和モダン

最近の住まいの流行ともいえる「和モダン」。 和とモダンの融合という、少し分かりづらい関係についてお話いただきました。
イラスト
編集部
先日、住宅雑誌のページを何とはなしにめくっていたら、不思議に感じたことがありました。
稲 垣
住宅雑誌で不思議に思うこと? 何ですか、ぜひ僕にも教えてください。
編集部
つい数年前までの雑誌には、どの家の写真もある共通点があったように思うんです。言い換えれば“流行があった”と。でも、今回はそれを感じなかったんです。
稲 垣
なんだ、ある意味健全なことじゃないですか? 造り手は違うのに、完成した家の写真はどれも同じように見える。この方が不思議じゃないですか?
編集部
数年前は南欧風という流行がありましたよね。長岡市内でもその頃は南欧風の家が多かったと思うんですが……。
稲 垣
南欧風は今でも根強い人気がありますよ。自宅にするとしたら、僕には到底似合わないのは知っていますけどね(笑)。まあ、家に流行があること自体、この国の住文化が薄っぺらいものだということの象徴だと思います。ですが、洋服に流行があるように、家にも流行があるのは認めざるを得ない事実です。それを真っ向から否定するつもりはありません。住宅雑誌で流行が見つけられなかったとおっしゃったけど、現在でも流行りはあるんですよ。昨今はデザイナーズハウスと称した無機質な家が多いですよね。
編集部
確かにそうかもしれません。
稲 垣
でも、ある世代の方々に「どんな家に住みたいですか?」とアンケートを取ると、なんと7割近くが「和モダン」と答えるそうです。和モダン……って、分かるようで分からない言葉ですけどね。
編集部
稲垣さんはそもそも日本の家なのに、“和風って何だよ”って考えですものね。
稲 垣
それもそうなんですが、モダンっていうのが分かりにくいですよね。ちょっと分かりにくい話になりますが、建築業界ではモダン、あるいはモダニズムという言葉は古くから使われてきました。起源は19世紀以前の装飾的建築を否定し、○○様式と呼ばれる建築様式に代わり、脱装飾主義的な建築をモダニズム建築と呼ぶようになります。耳にされたこともあるかもしれませんが、アール・ヌーヴォーもモダニズム建築に当たります。そして1900年代後半から以前の考え方が復権し、一時捨て去ってしまった装飾性の復活などの提唱者が次々と現れます。それをポストモダニズムと呼ぶようになります。
編集部
ちょっと待ってください。話が難し過ぎて、ついていけないんですが……。
稲 垣
すいません。でも、もう少しですから……。そんなポストモダニズムが現在もなお続いているのかといえば少し違う。どちらかというと、モダニズム建築に回帰しているようにさえ思います。あぁ学生の頃、訳もわかってなかったくせにやたらポストモダニズムって言葉の響きがカッコよくて意味もなく憧れていたことを思い出すな〜。
編集部
ちょっと稲垣さん、一人で思い出に浸らないでください。話を整理すると、モダニズム建築への回帰……とやらも流行りだと言うことですか?
稲 垣
これは世界的に超有名な先生方の流れですから、僕なんかが「流行」なんて言ってしまうと業界から抹殺されかねませんが、そういった繰り返しはなかったわけではないと言うことです。乱暴な話ですが、それを日本の住宅に無理やり当てはめますと、やはり歴史は繰り返しているのではないかと思えます。
編集部
もう少し具体的にお話いただけますか?
稲 垣
洋風の流行、和風の流行、色の流行……やはり繰り返していくものなんだと思えます。景気のいい時は、家に重厚さを求めて色の濃い床やドアが流行る。これは間違いないんです。ですから、色の濃いインテリアが多くなりつつある今、やはり国全体では景気は悪くはないのだろうと判断できます。僕には実感できませんけどね。
編集部
色と景気の関係、面白いですね。
稲 垣
で、話を元に戻しますと、今の和モダンというと住宅雑誌の写真はこげ茶色の床に真っ白い壁と天井って写真が多い。「これが和?」と思いますけど、きっとこれは住宅においてのモダニズム建築で、脱装飾主義的な部分って多分にあると思っています。本物の数奇屋造りなんかは案外簡素で質素なんですが、恐らく皆さんの中での「和風」は決して簡素で質素な物ではないはずです。
編集部
一般に言われる「和風」って高価って言う印象ありますね。
稲 垣
本当はそんなでもないですけど、その高価と思われている和風の高価な部分と、装飾をそぎ落としていった形が、今の「和モダン」だという気がしてなりません。まあ言ってしまえば、まったく和ではない家を評して和モダンと呼ぶのは、形ではなく、日本家屋の暮らし方をされたいのではないかと思っています。しかも肩肘張らずに、ラフな日本家屋スタイルを。和モダンは決して和の素材でなくとも成立してしまいます。けれど“和”と呼ぶからには、色を替え、素材を替えても日本家屋としても佇まいが残らなければならない。無垢材や和素材以外で造った和モダンは、色を濃くすることで重さを出しています。古民家を再生して住まいにされている方もいらっしゃいますが、あれも広義で和モダンなんだろうなって思います。
編集部
和モダン、稲垣さんの得意分野ですね。そういった精神性で物を考えるのはお好きでしょ?
稲 垣
本当はそんなでもないですけど、その高価と思われている和風の高価な部分と、装飾をそぎ落としていった形が、今の「和モダン」だという気がしてなりません。まあ言ってしまえば、まったく和ではない家を評して和モダンと呼ぶのは、形ではなく、日本家屋の暮らし方をされたいのではないかと思っています。しかも肩肘張らずに、ラフな日本家屋スタイルを。和モダンは決して和の素材でなくとも成立してしまいます。けれど“和”と呼ぶからには、色を替え、素材を替えても日本家屋としても佇まいが残らなければならない。無垢材や和素材以外で造った和モダンは、色を濃くすることで重さを出しています。古民家を再生して住まいにされている方もいらっしゃいますが、あれも広義で和モダンなんだろうなって思います。
編集部
和モダン、稲垣さんの得意分野ですね。そういった精神性で物を考えるのはお好きでしょ?
稲 垣
嫌いではないですね。あくまで感覚的なことですので説明しづらいのですが、僕が日本家屋を好きな理由は数奇屋造りが好きなわけではなく、ましてや過度に装飾した日本家屋もどきが好きなわけではなく、緊張感にも似た、凛とした一本の真っ直ぐに通った筋、あるいは節度のようなものが好きなんです。僕は以前から、これから先の日本の住宅のスタイルは、一切の生活観を消し去ろうとする住宅インテリアの高級シティホテル化と、日本家屋回帰に大別されるのではないかと思っています。その一方の日本家屋回帰の枝葉の一つとして和モダンがあるなら僕は大歓迎です。
編集部
では具体的に、稲垣さんの思われる“和”はどんな生活なんでしょうか?
稲 垣
誤解しないでくださいよ。これは僕の考えですからね。基本は低く暮らすことだと思っています。ソファーなんか使わない座式の生活。目線を低くして床の上でゴロンと暮らすことができる事が前提。ゴロンと横になれたり、同じ部屋なのに見方を変えると節度のある空気感がある。そんなフレキシブル性と言いますか、可変性が“和”の持つ最大の魅力であり、力だと思います。
編集部
そんな“和”に対する思いが詰まった家が、古正寺のモデルハウスというわけですね。
稲 垣
なんだかオチが宣伝くさくなりましたが、いずれにしろ今の「和モダン」の流行が長く続けばいいなって思っています。