君のためにできること

「今年の冬は雪が少なくていい塩梅だね……」。なんて会話が飛び交う今年の冬。 でも、そんな目先の小さな幸せの先にあるものは……。
イラスト
編集部
今日(2月1日)は、今年初めて冬らしい天気ですね。やっぱり冬だったんですね。
稲 垣
いよいよおかしいと思いませんか? 暖冬だと喜んでばかりはいられない。 日本の暖冬、あの寒いニューヨークで桜の開花、極寒の地モスクワでさえ観測史上初の暖冬で熊が冬眠できないでいる……。もう猶予はないと思うんです。
アメリカの科学者連盟が議会に対して行おうとした地球温暖化についての報告や提言が、石油産業に近いセンセイ方の圧力で公にされなかったり、地球がこんなに断末魔の叫びを上げるころになって、世界一の超大国のトップは一般教書演説でようやく「地球温暖化」という言葉を口にした。
その国には「地球温暖化」という言葉は「国を陥れるための悪質な宣伝だ」という考え方さえあると聞きます。 その国が国連に提言しようとしている温暖化防止策知ってます? 笑いますよ。
編集部
飛ばしますね〜怒ってますね〜……。笑える温暖化防止策ってどんななんですか?
稲 垣
宇宙にね、巨大な鏡を浮かべるんですって。なにやら太陽光線の1%を反射すれば、ここ数百年間の間に人間が排出してきた温室効果ガスのマイナスの効果をチャラにできるんですって。 でもね、実現のために必要な時間やお金の問題は「予測不能」なんですって。 まさに絵に書いた餅。その間にアンタの国のキレイな海岸線はなくなるってのに。 最悪2040年には北極の氷がなくなるとさえ言われてるのに……。
編集部
そんなこと実現できるんでしょうかねぇ……。かなり熱くなっていられるので、少し矛先を変えましょう。
大きな……と言いますか、漠然とした恐怖としての地球温暖化の先の世界。 正直、僕なんかは「大変なことになるんだろうなぁ」程度にしか考えられません。
稲垣さんはこういったニュースソースには詳しいけれど、こと「住まい講座」の中で語るとしたら僕等には何ができるんでしょう?
稲 垣
僕は科学者ではないから大局的な総論は語れませんので、ある有名な科学者の言葉を紹介します。

『Point of No Return。地球の気候変動は引き返せる地点を越えてしまった、私たちが知っている形の文明は生き残れそうにない』

最悪の予想ですが、現在からわずか9年後、地球の温度は少なくとも1.5度、最悪2.5度上昇すると警鐘を鳴らす科学者さえいます。 人間だって体温が2.5度上昇したら難儀くないですか? 海岸線の後退と慢性的な水不足で年間15万人が亡くなるであろうという予測も発表されています。 そのカウントダウンまでもう9年。何事もなければ僕も生きています。
僕の息子も娘も、最近可愛くて可愛くてたまらない社員の5歳の娘も、皆生きてるんですよ。決して何代も後の話ではない。
もう取り返しのつかないところまで行き着いてしまったのかもしれませんが、皆の悪あがきが、強力な武器にもなるかもしれません。
編集部
地球温暖化の最大の要因は人間ですからね。
稲 垣
 産業活動からのマイナス要因が大きいとはいえ、一般家庭から排出される二酸化炭素も軽く見ることができません。 一世帯の一般家庭から排出されるCO2のおよそ20%が暖房時。 自家用車も20%。冷房は3%に過ぎません。 一番ウエイトの大きいのは家電製品と照明を合わせた30%。
編集部
なんかCO2削減というと壮大すぎて個人レベルではできそうにない感じですけれど、そういった普通の生活の中から少しずつ減らすのは可能な気になりますね。
稲 垣
僕ら、住宅屋の立場で地球温暖化と立ち向かえることはたかが知れているかもしれません。でも、やらなきゃだめ。
これは責任なんて生温い言葉ではなくて義務だと思います。 砂浜のなくなった海岸線。マラリアやデング熱などの熱帯特有の病気の流行。 50年後、本州ではリンゴが取れなくなると言います。
その代わり、新潟や青森までミカンの産地になる。日本海に珊瑚が現れます。 熱帯魚も……。水不足と国土の砂漠化。気温上昇による生態系の崩壊。穀物の不作による慢性的な食糧難。 これ、全部日本で将来的に起こるであろうと言われていることです。
目も眩むような遠い将来のことじゃない。皆さんのお子さん、お孫さんがそのツケの中を生きていかなければならないんです。
正直、建築屋にやれることなんてたかが知れてます。ほとんど無力に近いかもしれません。だからといって何もせずに手を拱いているだけでは職能をまっとうできない気がするんです。
編集部
稲垣さんが実践したいと思っているのは、どんなことですか?
稲 垣
◎無駄な消費をなくす 。3R、つまりリデュース(減量)・リユース(再利用)・リサイクル(再生利用)。製品化された物がその使命をまっとうしたとき再資源化すること。海外で大流行の日本語「もったいない」の精神ですね(外国語には訳しにくいということです)。

◎雪国である当地にあっても、間取り・窓の配置・陽の入り方などを考えた、できるだけ熱負荷の少ない住宅を目指す。陽や風を最大限利用することによって、熱負荷の少ない家を造ることは可能だと思っています。

◎地球に負荷のある材料を家の中から徹底的に排除する。“地球に優しい”と謳われていながら、上記の3Rのどれにも該当できない材料はたくさんあります。未だにスクラップ&ビルドを繰り返していてはいけないと思うんです。

◎そして森林の保護と活性化。僕ら人間にできない二酸化炭素の吸収を、黙々と続けてくれている森林資源を大切すると同時に活性化しなければなりません。
 

まあ、難しく考えずにやれることをやりますよ。
編集部
地球オタクの稲垣さんは、さすがにこの話題だと話が止まりませんね。 けれど、一般の僕らも本当に少し考えなければならないと思います。 傍観者でいては駄目なんだと思えるようになりました。
タイトルの「君のためにできること」の“君”とは、僕らの子ども、孫のことですね。
稲 垣
そうですね。僕らだけが住めればそれで良いわけじゃない。 もう既に十分病んだ環境ですが、次代に少しでも、ほんの僅かでもいい状態で棲み継ぐために、僕は僕の範疇で可能なことをやろうと思っています。
編集部
稲垣さんも、そして実は僕も大好きな壮大なテーマのお話でした。 やれることは誰にでもあると僕も思います。