ダ・ヴィンチコード

ダ・ヴィンチと住まい……どう関連していくのか。 少し連休ボケ気味と言いつつ、お話は建築家としてのルーツに向かいます。
イラスト
編集部
「ダ・ヴィンチ コード」って随分哲学的なタイトルで始めるんですね。映画のタイトルじゃないですか? しかもタイムリーじゃないし……連休ボケですね?
稲 垣
うるさいなあ……でも半分当たってる(笑)。 何年かぶりにちゃんと連休が取れたんで少し休みボケもあります。 そこで「住まい講座」とは少しかけ離れてしまいますが、まだ連休モードですので僕が影響された一言をご紹介したいと思います。 レオナルド・ダ・ヴィンチ……知ってますよね?
編集部
あ!今、僕を完全に馬鹿にしたでしょ? ダビデ像やモナ・リザの作者です。
稲 垣
……。本気で言ってます? モナ・リザは合ってますが、ダビデ像はミケランジェロ。 フルネームはミケランジェロ・ブオナローティ。彫刻家、画家、詩人です。 そして一般的にはあまり有名ではないけれど建築家としても活躍してました。 イタリア、ローマの中にある世界最小の国、バチカン市国の「サン・ピエトロ寺院」はミケランジェロの設計ですね。
編集部
恥ずかしいぃ〜。ここは掲載しないでおきましょうか(笑)。
稲 垣
レオナルド・ダ・ヴィンチ、ミケランジェロ・ブオナローティ、そしてラファエロ・サンティの三人は画家や彫刻家として有名ですが、実はルネサンスの三大巨匠として建築家としても名を馳せました。
編集部
聞いたことはあるような気がしますが、三大巨匠と言われるほど建築家としても活動していたんですね。
稲 垣
僕が若かりし頃影響を受けた一言と言うのは、建築家としてのレオナルド・ダ・ヴィンチの言葉。 『単純であることは究極の洗練である』  僕なんかがダ・ヴィンチの言葉を考察するのもおこがましいのですが、僕が実社会で建築を仕事として始めた頃はバブル景気真っ只中の東京。設計補佐として先輩や上司の図面書きを手伝っていた頃です。 その頃のクライアント(施主)の要望は金額よりはいかに建物を豪華絢爛に見せるかということに終始していました。 ちょうどその頃読んだ書物の中にこの言葉が書かれていたのです。 カ〜ンと来た……と表現すると少々軽々しいのですが、どちらかと言うと超装飾主義的な建築に慣れてしまっていた僕にはその意味を瞬時に理解することはできませんでした。……ひょっとしたら今でも理解できていないのかもしれません。
編集部
その言葉ってシンプル・イズ・ベストとは違うんですか?
稲 垣
僕も最初はそう考えたんです。シンプルは簡単、簡素、単純などを意味する形容詞。確かに単純と言う意味も含まれる。けれどダ・ヴィンチ隆盛の頃のルネサンス様式というのは古典主義建築です。 「人体比例と音楽調和を宇宙の基本原理とした建築……」   正直、なんのこっちゃ?としか僕には思えないんですが、ルネサンス建築のビジュアルは決してシンプルではない。 むしろ現代においては華美な建築だとさえ思っていました。ミケランジェロ設計のサン・ピエトロ寺院は20代前半の頃、実際この目で見ました。 どの位の天井高さがあるのか、スケール感を失うほどの高い天井。 所々に配された彫刻。精巧なタイル絵。実際にそこに立ったときはその存在感に圧倒されるだけで、先の、人体比例と音楽調和……云々などは頭にもなかったのです(事実、サン・ピエトロ寺院以上に圧倒された建築は僕にとってはありません。 有名なアントニオ・ガウディのサグラダ・ファミリアよりも圧倒的でした)。   実際にルネサンス建築を見てもこれがダ・ヴィンチの言う「単純」とは思えなかった。けれどダ・ヴィンチが残した、自身が発想した建築を書きとめたノートのレプリカを見て思ったんです。 目に見える単純さではなく目に見えない単純さを言っているのではないかと。 そしてダ・ヴィンチはそのノートの中で古代ローマの建築家、ウィトルウィウスの著書「建築論」の一文、「人体は円と正方形に内接する」という記述を図で表現しています。恐らくこの絵を見たことがある方も少なくないのではないでしょうか。
編集部
う〜ん……。まったくわからん(笑)。 気持ち稲垣さんの口調も哲学っぽいというか、ダ・ヴィンチ コードっぽいですね(笑)。
稲 垣
ダ・ヴィンチが遺した建築は、窓や柱の置き方、扉の配置、すべてがリズムを刻んでいる。物の配列パターン。これこそが音楽調和という意味ではないのか。 彫刻やタイル絵を模様として捉えて、それを消して考えてみると実に単純な構成で建築が成立していることに気が付きました。 そして、どちらかというと哲学的で難しい建築論であるルネサンス様式の中にも、「人体は円と正方形に内接する」という記述を図で表現していることから建築の中心は人間であり、人間の動作、使い勝手を簡素化するには建築を単純化する必要があると考えたのではないか……って大袈裟ですね(笑)。  まあ、色々カッコつけて話しましたが、実際のところダ・ヴィンチを含む哲学的建築には僕なんかの理解は及びません。 ただ、僕は『単純であることは究極の洗練である』と言う言葉は現代の住宅においても大切なキーワードになるのではないかと思っています。 音楽調和、これを住宅に当てはめてみましょうか。規則的な窓や扉の配列はイコール規則的な壁や柱の配列を意味します。 単純で規則的であるだけで、その住宅の強さやコストは大幅に改善されます。そして、住まいが単純であればあるほど人の動き、使い勝手は合理化される。 ダ・ヴィンチが何を持って「単純」と表現したのかは僕などでは想像もできません。 けれど単純な物の考え方とシンプル(単純)な建築を造ろうという心構えは常に持っています。
編集部
正直、稲垣さんのお手伝いする住宅が「単純」だとは思えないんですが?
稲 垣
そりゃそうですよ。僕はそこまで「究極の洗練」された人間ではないですから。僕が考える単純(シンプル)さしか表現できません。
編集部
え〜……本当は休みボケではなく、連休中にまったく題材を考えていない状態で締め切りを迎え、仕方がないから影響された一言で話を濁した稲垣さんでした。ネタも切れ始めているので勘弁してやってください。
稲 垣
当たり! 次回は真面目にやりますので御容赦ください(笑)。