木の底力2

今回のテーマは、前号に引き続き“木の底力”。 不思議で面白いお話をお聞き逃しなく!
イラスト
編集部
前回の「木の底力」が読者の皆さんに意外に好評だったので続編をお願いします。
稲 垣
……意外に……って。まぁいいや。前回は木が人間の五感にどのように作用するのかをお話しました。今回は木の性質そのものについてお話します。 (財)日本住宅木材技術センターっていう、国の出先機関がサンプリング調査した結果からお話します。小中学校で児童のインフルエンザによる学級閉鎖率を調べたんだそうです。どんな結果になったと思います?
編集部
イメージ的には鉄筋コンクリートの校舎より、木造校舎の方が健康によさそうですね。
稲 垣
サンプリング調査では、インフルエンザの学級閉鎖率は木造を1とすると、鉄筋コンクリート校舎は3。つまり実際にインフルエンザで学級閉鎖になっている学級は鉄筋コンクリート造の方が木造の3倍多かったという調査結果です。 同じように児童の病欠率も木造は鉄筋コンクリート造の1/3だそうです。ちなみに、全国の高齢者施設でも同じ調査をしたら結果はまったく同じ。 しかも、転倒率や不眠を訴える方の割合も木造のほうが圧倒的に低いんだそうです。 全国的に幼稚園・保育園はもちろん、小学校も木造が見直され、古い鉄筋コンクリート造の建て替えの時は木造を選択する行政庁も多くなっていると聞きます。
編集部
1/3というのは納得せざるを得ない調査結果ですね。その要因はなんですか?
稲 垣
僕は医療には素人ですのでなんとも言えませんが、インフルエンザウイルスは湿度50%以上の中ではそのほとんどが死滅すると聞いたことがあります。 コンクリートでは湿度をコントロールできないけれど、木は部屋が乾燥すれば自ら蓄えた水分を放出し、湿度が高ければ余分な湿度は吸収します。 その辺りの木の持つ調室作用が体にいい環境を作ってくれているのではないでしょうか。  前回もお話しましたが、木の持つリラックス効果は杉や桧などの針葉樹に多く含まれるフィトンチッドという物質によるものです。 けれどそのフィトンチッドの語源を調べてみたらイメージが狂ってしまいました。 元々ロシア語で、フィトンは「植物」、チッドは「殺す」という意味なんだそうです。フィトンチッドを発見した博士は植物を傷つけるとその傷の周囲の細菌だけが死滅する現象を見つけ、その現象は絶えず侵入してくる虫や細菌から自らを守るために作り出し、発散する“木の底力”なんだということに気づいたんだそうです。
編集部
僕もこの前、稲垣さんからいただいた桧の端材を、下駄箱の中に入れたり湯船に浮かべたりしてみました。確かに消臭効果はあるし、桧の香りを堪能しながらの入浴はプチセレブ気分を味わえます。
稲 垣
前回から木の持つ力についてお話してきました。では、木は万能なのかというと、そうではありません。当然ながら木であることのマイナス要因もあります。 その第一が、条件さえ揃ってしまうと腐ってしまうこと。コンクリートやプラスチックは人間が作り上げたもの。人間の手が再び加わらなければ元の形に戻ることはありません。しかし木は人間より遥か昔から地球にあって、人間が作り出したものではありません。ですので自然界と同じように条件さえ揃ってしまうと木材は腐ります。 違う言い方をすると、腐敗還元してもともと育った土に還ります。 森林破壊が騒がれていますが、伐採と植林のサイクルさえ確立してしまえば、またそのサイクルを逸脱しようとする輩がいなければ、木はすべての建築用材料の中で一番のエコマテリアルのはずです。
編集部
話がいつもの感じの話題に逸れてますよ……地球オタクの話じゃないでしょ?
稲 垣
あぁ……そうでした。話を戻します。木は確かに腐ります。 身近なもので言えばシイタケや舞茸、シメジにナメコの、よく口にするきのこ類も言ってしまえば木材から栄養を吸収し成長、そして最終的には木を腐らせてしまう木材腐朽菌といわれる一種です。 一般的には木の中心に近い部分で少し色が濃い部分を「心材」と呼び、色が薄く木の外周部の部分を「辺材」と呼びます。 年齢を重ねた方なら当然ご存知だと思いますが、心材を一般的には赤身と呼び、辺材を白身と呼びます。そして腐りにくいのは赤身。木が木として生きていくために最も重要な中心に近い部分ですから、腐朽菌に対しての対抗性も高いのです。もちろん樹種の違いでも腐りやすい木と腐りにくい木があります。  国産材では匂いの強いヒノキやスギなどが腐りにくいとされていますが、東南アジア、あるいはアマゾンの亜熱帯から熱帯にある木はその殆どが腐りにくい。 なぜそうなのかと言いますと、先ほどの自らを守るためのフィトンチッドという話と同様に、熱帯地域ではもともと木を腐らせる菌は日本などと比べると圧倒的に多いんですね。 そんな種類も勢力も、圧倒的な腐朽菌から身を守るために熱帯の木は腐朽菌に耐性があるんです。名前は有名ではありませんが、イペ、ジャラ、ピンカドなんて名前の木、多くは外部のウッドデッキに使用されることが多い木です。 木が腐る一定の条件は…… ◎温度(特に30度位が一番腐りやすい) ◎水分(大気中の湿度85%以上、木の中の含水率25〜150%) ◎酸素(酸素が無ければ腐朽菌は繁殖できない) ◎栄養(木の中にある栄養素) この4つが揃わなければ木は腐りません。 ひとつでも欠ければ木は絶対に腐らないのです。東京に木場という材木の町があります。川に丸太が浮かんでいる絵をご覧になったことがある方もいらっしゃるんでは?  新潟でも東港辺りに行くと見れます。木を水の中に入れておけば腐りません。意外ですか?  腐朽菌は水分から酸素をとることはできないから。ちなみに木の化石が世界中で見つかります。木の化石は干からびているだけで腐ってはいないんです。 なぜか。土の中にも酸素はないから。水の都イタリアのヴェネチアは、海の中に巨大な松の杭を打って石の板を並べただけの人口の町です。 一番古い杭は1000年経とうとしているという学説もあります。
編集部
なんか不思議で面白いですね。紙面の関係でご紹介できなかった“木の底力”は他にもありますか?
稲 垣
まだまだありますよ。いずれご紹介しますね。 木は通称で呼ばれることがあります。レッドパイン=赤松。ロシア赤松=赤松。国産赤松=赤松。日本国内に入ると輸入材も国産材も全部赤松で同じ呼び名になっちゃう。 先日、東京の大きな木材市場に行ったんですが、アメリカヒノキなんてあまり聞いたことのない材木が売られていました。 何のことはない業界の方なら誰でも知ってるスプルースという木です。 ヒノキと付けたほうが売れるんですって 。色が似てる、木目が似てるというだけで有名な木に似せた名前をつけて売られています。統一したほうが消費者の皆さんの為なんですけどね。 と、食品の産地偽装が後を絶たない昨今強く思います。