あいまいな尺度

家を選ぶときの目安とされている『坪単価』。 もし、その尺度があいまいなものだったら……。
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稲 垣
今月のテーマは住宅建築に関わる“ある尺度”についてお話します。その尺度は皆さんが一番知りたい価格の尺度、『坪単価』です。
編集部
読者の方からも、その辺りの問い合わせを時々いただきます。
以前、「住宅価格を決めるもの」と題した回で少し話していただきましたが、それをさらに掘り下げるということですね。
稲 垣
最初に申し上げておきたいのは、坪単価というのはひとつの目安であって、注文住宅であれば見積もりの総額を面積で割って出た結果でしかないと考えてください。
規格型のあらかじめ間取りも仕様も決められた住宅なら最初から坪単価はわかりますが、皆さんが一から間取りを練り、仕様を考える注文住宅では正確な坪単価は、見積もりしてみないとわからないというのが本当のところです。
もちろん経験値でおおよその当たりはつけられますが。
編集部
坪単価だけを聞いて、あそこは高いとか安いとか耳にしますよね。
稲 垣
でも、同じ土俵の上で戦っていない以上、一概に比較はできません。
編集部
と言いますと?
稲 垣
例えば、編集さんが家を新築する際にも様々なハウスメーカーさん、工務店さんを廻られますよね。そこで「お宅は坪いくらくらいですか?」と聞いたら、A社は坪50万円、B社は坪40万円だったとします。
編集部
坪当たり10万円の差ということですね。
稲 垣
50坪の家を建てるなら500万円もの差が出るわけです。
ですから坪当たり10万円の差というのはもの凄い差です。けれど果たして字面の10万円の差額でのみ、高い安いが比較できるでしょうか?
編集部
会社が違えば考え方の違いで、坪単価は変わってくると思います。
稲 垣
考え方もそうなんですが、工法、その会社の標準(あるいはお薦め)仕様、仕上げなどなど、金額を左右する要素は無数にあります。
だから、すべて同じ条件で金額を比較しなければ本来は無意味です。間取りがまったく同じだとしても、例えば無垢の木をたくさん使うのが標準の会社と、建材メーカーの製品のみしか使わない会社では価格の差が出て当然です。
編集部
以前おっしゃっていた通り、坪単価というのは家一軒一軒で違う固有金額だと考えればいいですね。
稲 垣
注文住宅の場合は皆さんの希望の仕上げや仕様により、坪単価は下がりもするし、上がりもするとお考えください。
けれどやっぱり雲をつかむような話ですので、ざっくりとした指標のための金額が坪単価とお考えいただければいいと思います。
さて、ここまでは今回の話の内容の序章なのですが、厄介なのがその“坪単価”を算出するやり方にも各社考え方が違うということです。
編集部
坪単価×面積では家は建たないということですね。
稲 垣
ハウスメーカー、ビルダー、工務店等々も、坪単価は大体の目安でしかありません。単純な話、その坪単価に面積を掛ければおおよその、見当としての「本体価格」はわかります。でも、本体価格だけでは家は家として機能しません。
編集部
具体的に家として機能させるためには、他にどのような金額が必要なのでしょうか? また、坪単価に入れる、入れないの判断基準はあるんですか?
稲 垣
例えば、下水道完備されていない地域では浄化槽が必要ですが、下水道完備の地域では不必要。また、地盤改良が必要な土地とそうでない土地もあります。
それから、もともと水道が敷地内に引き込んである土地と、そうでない土地。水道が引き込んであったとしても道路にべったりとくっついて建つのか、物凄く離れて建つのかだけでも配管が変わります。
つまり、その建物を建てたい“土地の状況”と“建物の配置”によって変動する部分の価格は、坪単価には入れられないのです。
もっとわかりやすく言えば、建物から外側の工事は不確定要素が多すぎて、初対面のお客様に価格はお伝えできない。だから「本体価格」などという、わかったような、わからないような言葉が発生したんだと思います。
