住宅を取り巻く環境〜2007春〜

住宅の価格に直結する材木の価格が上昇傾向にあります。 その原因と、値上がりがもたらす影響について考えてみました。
イラスト
編集部
今回のテーマは「住宅を取り巻く環境」ということですね。よろしくお願いします。
稲 垣
はい。今回取り上げたいのは材木の価格です。 特に欧州産の材木の値上がりに歯止めが掛かりません。ヨーロッパ各国の国内需要が堅調なため、出荷量は右肩下がり、価格は右肩上がりで進んでいます。 日本は欧州からの輸入木材の取引ではユーロ建て取引が主なため、日本国内価格は為替変動にも左右されます。
編集部
ちなみに2006年3月時点で1ユーロは140〜143円を上下しましたが、本年2月には1ユーロが160円を超えています。
稲 垣
つまり、為替相場分だけでも10%以上の仕入れ価格の上昇になっているわけですね。加えてヨーロッパ各国の国内需要拡大分を加えると、20〜50%の価格アップにつながります。わずか1年で驚くべき値上がりなわけです
編集部
各地で盗難が相次いでいる鉄やステンレス、銅製品とともに材木も値上がり、品薄感が出ていることは業界の方から伺いました。 さすがに住宅の価格にも反映されてくるのでしょうか?
稲 垣
少なからず反映されてくるでしょう。アメリカ、カナダからの輸入材も、アメリカ国内の住宅好景気に陰りが見え始めたとはいえ、高値安定の状態です。 ましてや完全無欠の材木を要求する(本来、材木に完全無欠などありえないのですが)日本向けの高品質グレードとなると、なかなか量的確保が難しいと聞きました。 現在、国内で『赤松』と呼ばれているものは、ヨーロッパ産の欧州赤松かロシア産のロシア赤松です。国産の赤松とはまったく違うものですね。 ロシアの丸太の状態での原木価格は、本年1月に昨年1月期の価格のちょうど2倍になり、史上最高の高値を記録しています。その輸出大国であるロシアは本年3月に、「今後2年以内に原木の輸出関税を80%まで引き上げる」と発表しました。
編集部
関税8割ですか? 100円の物を買うのに180円掛かるわけですね?
稲 垣
そういうことですね。ある木材輸入商社の方から聞いたことがあるんですが、地球温暖化防止が声高に叫ばれているこのご時勢、ロシアは伐採後の植林が進んでいないというんです。200年も経てばもとの森林になると悠長な考えらしい。
編集部
欧州各国が好景気だとはいえ、なぜこれほど急激に木材価格は上昇を続けるのでしょうか?
稲 垣
恐らく……という無責任な回答で申し訳ないのですが、世界的な材木の値上がりと量的な枯渇の原因の最たるものは中国だと思います。ご存知の通り北京オリンピックを前に中国は空前の好景気です。 まるで日本のバブル期のようだという人もいます。ロシアの材木輸出の一番のお得意様は日本だった……はずなんです。 ところが、無計画な森林伐採で自国に切り倒す木がなくなってしまった中国が異常な好景気ですから、当然のことながらあっという間にダントツの世界第一位の木材輸入大国になってしまったのです。
編集部
意外ですね、中国が木材輸入で世界一だということは。
稲 垣
そしてロシアは品質にうるさい日本に売るより、あまり品質を問わないお隣の超大国に材木を売る。ある意味自然な流れですよね。 そして、中国と日本により、ロシアのシベリア・タイガと呼ばれる原生林は次々と切り倒されていきます。ついには永久凍土地帯の原生林まで。
編集部
あの〜、木材価格の話から森林破壊の話に変わってきてますよ。
稲 垣
すいません。けれども長い目で見ればまったく関係ない話ではないと思います。 材木=森林と考えれば、使用可能な状態に育てるためには何十年と掛かる「資源」のはずなんです。石油や石炭の化石燃料はいつか必ずなくなってしまう日が来ます。 森林は再生可能だから、森林=資源という考え方が定着しないのだと思えて仕方ありません。 伐採適齢期の森林を材木にし、新しい資源のために植林する……というサイクルをきっちり守らなければ、それこそ資源枯渇で材木の価格なんて天井知らずになってしまいます。僕がどうしても環境保護、温暖化防止に話をつなげたいように聞こえてしまうかもしれませんが、間違いなく温暖化と環境保護はこれからの材木価格に密接に関係してきます。
編集部
なるほど、よく理解できます。
稲 垣
とはいえ、今年あるいは来年に家造りを計画されている方々には、そんな壮大な問題より目先の価格の話が優先でしょう。 輸入木材が高いなら国産の杉や桧にシフトするという考え方もあり、多くの建築屋さんがその方向に眼を向けています。
編集部
そうすると国内産の材木も値上がりしませんか? 需要と供給のバランスで。
稲 垣
おっしゃる通り。桧、杉材は値上がりしています。 和室の柱や造作材に使われる高級木材の価格上昇は、今のところないようです。 需要が急激に伸びていませんから。けれど汎用品の杉丸太は最近では最も安かった1年半前に比べ、産地によりますが30〜60%の値上がりを見せています。 汎用品とは節があっても使用目的に耐える、例えば壁の中に隠れてしまう柱などがそれに当たると思われます。
編集部
輸入材にしても国産材にしても、値上がり傾向は変わらないどころか高値で安定してしまう懸念もあるわけですね。限られた予算の中で、どうしたらその価格上昇分を吸収できるのでしょうか?
稲 垣
正直、何かの工夫で材木の価格上昇をチャラにできるようなレベルの値上がりではなくなってきたというのが実感です。 気をつけていただきたいのはこの先、本来構造材としては誉められた等級ではない材料が、構造材として流通してしまうかもしれないこと。 乾燥の度合いを取ってみても、まだ未乾燥なまま流通することも考えられます。
編集部
素人では、その優劣を見極めるのはきわめて難しいですね。
稲 垣
本当はキッチンやお風呂などの目に見える部分の価格を抑えて、構造材と基礎は常識的な範囲内で惜しまず予算を掛けたいところですが、奥様方にとって目に見える部分を決める作業こそが家造りのおもしろさ、醍醐味だということも知っています。 物凄く基本的なことなのですが、やはり信用のおける建築屋さんを探すことだと思います。実際それが一番難しいことだとは承知の上なんですけどね。意中の建築屋さんの建てた家に、実際にお住まいになっておられる方に話を伺うのが一番だと思います。
編集部
結局、最終的に信用できるのは人間……ということですね。家造りをされる方皆さんが、そういった出会いをされるのを心より願います。