日本の家は日本に返る.2

“人と地球に優しい家”を追求していくと、それは『日本の家』にたどり着く……。 理想の家づくりについて、あなたも大きな視点で考えてみませんか?
イラスト
編集部
先回に引き続きのテーマですね。 「日本の家は日本に返るべき」とおっしゃってましたが、洋風否定ですか?
稲 垣
まったくそんなことはありませんよ。 僕はそもそも和風とか洋風のカテゴリー分けがよくわかりません。 日本の家なのに和“風”とはどういうことか僕には解りません。 日本の家は日本に返ると申し上げたのは、スタイルではなく住まい方です。 人が主であるからこその「住まい」です。お好きなスタイルは千差万別であって当然です。
編集部
なるほど。私は単純なもので、洋風の家はだめなのかと思ってしまいました(笑)。 先回もコストを度外視して理想ばかり追っても無理と言われてましたが、まず稲垣さんが目指している『日本の家』を教えてください。
稲 垣
◎可能な限りリサイクルの効く材料で家を建てること(当然リサイクルが担保されていなければ話になりません)。
◎人間と地球に優しい家であること。
◎陽の光の入り方、風の通り方を知ること。
◎家族の気配を感じられる間取りであること。
◎可能な限り国産材を利用し、日本の森林を蘇らせる事。 もう一つ加えるとしたら
◎一本筋の通った空気感があること……ですね。
編集部
一つずつお伺いします。 「リサイクルの効く材料」と、「人と地球に優しい」というのは一部重なっている部分もあると思いますし、先回のお話の内容にもありましたが、繰り返しになっても構わないのでもう一度お話ください。
稲 垣
リサイクルにはそのままのカタチで“再使用”する方法と、カタチを変え品を変えある程度の手間を掛けて“再生利用”する方法とがあります。 いわゆる焼却は最後の手段。そして最悪なのが、焼却して熱回収もできずに埋め立てという手段しかない材料です。 廃棄物を出さないことが第一優先。 二番目は廃棄物が出たとしても捨てないこと。材料はリサイクルで、元の形や用途から変化したとしても再生されなければならないと思うんです。 けれど残念ながら、未だに焼却や埋め立てしか末路の残されていない材料が多すぎる。やはり石油製品系にリサイクルの効かないものが多いです。  住宅の建て替えであれば、使えるものは極力使う。 まず捨てないことを優先させるべき。人と地球に優しいというのは、フロンおよび代替フロンを使用している材料は使わない。 地球規模の問題だから、自分ひとりくらいはいいだろうという考え方は捨てるべきです。 必ず孫子の代にそのツケがまわります。シックハウスなんてものも昔はなかったわけですから、隔絶は可能だと思っています。 ただ、極端に敏感な方の中にはヒノキの匂いにアレルギーが出たり、木の匂いそのものを受け付けない体質の方もごくまれにはいらっしゃるようですので、すべての方に“健康・安心”な家はないと考えています。 その辺は建築屋さんとのご相談になりますね。
編集部
「陽の光の入り方」、「風の通り方を知ること」というのはなんとなくわかりますが、「家族の気配を感じられる間取り」というのは具体的にはどういったことでしょう?
稲 垣
ご家族の帰宅の際の様子が手に取るようにわかる、子どもさんの気配がわかる、具体的にいえば廊下を極力少なくして時と場合により閉じたり開いたりできる間取りということでしょうか。 昔の日本家屋って畳の間が田の字型に並んでいて、居間だったり、座敷だったり、宴会場になったり、お客さんの泊まる部屋にもなったりしてたじゃないですか。 それは当然ある程度の大きさがあったからこそ可能だったわけなので、それをそのまま現代の住宅には取り入れられません。 同じ面積ならいわゆる客間等の日常不用なもの、通行時のみに使用する廊下はなくていい。もちろん、玄関や玄関ホールをその家の見せ場として位置付け、広く、明るくその家の顔として作り上げる手法もありますが、ある程度広い床面積でないとそれも叶いません。 引戸で必要なときに閉じ、必要なときに開ける。これは昔からの日本家屋の手法です。
編集部
可変空間といいますか、広がる間取りということですね。
稲 垣
その広がる間取りを造るにはある程度、家全体がオープンになります。 冷暖房のことを考えれば当然一定以上の断熱性が必要になります。 断熱材の選択を間違えるとリサイクルできません。リサイクルが可能であり、一定以上の断熱性も確保できなければなりません。 そういった意味で、さっき挙げた僕の目指す『日本の家』はすべてがリンクしていくんです。
編集部
では、5番目にある「国産材の利用」について、もう少し詳しくお話しください。
稲 垣
現在、多くの日本の住宅は土台・柱・梁などの構造材のおよそ80〜90%を輸入材に頼っています。年配の方が“外材”と呼ぶ材木ですね。 ひょっとしたら100%輸入材の在来工法のお宅も多いのかもしれません。 恐らく2×4工法の材料は100%が輸入材だと思います。 もともと外国の工法ですからね。僕が何度もこの紙面で、豊かな森林資源がありながら外国の山を裸にしていく国が日本という国だと申し上げてきました。 なぜそうなんでしょう? 一言でいってしまえば、国の林業政策の失敗、それにつきると思います。樹種にもよりますが、ある期間を過ぎた森林は積極的に光合成をしなくなります。であれば、建築用材にとって適齢期を迎えた木を捨てることなく使い切り、新しい木を植えることで日本の森林資源の活性化と環境浄化という、一石二鳥にも三鳥にもなり得る可能性のある森林を放っておく手はありません。
編集部
一番わからないのが最後の「空気感」。空気感ってなんですか?
稲 垣
僕らの業界の中にはこんなことをいう人が多くいますし、僕自身も感じます。 “その家のよさ、造り手の思い入れは玄関に一歩足を踏み入れた瞬間にわかる”と。 親しい同業者の社長と話していたときに、それは“空気”で感じ取るんではないかと話していました。言葉では言い表しにくいのですが、緊張感とは明らかに違うけれど、凛とした一本の真っ直ぐな筋の通った空気。 こんな風にしか言い表せないです。 それはもちろん私どもがお手伝いしたお宅でなくても感じる時は感じます。恐らく……という曖昧な言い方しかできないのですが、作り手の思い入れと満足度、住まい手の思い入れと満足度が合致した時、それは清々しくも凛とした空気を発するのではないかと思います。 この「空気感」だけは他のものと違ってコストは一切掛からない。
編集部
家は買うものではなく建てるもの”だと言われていましたけれど、どの方にも予算があります。コストは無視できないけれど「空気感」はタダ。 その他のことも可能な限りの実現を目指しますというスタンスですね?
稲 垣
その通りです。けれどそんなことより、大前提として家は安全でなければならないということは付け加えさせてください。   
編集部
それにしても、今回はまじめな話ばかりで疲れました。
稲 垣
毎回まじめな話ばかりなんですが……(苦笑)。