日本の家は日本に帰る.1

“地球に優しい家”ってどんな家? 理想の家づくりを追い求める一級建築士が、環境問題と住宅の関係について考えます。
イラスト
稲 垣
先月のNHKスペシャル、『気候大変動』という番組ご覧になりました?
編集部
来た来た、来ましたね。たまたまですが見ましたよ。
稲垣さん見てるんだろうな、きっとこの話題を振るんだろうなと思っていました。地球オタクというか地球バカですもんね。
稲 垣
君、失礼だね(怒)。自分が住んでる地球に興味を持って心配するのが悪いか!
編集部
尊敬の意味を込めてですよ。バカになんてしてません。
僕自身もあの番組で考えさせられました。本当に今僕たちになにができるんだろうと。
稲 垣
本当に今、目の前にある危機として背筋が凍りつく思いでした。
あれはオカルトでも作り事でもない、このままだとかなり高い確率で、地球は今とは違う惑星になってしまう。
脅しでもなんでもなく、本当に100年後の地球に人は住んでいられるのでしょうか?
編集部
2070年には北極の氷がすべて溶ける。海面が上昇する。 海中に水没する面積が全世界で日本の国土の3.5倍。2100年にはアマゾン川流域が砂漠になる。近い将来、日本にも最大瞬間風速70m超のカトリーナ級台風が頻繁に上陸する……。 まあ、スーパーコンピュータの予想なので100%ではないにしても、かなり高い確率で的中するんですよね。
稲 垣
すべては地球温暖化の影響。 番組でも触れていましたが、今おっしゃった現象は先進国すべてが「京都議定書」通りに二酸化炭素排出量を削減できたときのシミュレーションです。 計画通りに削減できなければ予測よりずっと早く、日本は亜熱帯になるのです。
編集部
しかし、京都議定書では削減されるはずの二酸化炭素排出量は現在、逆に増えています。
稲 垣
そして、世界最大の排出国のアメリカが産業活動に支障が生じるとして、早々に京都議定書からも次の削減の枠組みからも一抜け状態です。 僕はあの国の傲慢さが大嫌いです。
編集部
まあまあ。けれど僕らのできることなどたかが知れてます。 個人の意識は大切だけれど、世界なり国なりが、産業にも個人にも規制をかけないと何も始まらないのでは?
稲 垣
「まず先進国だけで目標値の削減をせよ。話はそれからだ」と言った、世界から見て十分に先進国なのに自分たちだけ途上国だと言い張る某超大国のような考え方ですね。 個人が変わらなきゃ規制なんかかけても国なんか変わらないですよ。
編集部
こういう話題だと、いつか選挙に立候補する気なんじゃないかと思います。
稲 垣
(笑)ありえません。まあそんなことより建築屋になにができるかを考えましょう。
編集部
小さな事からコツコツとですね(笑)。
稲 垣
住宅づくりと二酸化炭素排出との関係は意外と根深いんです。 当然といえば当然ですが、冷暖房効率を改善して石油や石炭などの化石燃料の使用量を減らせば二酸化炭素排出量も減ります。 では単純に住宅の断熱性、気密性を上げればいいかというと、そう単純な話でもありません。そこには当然コストという大きな壁もあるのですが、そんなこととは別に、断熱材の多くに使われている代替フロンの問題があります。
編集部
代替フロンは“地球に優しい”ものだと一般的には言われてますね。
稲 垣
皆さんもご存知でしょうが、地球を守ってきたオゾン層を破壊したのはフロンガス(正式にはクロロフルオロカーボン)です。 現在ではこのフロンそのものは使用されておらず、代替フロンと呼ばれる別のガスを使っています。ですが、代替フロンの中にもフロンガスほどオゾン層を破壊しないまでも、温暖化係数が極めて高い物があります。 “地球に優しい”とうたわれていても、「廃棄処分が困難=リサイクル不能」であったり、「当の代替フロンは回収不可能」であったり、断熱性を上げて地球温暖化防止に一役買ったつもりでも、まったく逆に知らないところで地球温暖化物質を使っていたなんてことも考えられます。
編集部
ちょっと難しい話になってきましたが、要は断熱性を上げるつもりで選んだある種の断熱材にも温暖化物質が入っていて、リサイクルもできないとなれば結局、地球に優しいと言えるのか……ということでよろしいでしょうか?
稲 垣
その通りです。 それから、温暖化防止ということを考えると、住宅に使われている材木などは現況ではほとんど輸入材に頼っていますが、国産材にすれば抑制に一役買うことができるのです。

国産材で温暖化防止?

編集部
国産材だと温暖化防止になるって、どういうことですか? 
稲 垣
日本には伐採適齢期を迎えた杉や桧が文字通り山ほどあります。 けれど、コストの点から輸入材に頼っているのが現状です。 外国から材木を輸入するとなれば、当然タンカーで海上輸送です。その間に燃やす重油の量たるや半端ではありません。 小さい話に聞こえるかもしれませんが、例えばアメリカやカナダから輸入する場合と、国産材の輸送では、使用する化石燃料はおおよそ60分の1だと聞いたことがあります。 そういった意識こそが大切なんだと思います。
編集部
言い古されている、あるいは軽んじて使われている“地球に優しい家”ですが、稲垣さんはどうすれば実現できるとお考えですか?
稲 垣
簡単な話だと思うんですよ。 まず、できることをやる。それだけです。リサイクル可能な材料を使う。工業化製品はなるべく使わない。 輸送において化石燃料をあまり使わない。冷暖房費をケチる(笑)……というか、リサイクル可能な断熱材で断熱性を高めて、機械による冷暖房は極力使わない。
編集部
なんか断熱性が高い以外は、昔の日本の家ですね?
稲 垣
あ! 最後の締めに使おうと考えていた言葉を先に使いましたね?  でも、その通りなんです。『日本の家は日本に返る』べきなんだと思います。 陽の光と風の通り道を知り、国産の材料で、もちろん工業化製品なんて何もない昔の日本の家。そこに少しだけ断熱性を高めてやればそれ以上の“地球に優しい家”はあり得ないと考えています。
編集部
でも、なんか高い家になりそうですね。
稲 垣
だから、やれることからやれば良いのではないでしょうか? 個人の住宅でコストを度外視してすべてを満足させるのは無理だと思います。僕はその意識を持つことから始めなきゃ何も変わらないと思います。 そして“地球に優しい家”は、住まわれる“家族にも優しい家”になるはずだと信じています。
編集部
家族に優しい家とは?
稲 垣
そこはまたの機会にお話しましょう。 地球に優しい家と、家族に優しい家が僕の考えている通りに同義語だとすれば、そこにこそ僕の目指すべき住まいがあると思っています。
編集部
わかりました。楽しみにしています。 しかし、余談ですが僕らが生きている間の地球は大丈夫なんでしょうか? 日本が亜熱帯の気候になって、マラリアやデング熱で亡くなる人が出たり、コレラで学級閉鎖とか、今まで日本で流行らなかった病気が爆発的に発生したり。 なんか、その部分だけえらくリアルに感じてしまったんです。
稲 垣
わかりませんよ。あの番組で紹介されていた「地球シミュレーター」なるスーパーコンピュータは、ハリケーン・カトリーナも予測していたと言ってたじゃないですか。 いずれにせよ、日本の亜熱帯化は進んでいくんでしょうね。 できることだけやりましょうよ。 自分たちが生きている間のことだけではなくて、自分たちの孫やひ孫、やしゃ子のために。
編集部
長生きされるつもりなんですねえ?
稲 垣
……たとえでしょ!