木の底力3

好評いただいている「木の底力」シリーズも3回目。 今回は木の“弱点”について教えていただきました。
イラスト
稲 垣
今回は木がパーフェクトな建築材料ではないという点に触れたいと思います。木は私たち人間にとって、あるいは建築材料として優れた材料ですが、決して完璧ではないんです。やはり自然が生み出す物だから欠点も存在します。そんな木、特有の弱点の話をしてみたいと思います。
編集部
木の弱点? 燃えるとか……前回も少し触れましたが腐るとか?
稲 垣
そう。前回も触れましたが、木は条件さえ揃ってしまうと腐ってしまう。これも天然素材ゆえの大きな弱点です。燃えるのも弱点といえば弱点でしょうか? でもプラスチックだって燃えるし、鉄だって着火はしないものの高温になれば溶けてしまいますよね。火災時とかアブノーマルな設定での弱点ではなくて、日常的な使用に関する弱点に的を絞らせていただきます。木の弱点、まずは木は狂う。というとあまりに聞こえが悪いですね……木は収縮すると表現したらいいですか? 木は呼吸すると言われます。といっても息をしているわけもなく、立ち木の状態ではもちろんのこと、柱や梁、床などに製材された後でも湿気を吸収したり放出したりしています。それが木の持つ最大のメリットであると同時にデメリットでもあると思っています。
編集部
確か前回も木の調湿性のおかげでビニールやコンクリートの家とは違う良さがあるとおっしゃっていました。そこが弱点にもなり得るなら両刃の剣ってことですね?
稲 垣
そういうことになります。木の調湿作用は健康にとっても間違いなく良いし、五感にも優しいんです。だけど調湿性は一方で膨張収縮というサイズ変化をもたらします。木の中に含まれる水分は含水率(がんすいりつ)という数値で表されます。含水率が高いということは木に多くの水分を含んだ状態ですし、逆に低ければ水分を吐き出している状態ということになります。この湿気を吸ったり吐いたりすることが木の収縮に作用します。わかりやすい表現でいうと、木が湿気を吸えば太ってしまい、湿気を吐き出すと痩せてしまう。それがダイレクトに木のサイズ変化として現れます。昔の家と違って、断熱性と気密性が高まった現代の住宅では、冷暖房時に短期間で含水率が低くなり、それによって収縮率が上がる、つまり痩せてしまうということも多いと思います。木の調湿作用は素晴しいけれど副作用の膨張収縮が許せないという方には木の内装材、つまり床や壁や天井をお勧めできないことになります。でも木の調湿性は偉大なんですよ。例えば8畳の普通の大きさの部屋の中の空気が含むことができる水蒸気量は、1辺が1mの正方形の厚さわずか4mmの杉、ヒノキの板が含むことができる水分量と同じです。そんなわずかな体積でも一生懸命呼吸して湿気をコントロールしてるんです。  予断ですが木ヘンに無と書いて、なんと読むかご存知ですか? 答えはブナ。ブナの森で有名なのは青森県の白神山地で世界遺産にも認定されています。なぜブナが木ヘンに無なのか……想像を絶するほど収縮するから、いくらなんでもこれは木じゃ無い。ってことでこの字になったそうですよ。でもブナの床は実にお洒落だしカッコいい。私どもの事務所の床もブナです。床と床の目地は空いてますけど気になりません。
編集部
なるほど。昔から木は狂う、あるいは動くと言っているのは、狂っているのでも動いているわけでもなくて湿気を吸ったり吐いたりして生きているということなんですね。製材された後も呼吸するなんて不思議ですね。木の弱点はこれくらいですか?
稲 垣
いえ、もう一点。木は変色します。正確に言えば変色しない物なんかありえないのですが、木の場合はその速度も速いし、木によっては最初の色の印象とまったく違う様に変色してしまいます。変色する原因の筆頭は光。直接の太陽光だけではなく、陽の当たらない部分でも確実に色は変わります。特に紫外線は木材成分の化学結合を切ってしまうほど強力です。光による色の変化は樹種により様々で、例えばヒノキとかレッドパインは飴色に変化していくし、ブラックチェリー、ウォールナットは色合いの深みが増していきます。チークの黒い筋は時間の経過とともに色が薄くなり色の濃淡が少なくなっていきます。ただ、これもまた木の底力だと思うのですが、光によって変色するのは木の表面に限られます。激しく色が変化するのは表面から約0.2mmの深さまで。つまり、薄く削ってしまえば元通りの色が現れてきます。こんな特徴は木材でしかあり得ません。また、屋外で使用する木は樹種をあまり問わずグレーに近い色に変化していきます。太陽光によって分解された変色物質が雨によって流されることから、室内にある木の変色とは少し違うようです。この症状が進んでしまった状態を風化と言います。  他には、ある種の木は金属と触れることにより変色します。木の中のタンニンという物質が鉄や銅などの金属イオンと触れることによって黒に近い色の化合物を生み出してしまうから。例えば金属製のゴミ箱や飾り物を床に直接置いてしまうと、金属と触れている部分だけ変色してしまいます。また、無垢の木の床でお住まいになられている方に一番ご注意いただきたいのは、塗膜を作るウレタン塗装以外の床、例えばオイル仕上げとかワックス仕上げとかの床では、せっけん成分を含むクリーナーのようなアルカリ性の物質と接触するとグレーから褐色に変化してしまいます。基本的にはアルカリ性のクリーナーの使用は避けていただくことがベストなのですが、誤って使ってしまった場合はお酢を薄めて変色した部分を拭くと元にもどります。  本当は無垢の床には洗剤などではなく、乾拭きで愛情こめて磨いてもらうと一番いい状態を保てるんですけどね。木は条件さえ揃ってしまえば腐る、燃える、収縮する、変色する。どれも自然の産物ならではのデメリット。極端なことを言えば、現在の無垢思考の流行をただ追うのではなく、木の持つデメリットがどうしても許せない方は無垢材を内装材として使わないほうがいいかもしれません。
編集部
なるほど。自然素材ならではのデメリットを理解しつつ、それでもメリットもたくさんあることを理解してくださいってことですね。
稲 垣
はい。その通りです。木の素晴らしさとその反対側にある、人間ではコントロールできない部分。ここをよく考えて、さらに設計者や建築屋さんとよく相談されてから木を使うのか使わないのか、そして使うなら樹種はどうするのかを決めてください。  さて、3回に渡って「木の底力」と題して続けてまいりました。木の持つ光と影の部分をご紹介してきました。ご紹介したことがすべてではありませんが、参考にしていただけたら幸いです。