編集部
少しわかりづらいですが、なんとなく理解できたような気がします。
稲 垣
でも、そのわかりにくさよりも、さらに『坪単価』をわかりにくくしている要素があるんです。
編集部
まだあるんですか?
稲 垣
それは、本体価格に含まない、“別途”というものです。
この基準が各社バラバラなのです。現在では地盤調査は当たり前のように行われています。この当たり前にするべき調査費用を本体価格に入れるのか、別途とするのか。どんなお宅の工事でも当然設置しなければならない仮設トイレが別途だったり、住宅の性能保証料が別途だったり。
照明器具は地場の工務店は坪単価に含まれることが多いと思いますが、メーカーやビルダー系は別途だったりします。設計施工とうたっていても設計料は別途が多いですし、絶対に必要なのに現場管理費や検査費用なども別途が多い。
だから悪いってわけではないのですが、10社あれば10社なりの積算方法があるので、坪単価×面積だけで総予算を試算するのはいささか危険な気はします。
編集部
基準を統一できないのでしょうか?
稲 垣
例えば木造在来工法の私どもと、大手プレハブメーカーさんとを同じ土俵に置くのは不可能ですよね? 私どもは工場生産のプレハブは作れませんから。
各社の得意とする部分と標準仕様によって、大まかな坪単価が違うのは当然の結果です。それでも、別途となる部分が各社バラバラでは比較のしようがないというのも事実なんですよね。
ちなみに私どもでは敷地の違いで左右されない地盤調査や、保証、仮設工事なども、お伝えする『坪単価』に含んでいます。
私どもと同じ考えの会社もたくさんありますし、「なんでこんな物まで別途なんだろう?」と思いたくなる考え方の会社もあります。
もう千差万別ですよ。
編集部
どうしたらいいんですか?
稲 垣
おっしゃる通り、本当は全国一律に本体工事範囲を決めてしまえば、これ以上わかりやすいものはないと思います。絶対不可能ですけどね。
だから2社くらいに絞った上で、詳細な見積もりをお願いすればよいのではないでしょうか。
編集部
「契約前に詳細な見積もりは作れない」という会社もあると聞きます。
稲 垣
僕に言わせたら「契約後に作る詳細見積もりってナニ?」って思います。見積もりを取ったら、その2社の工法、標準設備、標準仕上げなどの考えと、価格とを鑑みてご検討されたらよいと思いますよ。
ただし、冷やかしで見積もりを取ることはやめてください。
金額云々以前に契約する意思のない見積り依頼は止めていただきたいと思います。
施主さん側も建築屋側も、権利ばかり主張して義務を遂行しないことになりかねませんので。
編集部
なんか坪単価の話はもっと簡単なのかと思っていましたが難しいですね。噛み砕いて説明していただいたのでしょうけれど、わかりにくい部分もありました。
稲 垣
すみませんねぇ……日本語が不自由でわかりにくくて。
編集部
さらに詳しくお聞きになりたい方は、編集部宛にご質問のハガキをください。

今月の余談

前回のこのコーナーで、今年の1級建築士試験の課題を評して言った「真に実力のある人間、本当に知識のある人間を愚弄した課題だと思っています。
もっと辛らつな言い方をすれば、本来合格してはいけない実力の人間が多数合格してしまう試験だったと思います」という僕の発言内容に、予想外なほど様々なご意見をいただきました。
大人げないのですが、僕に反論してきた匿名の方に言っておきます。
その方々が、本当は一番僕の意見に賛同なのではないでしょうか?
 運のみで一級建築士になった人間を僕は知っています。
この業界の中の人間であれば、少なからず知っているはずですよ。
「出来ちゃった」「書けちゃった」「合格しちゃった」の試験であっていいはずはないのです。
 平成18年も終わります。今年も一年間ありがとうございました。
来年もよろしくお願いいたします。よいお年をお迎えください。