住まいを彩るもの1〜家具編〜

今回のこのコーナーは、住宅そのものではなく、 住まいを彩る家具やカーテンについて教えていただきました。
イラスト
編集部
読者の方から「家具やカーテンの話をしてほしい」というご要望がありました。
稲 垣
家具やカーテンの世界って、浅いようでいて、とても奥が深いんですよね。
編集部
では、まず家具の話からお願いします。
稲 垣
僕が建築業界に入って間もない頃、ある有名なインテリアデザイナーの方に家具業界の古くから伝わる格言を教えていただきました。 『家具は重さで選べ』。 木製家具であれば重い家具のほうが使用する木材の比重が重く、重い木材ほど硬く、重い木材のほうが加工しにくいためその技術を要する……そして結果的に丈夫で長期の使用に耐えうる家具になるということだそうです。
編集部
納得できますね。でも重い家具=高価というイメージがあります。
稲 垣
平均的な話でいえば、それは間違いないでしょう。ですからこの格言は、一般論ととらえていただきたい。例えば子どもさんが小学校入学の際に、何十万円もする勉強机を買い与える必要なんてないわけですよね。成長に合わせて、あるいはご家族のライフスタイルの変化に合わせて買い替えが予想される家具と、長い間使用し愛着を深めたい家具ではその選び方も必然的に変わってきます。
編集部
家具を選ぶ際、気をつけたいポイントを教えてください。
稲 垣
まず、大きな家具ショップで家具を見る時、気をつけていただきたいのは、広い家具屋さんで見る印象と、実際に部屋に入れたときの印象はかなり違うということ。広いお店で家具を見ると実際より小さく見えてしまうからなんですが、その部屋の大きさを把握して人間の動線に支障がないことや、視覚的圧迫感が出ないよう気をつけてください。
編集部
実際、部屋に置いてから大きさにびっくりすることがありますよね。
稲 垣
また、家具単体の形や色で決めないほうがいいです。すごく乱暴に物を言いますと、どんな部屋でも照明と家具さえ納まりが良ければそれなりに見えてしまうほど、家具はインテリアの重要なファクターです。ただ逆を言いますと、せっかくの部屋、空間を台無しにしてしまう可能性も秘めているわけですね。形、テイスト、質感、そして色。家具に自己主張をさせたいのか、逆に控えめな存在感にしたいのかで家具選びの基準も変わってきてしまいます。
編集部
気に入った家具があっても、衝動買いは避けたほうがいいですね。
稲 垣
それから、基本的な事ですけれど、家具を設置する場所はあらかじめ想定して、どのくらいの大きさの家具が最適なのかイメージしておいてください。決して広くない部屋では家具の高さは低く、奥行きは浅くというのが基本ですし、ベッドの高さなども低くしてなるべく床に近い低い目線を意識したほうが部屋は狭く感じません。
編集部
おっしゃることはよく理解できるのですが、僕ら素人にそこまで考えられません。
稲 垣
そうでしょうね。新築で工事をお願いしたハウスメーカーや工務店に信頼の置けるプロがいれば、一緒に選んでもらってください。ただし、すべてをまかせないでくださいね。予算やお好きな質感、テイストもあるでしょうから、相談しながらアドバイスをもらってください。
編集部
丸投げではダメですね。
稲 垣
少し話はずれてしまいますが、先日東京のあるキッチンメーカーの大きなショールームに伺った時に、初老のご夫婦と建築屋さんと打ち合わせされている場面に出くわしました。その奥様は昔から「家を新しくしたら真っ赤なキッチンにするのが夢だった」と目を輝かせてキッチンをご覧になっているのですが、建築屋さんからの言葉は「赤は当社の建物には合いません。白かグレーがいいと思います」と言い放ったのです。当然、その御夫婦は言葉を失い、奥様は悲しそうな顔をされていました。僕にその場面で口を挟む権利はありませんからもちろん黙って聞いていたのですが、この建築屋さんはいったい何様?と思ったのは事実です。ご夫婦がキッチンの色を「おまかせします」、あるいはアドバイスを求めたのなら理解できますが、奥様が「夢」とまで言った赤いキッチンを無碍(むげ)もなく却下・否定する権利は建築屋側にはないんですよ。むしろ奥様の夢の赤いキッチンが似合う建物を提供する努力義務があるはずなのに……。関係ない話ですが頭に来たので話しました(笑)。
編集部
今、お話されていた口調や表情を見ていただけでも、相当怒っていられたのは想像できました。でも、その奥さんの家造りのスタートが楽しくないものになってしまい、すごく気の毒に思います。
稲 垣
話は脱線しかけましたが、家具の話とまったく関係ないかといえばそうでもないです。私どものお客様にもいらっしゃるのですが、代々何十年も使った家具を新しい家でも居間の中心に置きたい……、あるいは新しく買う、どうしても欲しい家具にインテリアを合わせたい……とか、いろんなご要望があるわけじゃないですか。それを、その色は合いません、古い家具は捨ててくださいなんて言ってられないでしょ? 建売を造るならいざ知らず、注文住宅でお客様の要望にこたえる努力をしないのは許せません! あ〜、スッキリした。
編集部
話を戻しましょう(笑)。
稲 垣
そうでしたね。次にお話したいのは、家具の入手方法です。家具屋さんで家具を購入する他に、いくつかの方法があります。ひとつ目は「造り付け家具」。住まいの中にあらかじめ組み込んでしまう家具ですね。造り付けの家具は建築屋さんが家具職人にお願いするケースと、大工さんにお願いするケースがあります。収納家具のように直接目に触れる部分の少ない家具なら、大工さんにお願いしたほうがコストは掛かりません。
編集部
家具職人さんが作るものより無骨でしょうけどね。
稲 垣
ふたつ目はインターネット等を利用して、世界でひとつだけのオリジナル家具を製作してもらうこと。私どもも北海道の家具作家に用途、大きさ、仕様樹種を指定して家具のスケッチを書いてもらい、打ち合わせを重ねて世界で一つのオリジナル家具を製作することはあります。非常に高価ですけれど、なんとも言いようのない味が出てきます。基本的に北海道産の材料で釘金物は使用しないで作ってありますので、かなり長期間使用に耐えるものです。
編集部
ご予算との相談ですね。
稲 垣
注意したいのは、造り付けにしろ、置き家具にしろ、重くなる家具はあらかじめ設置場所を建築屋さんと相談すること。例えば本棚などは何百キロの重さになることもありますし、実際、広めの書斎にぎっしり蔵書が詰め込まれたら、グランドピアノを遥かにしのぐ重さになります。そこまで重くなると建築的な構造にも影響が出かねませんので、事前に相談されたほうが絶対にいいですよ。
編集部
住まいにおける家具の考え方も年々変わりつつありますよね。
稲 垣
今でこそ下駄箱(玄関収納)は新築時に設置されるのが当たり前ですが、昔は下駄箱=家具と言う認識で、家具屋さんから買って設置する時代もありました。最近では下駄箱を置かずに玄関脇に小さな収納部屋を造って、靴やコート、傘などを収納する納戸(私どもではシューズクロークと呼んでます)を設置することも増えてきました。
編集部
いずれにしろ、建築屋さんに相談できる状況であれば相談された方がいいみたいですね。
稲 垣
それは間違いありません。一緒に家具選びをしてもらってその手間を請求されるなんてことも恐らくはないはずです。むしろ、建築士やインテリアの資格を持っている人間は、そういった相談を持ちかけられるとうれしいはずですよ。ただ、アドバイスはしていただいても、ご自分の主義主張はしてください。