時間に負けない家

先日、テレビで放映された「稲垣の住まい考」も好評だった稲垣社長。 今回は日米の住文化の差について考えてみました。
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稲 垣
最近、資格学校の講師の仕事で月に一度、埼玉に行っています。 そこで知り合った同業者(1級建築士)の方がアメリカに住まわれていたことがあり、そのアメリカの住宅事情と日本のそれとでは大きく違うという話題になりました。
編集部
日本の家は諸外国の方から「ウサギ小屋」と揶揄されるほど小さいですからねえ。 僕も一度だけ実際のアメリカの住宅地を見たことがありますが、やはり外観も立派だし大きい家が多いですよね。
稲 垣
ところが大きさは驚くほどは違わないんですよ。 感覚的には圧倒的に大きいのかと思っていました。少し前のデータになりますが、新築住宅の面積は日本の平均が140u(約42坪)、アメリカが190u(約57坪)。 あれ……やっぱり15坪も違えばかなり違いますね。
編集部
平均的2LDKのアパート1世帯分違うわけですもんね。
稲 垣
住宅取得の平均価格は日本が約2500万円、アメリカが2000万円。 坪単価に直すと日本が60万円弱、アメリカが35万円。
編集部
安いですね……アメリカは。
稲 垣
賃金所得者の平均年収は、日本よりかなり低い350万程度と聞いています。 価格に関して言えば、アメリカなんかは町の書店にプランブックという、間取りと外観がセットで何百通りも載っている本が売っていて、それをそのまま依頼する、あるいは若干変更して建てるのがポピュラーなやり方だそうです。
編集部
味気ない気はしますが、合理的な文化なんでしょうね。
稲 垣
ただ、そのプランブックの中身を見ても、その合理的な住宅文化が薄っぺらいものではないのはよくわかります。
編集部
と言いますと?
稲 垣
日本にもプランブック的な雑誌はたまに見かけるじゃないですか。 けれど、必ずと言っていいほど「洋風」とか「和風」とかカテゴリー分けされています。冷静に考えるとおかしいと思いませんか? だいたい日本の家なのに「和風」って何なんだって思いません?
編集部
確かにそうですね。
稲 垣
諸外国のプランブックには流行などありません。伝統的な形、文化ともいえる住まい方がそこには確かにあります。 僕は自分が住宅業界にいることを棚に上げて申し上げさせてもらえるなら、この住宅においての伝統とか文化の有無が30年後の住宅の資産価値の差になるのではないかと思っています。 あくまでも平均値ですが、日本の家は25年強で壊されてしまいます。 アメリカの家は45年。安くて耐用年数が長い。 それは恐らく、欧米の方々は外壁や内装の壁、天井などのリフォーム(簡単な塗り替えですね)はご自身でされます。 プロでないとできない部分以外は全部自分たちでやってしまうわけですね。 これは住まいに対する考え方そのものが違うんでしょうけれど、すごく短い周期で自分の家に自分で手を掛けている。 そんなところも耐用年数には影響してくるのではないでしょうか。
編集部
資産価値の差と言いますと? まさか、アメリカの家は建てた時より売却する時の方が高く売れる……なんてことあり得ませんよね。
稲 垣
僕もそう思っていました。けれどそのまさかです。 すべての住宅がそうだということではないようですが、アメリカの住宅は年に数パーセントの資産価値が上昇するんだそうです。 給与所得層の平均年収は日本より低くても、住宅を建て、資産価値が上がれば10年以内くらいでその時点でのライフスタイルに合う家にどんどん住み替えていく。 恐らくはこれがアメリカの住文化なのだと思います。
編集部
なんか、うらやましい気もしてきますね。
稲 垣
けれど、誤解していただきたくないのは「だからアメリカの家は素晴しい」などと言いたいわけでは決してありません。 見習うべきところがあるとするなら、伝統的なデザインを受け継ぎ、10年後でも20年後でも違和感のない「時間に負けない家」を残していること。 日本のように毎年毎年、住宅の色や形の流行が変わってしまうのも文化だと言われてしまえばそれまでなんですが、「和風」から“風”を取った「和の家」という伝統継承もあっていいのではないかと思います。
編集部
流行ってありますよね。ある意味ハウスメーカーとマスコミが作り上げたものにみんなで乗っかっているようなものなんでしょうけれど。
稲 垣
いいところ突いてますね。ハウスメーカーの作り出したものにマスコミの軽い洗脳広告が駄目押しして、流行が作られていくと言っても間違いではないと思います。 良い意味でも悪い意味でも。
編集部
そういえば、最近の住宅雑誌や住宅展示場は床とかドアとかの色が濃いですね。 濃い色が流行ったのは10年くらい前でしょうか?
稲 垣
それだけシャバは景気が良いということなんですね。 昔から言われていることですが、内装に濃い色が流行るのは景気がいい証拠なんだそうです。景気が良い時は重厚感のあるものが流行ると。 そういえば僕がまだ東京で働いていたバブル絶頂期も、ものすごく濃い色が流行りました。
編集部
けれど稲垣さんは、先日テレビ放映された「稲垣の住まい考〜暮らしを楽しむ自分ブランドの家」の中で、『流行の形を作らないということにこだわるつもりはない』とおっしゃってました。 言い換えれば、流行の形でも稲垣流で作り上げると考えていいんですか?
稲 垣
前にも言ったように、家というのはその住まい手の自己表現そのものだと思うこと、さらに、僕達の仕事は作り手の自己満足ではなく、その住まい手の自己表現のお手伝いをしているに過ぎないこと。 その大前提が僕の前にはありますので、住まわれる方が流行を取り入れたいとの考えなら、僕にはそれを拒絶する意味も理由もないということです。 ただ、すべてを鵜呑みにするつもりもありません。 形は最近流行りのものでも、そこに流れているのは稲垣イズムでなければ僕がお手伝いする意味がありません。
編集部
なるほど。前にも言いましたが、稲垣さんの作る家には独特の雰囲気がありますもんね。その話のとき、稲垣さんは「空気」と表現されていました。 形は違えど、イナガキ流の空気を内包した住まい造りということですね。
稲 垣
その通りです。そしてそこに住まわれる方々にとって、物理的にはもちろん精神的にも、時間の流れに負けない家――時間に負けない家を造りたいと思っています。 住まい手の家をお手伝いするのは、自分の家が増えていくみたいな感覚です。 ……と言うより、もはや自分の家ですね。
編集部
おっしゃりたいことはわかりますが、間違っても勝手に入っちゃ駄目ですよ。 人相もよろしくないんだから。
稲 垣
……。