陽と風のあやぐ

〜稲垣建築事務所『古正寺モデルハウス』を考える〜 ※「あやぐ」とは……沖縄、宮古島の言葉。あやぐ=綾事。綾事とは美しい言葉、美しい唄の意味。
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今回の「稲垣の住まい考」は、7月に新しくオープンする稲垣建築事務所の『古正寺モデルハウス』について特集します。本紙の連載でも理想の住まいについて持論を展開してきた稲垣社長。新しいモデルハウスに込めた思いを語ってもらいました。

〜初めに“間取り”ありき〜

「現代の家族を取り巻く様々な問題に、家の造り手としての回答はないものだろうか?」 ……などという大それたことなど実はまったく考えてなかったのですが、家族にとってコミュニケーションの取りやすい間取り、気配の流れる間取り、気持ちよさ、そういったものをこの敷地で考えていくと、僕の中では“日本家屋”に回帰します。  この辺のお話は前回までにさせていただきました。では日本家屋の間取りのよさとはなんだろうと考えると、おそらくは可変空間であるといったフレキシビリティ、座敷・茶の間と呼ばれていた家の中心が家族の中心にもなっていた……というところでしょうか。 そして第一は、“光と風と気配の抜け”だと思うようになりました。 光の入り具合を計算し、風の通り道をコントロールするほかに、家族の気配を知る間取り。僕はそれを広がりの間取りと呼ぶことにしました。 家族の中心(この家ではリビング)から子どもさんの気配がわかる、平面上だけでなく縦方向にも繋がる間取り。そして間取りは家族へと回帰していきます。

〜必要になってしまった断熱性〜

広がる間取り、上下階の風と気配の通り道としての吹き抜け。 この大きな吹き抜けを設けたために、どうしても武装しなければならないものができてしまったわけです。それは、かなりのレベルでの断熱性。 “できてしまった”という、ある意味後ろ向きな表現を使うのは、僕自身が高断熱高気密といわれる断熱性を好きではなかったからです。 代替フロンを使っているような断熱材を使うわけにはいきませんし、リサイクルの効かない断熱材を使うわけにもいかないのです。 より確実にリサイクルが確立し、ホルムアルデヒド等の人体に有害な物質を発散しない、人にも地球にも優しい断熱材。結果的に現場で吹き付けるタイプの断熱材を選びました。 現場で吹き付け=発泡=代替フロンという問題がつきまとっていたわけですが、私たちが選んだ断熱材の発泡方法は水です。 水で発泡させるのですから地球温暖化物質の発生はありえないわけです。 しかもその断熱材の99%は空気。原料はわずか1%です。 水で発泡し、小さな気泡を作って、いわば空気で断熱する断熱材を選びました。 リサイクルも確立していますし、地球にも、人にも優しく、より確実に建物の断熱気密化できる断熱材です。  広がりの間取りを完成させるには、ある程度の断熱気密化が避けては通れなかったわけです。 建物の気密化は換気不足を誘発します。もちろんこの家は計画換気してありますし、換気扇の設置義務は当然満たしているのですが、心配性の僕は家の中から一切の合板を排除できないかと考え始めました。

〜廃除しきれなかった合板〜

この家から合板を含む一切の工業製品を排除できないだろうか?  結果から申し上げると無理でした。まずシステムキッチンと洗面化粧台です。 使い勝手を犠牲にすれば、工業製品でなくとも製作できたのかもしれません。 けれど僕が目指しているのはすべてにおいてバランスの取れた家です。ある一点に固執してしまうがために他の面を大きく犠牲にするわけにはいきません。  この家に唯一使用されている、床の下地の28mmの厚い合板。 これも同じ理由で排除できませんでした。床を張るための下地の合板。 役目はそれだけではなく、床の水平方向の剛性(強さ)を高レベルで維持するには1階も2階も28mmの合板は捨てられませんでした。 この合板も県産の杉で初めて作られた構造用の合板を使用しています。 多くは間伐材(木を育たせるために間引かれた木)の利用だと聞いています。 こういったところでも日本の木を使おう、そう思いました。

〜何故国産材木なのか〜

輸入材のすべてが悪いとは申しません。 ただ、その木が育った山の現況を知ることができにくかったり、一番の問題は輸送によって排出される二酸化炭素だと思うのです。 最近、木材の輸送距離を表す“ウッドマイレージ”という考え方が始まりました。 木材輸入量世界一はアメリカなのですが、日本のウッドマイレージはそのアメリカの5倍以上におよびます。 平均的な日本の家をすべて輸入材木で建てるとすると、そのウッドマイレージは14万7000kmにおよびます。 これをすべて国産材木にすれば、ウッドマイレージは1/100〜1/80にまで少なくなります。  ただ、僕は国産であれば……ましてやイメージ先行の県産材であればなんでもいい……とはまったく思っていません。 最近、材木のプロから聞いた話ですが、木が育った土質で木の色も狂いやすさもまったく違うというのです。であれば、信頼できるものをと探して、探し回りました。 ひのき、杉、松の信頼できる構造材を。桜、ブナ、クリ、カバ、広葉樹の堅牢な床を。 そして構造材に関していえば、僕がもっとも信頼する方にルートを見つけてもらい、福島県の材料を使っています。 広葉樹は北海道と岩手県産が主流です。価格は、正直申し上げて決して安くはありません。 けれど、この家は間違いなく地球と共存しています。日本製の家なのです。

〜進化しながら回帰する〜

住宅の世界は日進月歩。デザインの流行や材料の進化など、おそらく現在より来年、来年より再来年と、その流行と進化は進んでいくと思います。 僕もその時々の流行のカタチを作ることもあります。それはお施主さんの自己主張ですから。  家とはお住まいになる方の自己主張そのものだと思っています。 けれど、どんな家のお手伝いをさせていただいても、僕の中に……僕の奥に流れている源流は変わらないと信じています。 カタチこそ違え、すべては家族に回帰するのです。

ハイブ長岡と、新しくできる稲垣建築事務所の古正寺モデルハウスは、クルマなら3分ほどです。 ぜひ、「まるごと暮らし博覧会」と合わせてお楽しみください。

編集部
モデルハウスは7月8日の土曜日からオープンで間に合いますね?
稲 垣
前回も申したように、間に合わせます!
編集部
7月8日と9日にハイブ長岡行われる「まるごと暮らし博覧会」で、稲垣さんもエントリーされていますが、モデルハウスに関連した内容なのですか?
稲 垣
まるごと暮らし博覧会では、パネル展示を主として考えています。主催者である御社には申し訳ありませんが、非常に力の抜けたブースになると思います(笑)。
編集部
去年の博覧会では、いつの間にか会場から消えたりしていましたが。
稲 垣
今年はまじめに、ハイブ長岡とモデルハウスも行ったり来たりしますよ。
編集部
昨年、「怖そうで声がかけられなかった」と苦情も寄せられましたが。
稲 垣
そうでしたね、ひどい誤解です。お気軽に声をかけてください。
編集部
黙っていると怖いけど、お話すると案外いい人ですものね。
稲 垣
……。