に入らないとか。
 でもあの黄色い葉っぱの木が家の前にシンボルツリーで植えてあったら、はじめて訪ねてくる人も絶対に間違わないモニュメントになるんですけどね。
 モミジと言うと和風な印象をお持ちになられるかもしれませんが、僕は和洋問わずに合うと思っています。本当は真っ赤っ赤に紅葉するヤマモミジが好きなんですが、庭屋さんに聞いたら紅葉の色は植えてある土の成分で変わるんだそうです。だからすごく綺麗に紅葉していたモミジを買ってきても、翌年はあんまり綺麗な色が付かなかったりするらしいです。あとはそれぞれの木で、根元から1本で伸びる1本立ち、根元から何本も幹が分かれる株立ちと、木、そのものの形もありますので、やはり実際にご自分の目で確かめて葉っぱの色や幹の色、肌触りなんかを確かめていただいた上でお決めください。 
編集部
がんばりましたね〜(笑)。シャラ、ハナミズキ、モミジ以外は初めて聞きました。やっぱり、木が1本あるのとないのとでは家の印象もまったく違ってくるんでしょうね。緑が家をいっそう映える物にするんでしょうね。
稲 垣
まったくその通りだと思います。格好よく言えば、木を植えることで家に命が宿る。最近流行の無機質な外観の家も木の植え方で温かく見えたりもします。それと、造園業者さんは敷居が高いと、特に若い方は思っていらっしゃいますが、全然そんなことはなく、どこの庭屋さんでも雰囲気、あるいはご希望の樹種と予算をお伝えすればちゃんと提案してくれますよ。
編集部
家訓を破って木を植えてみようかなぁ……。どうせなら四季を感じる紅葉が綺麗な木がいいな。
稲 垣
じゃあお勧めのヤマモミジの株立ち。ああ、雪囲いは忘れずにしてくださいね(笑)。