最低の基準

今回のタイトルは“最低の基準”。 戸建て住宅の耐震強度不足について考えてみました。
イラスト
編集部
また石川県で大きな地震がありましたね。この国で地震がないところなんてないんだって、よくわかりました。
稲 垣
僕が地震の話をすると地震を呼ぶと言われたことがありますので、地震の話はしたくないのですが……。被災された方々に心よりお見舞い申し上げ、一日も早く復興することをお祈りいたします。
編集部
がんばってほしいですね。
稲 垣
今回は地震の話と関係ないようでいて、実は密接にリンクするであろう話題を。新聞を隅から隅まで読んでおられる方はご存知のニュースかもしれません。国土交通省が耐震偽装問題を受けて行った調査の内容なのですが、2001年以降に建築確認された全国の中層マンション約6000棟のうち、無作為にサンプリングした389棟の耐震強度不足の有無を調査したそうです。その結果、1割以上に当たる40棟において耐震強度に疑問が残るとされました。
編集部
1割以上……ですか。2001年以降に建築確認されたということは、ほぼ新築マンションばかりのサンプリングですよね?
稲 垣
そういうことになります。ただ、一連の耐震強度の『偽装』とは違い、悪意の偽装はなかったらしいのですが……。
編集部
悪意であろうとなかろうと、強度不足のマンションを買われた方々にとっては大問題です。
稲 垣
今回の調査は図面上だけでなく、施工ミスまで指摘したので、今までよりは一歩踏み込んだ調査だと思います。国土交通省が建て替えの目安にしている耐震基準の50%以下の建物はなかったようですが、基準の50〜90%だったということです。基準以下のマンションにおいては、これから各自治体が詳しく調査するそうです。 
編集部
つまり、国交省の調査で基準以下とされたマンションに、その事実を知らずにお住まいの方々が大勢いらっしゃるということですね。そんなに怖いニュースが大きく取り上げられないのはなぜなんでしょうね。
稲 垣
マンションだけじゃないんですよ。建売住宅を主に年間1000棟以上を建てる関東のビッグビルダーが、昨年6月、マンションの耐震偽装を受けて自主的に過去の自社物件の耐震強度を調査し、681棟に強度不足を発見、無償補強工事をした……という話は以前紹介しました。
編集部
はい、覚えています。
稲 垣
ここまでなら良かったのですが、新たに入ってきたニュースが問題なのです。過去の分譲住宅2万7000棟のすべてを調査したと言っていたにもかかわらず、実際は3割程度のサンプリングしかしておらず、今回新たに588棟で強度不足が見つかったそうです。
編集部
戸建住宅でもそうですか……。では、耐震強度不足が起こる一番の原因ってなんなのでしょうか?
稲 垣
マンションまで話を広げると逆にわかりにくくなってしまいそうなので、この紙面上では戸建住宅のみに絞って話を進めていきましょう。以前に何度も言ったことの繰り返しになるかもしれませんが、住宅を建てる際、確認申請という申請をします。建築「許可」申請ではなく、建築「確認」申請。行政あるいは国が認めた確認検査機関に提出された図面が、建築基準法を始めとする諸法律から逸脱していないか、平たく言えば法律の違反はないか「確認」してもらう申請です。一定規模以上の建物はこの申請の際に構造計算書を添付する義務が生じます。
編集部
この計算書を偽装したのが最初に発覚した耐震偽装問題ですね。
稲 垣
けれど、戸建住宅の多くは確認申請時に構造計算書の添付「義務」がありません。まあ、簡単な略式の壁量の確認はあるのですが。言い方は乱暴ですが、それこそかなり適当に考えても通ってしまう。それは確認申請を「確認」する行政や検査機関側の問題ではなく、申請する側の考え方の問題だと思います。
編集部
法律を改正して、戸建住宅でも構造計算書を添付する義務を負わせたらどうなんですか?
稲 垣
それが理想だと思いますし、近い将来にはそうなります。けれど、それに対するリスクも当然考えなければならない。木造に計算書添付義務が負わされても、それを「確認」する側の人間が爆発的に増えるわけではない。
編集部
ということは確認申請の手数料も上がるし、審査期間は当然長くなる。
稲 垣
ひょっとしたら、工事の工程そのものにも影響が出るかもしれない。けれど、その方向で法改正があります。建築基準法第一条には、この法律は“最低の基準”なんだとはっきり書かれていますし、その“最低の基準”を持って、「国民の生命、健康および財産の保護を図る」と書いてあります。
編集部
法律の最低の基準をクリアしていればOKという考え方の方もおられるでしょうね。
稲 垣
逆にこの法律に部分的にではあるけれど、物足りなさを感じている方もいると思います。僕は木造住宅でも詳細な構造計算はするべきだと思いますし、私どものお手伝いするお宅はすべて詳細な構造計算書をお渡ししています。この法律さえ遵守していれば丈夫で安心な建物になるとは一度も思ったことはありません。いわゆる過剰設計でコストが大きく跳ね上がるような過度な構造計算は必要ありませんが、“最低の基準”とされている法律をぎりぎりクリアしていればいいなどというのはどうかと思いますし、その基準さえ満たされていないなら論外です。
編集部
前述の建売住宅は、“最低の基準”さえ満たしていなかったということですね。でも、その基準を遵守していればそこそこ安全な建物になるわけですよね?
稲 垣
もちろんそうだと思います……。自信なさげで恐縮ですが、最低の基準に照らして地震などに耐える「耐力壁」と呼ばれる壁を最低限で配置した住宅は、あまりに心もとなくて僕は安心できません。あくまで僕の感覚ですけどね。中越地震の際、全壊認定をされ、現在は解体整地された築3年の家が存在すると最近になって聞きました。地盤も比較的いい場所なのにどうして? と思いました。
編集部
もし、その家が“最低の基準”を遵守していたとすれば、その基準となる数値だけでは足りない……ということになりますよね。
稲 垣
そういうことになりますね。
編集部
見た目や設備、価格などわかりやすいものだけでなく、むしろ素人にはわかりにくい部分の方が安全や安心のためには重要なんですね。
稲 垣
あんまり説明しない部分ですし、説明したくない方もおられるでしょうからね。
編集部
繰り返しになっても、その辺の話しは今後も何度でも説明してください。正直、直接何度も聞いた僕ですら、やっと稲垣さんが言いたいことがわかってきました。
稲 垣
話が下手くそですいませんでしたねぇ……。