いい家の定義

“いい家”ってどんな家?  理想の家づくりを追い求める一級建築士が考えるいい家の定義とは。
イラスト
稲 垣
今年の6月1日から消防法が変わります。
新築住宅は火災警報器の設置が義務化されるんですよ。
編集部
本当ですか? 知らない人は多いですよね。またお金のかかる法律改正ですね。
稲 垣
法律特有の分かりにくい書かれ方をされているのですが、2階建て戸建住宅の場合1.就寝の用途に供する居室、2.上記居室のある階の階段(避難階は除く……避難階は、まあ特殊な場合を除き1階です)が主な設置場所です。
ただし3階建て以上の住宅は他にもあります。
編集部
??? 分かりやすく言っていただいてるのでしょうが、正直言ってわかりません。
稲 垣
要は2階建ての住宅の場合、寝室や子ども室、おじいちゃんおばあちゃんの部屋等々、その部屋で休まれる(寝る)部屋のすべてと、その中の部屋が一つでも2階にある場合は、避難路に当たる2階の階段のところにも付けなさいってことですね。
4人家族の標準的なご家庭でしたら4個もあれば足ります。
編集部
気になるのは費用ですね。莫大な出費がかかるのではないですか?
稲 垣
定価でだいたい1個数千円です。
4個でも2万円もあればお釣りがきます。工事は必要ないので、工事費はかかりません。
編集部
火災警報機って、煙を感知して警報音を出すものですよね。
台所でサンマを焼いたら警報音が鳴りませんか?
稲 垣
ですから、就寝する部屋ですよ! 台所で寝る人はいないでしょ。
編集部
6月からということは、僕の家は対象外ですね。
稲 垣
いいえ。既存の住宅も対象です。
ただ、既存の住宅に対する適用時期は各市町村の条例によって違うようです。
東京都などは既に昨年から適用されていますし、先ほどお話の出た台所や居間などにも、条例によって設置義務が付加されています。
編集部
何年か前にはハウスシック対策のためにすべての住宅に換気設備が義務付けされ、今回は火災報知設備ですか。なんか官民ゆちゃ……
稲 垣
それ言っちゃ駄目! 何年か前に新宿の雑居ビルで火災があって、44人もの方が亡くなった火事があったじゃないですか。
換気設備義務付けも住宅の気密性が向上して自然換気がされにくくなってきた……だからハウスシックも爆発的に増えた。
すべてはそれに対する国の対応策ということだと思います。
編集部
ずいぶん大人になったというか、丸くなったというか……本当は納得してないくせに。
稲 垣
(苦笑)。ただ、国が考えるのは国民の生命、健康の維持です。
他にも昨年来からの耐震偽装問題で恐らく近いうちに建築基準法も変わるはずです。
1級建築士だって一度試験に合格してしまえばそのまま自動更新のような状態でしたが、今回の事件を期に、建築士も更新制度に移行するはずです。
既得権益を持つ者(僕もそうですが)に資格の上にあぐらをかかせないという意味ではいいことだと思います。
そういった点を考えれば、今回の消防法の法律改正もある意味必然ということです。

「いい家の定義」とは?

編集部
さて、今回のテーマは「いい家の定義」ということですが。
稲 垣
今ほど法律のお話をしましたが、“いい家の定義”はそこから先にあるのだと思います。居心地がいい、スタイルがいい、気持ちいい……などなど、“いい”っていろいろあるじゃないですか。
それは決して工法だの材料だの断熱性だの、設計のセンセイのネームバリューでもなく、ましてやキッチンやお風呂などのパーツで良し悪しが決まるわけはありません。
住まい手が何を重視し、満足するか、大袈裟にいえば愛せるかどうかだと思うんです。
こういう言い方をすると非常に抽象的で判りにくいのかもしれませんが。
編集部
例えば居心地がいいっていう感覚だって、人により違いますよね。
編集部
僕個人のことでいえば、内装に木を使い過ぎた家は逆に疲れる。
天井の高さだって何でもかんでも高ければいいとは思わない。
けれどそれらを心地よいと感じる方だっていらっしゃいますし、それを否定するつもりもありません。
僕の仕事はお客様個人個人が持っておられる少しずつ違う心地良さ、気持ち良さ、格好良さの感覚をその方に代わって表現していくことだと思っています。
編集部
なるほど。以前、ご自分は「表現者」で在りたいとおっしゃっていた内容ですね。  
編集部
そうですね。
以前の繰り返しになりますが、ご家族そのものを表現して、何年経っても時間に負けない空気、時間に負けない居心地、初めてその家に入った時に懐かしささえ感じて、逆に、何年経っても新しい心地良い空気を吹き込みたいと常に思っています。
以前に間口が3間(約5.5m)しか建てられない、いわゆる“うなぎの寝床”の土地に建て替え計画のお客様が、「こんな土地ではまともな家は建たないと思うけれど少しでも夢に近づきたい」とおっしゃっていたことがあります。
思いがあれば土地の形状やその他の外的要因でそのお客様なりの「いい家」が建てられないなどということはまったくありません。
編集部
当然、「いい家」には地域性も含まれてきますよね? 
今年は雪害に悩まされていますがそういう視点から見てみるとどうですか?
編集部
地域の気候、風習などにも目を向けないと地域なりのいい家は造れません。
ご年配の方ならご存知の方も多いと思いますが、雪の積もりにくい屋根形状があります。
自然落雪ということではなくて。場所によっては有効ではない可能性もありますけどね。地域性ということならば、札幌の新興住宅地に行くと見た目で勾配のない屋根形状のお宅が非常に多いですね。
ごく緩い勾配で建物の真ん中の方に向かって勾配がとってあって、屋根のど真ん中に大きな雨樋が付いています。
これを現地では“無落雪式屋根”と呼ぶのだそうです。
編集部
なぜ、そんな形状なんですか?
編集部
知り合いに聞いてみたところ、札幌あたりは土地価格が高く、比較的狭い分譲面積なんだそうです。
そこで風で飛んでくる雪には文句は付けられないが、お隣から落ちてくる雪には敏感に反応していざこざが絶えなくなるので、屋根勾配は外に向かって付けないらしいんですね。
編集部
お隣やご近所の事まで考えないと家は造れないと言うことの典型ですね。
編集部
僕は家は個人のものであるのは当たり前だけれど、町の街路灯の役割や目印としての役割なんかも持つべきだと思うんです。
極端な例えをすると、家の近所で女性や子どもさんが暴漢に襲われそうになった……そんな時真っ先に助けを求めやすい家。
家そのものが住んでいるご家族の暖かさを表現できるようにならないかと考えます。
編集部
お隣やご近所の事まで考えないと家は造れないと言うことの典型ですね。
編集部
僕は家は個人のものであるのは当たり前だけれど、町の街路灯の役割や目印としての役割なんかも持つべきだと思うんです。
極端な例えをすると、家の近所で女性や子どもさんが暴漢に襲われそうになった……そんな時真っ先に助けを求めやすい家。
家そのものが住んでいるご家族の暖かさを表現できるようにならないかと考えます。
編集部
素敵な話ですが、なんだか難しそうな話ですね。
編集部
実現できているとは思いませんが、いつか必ず形にしますよ。
住まうご家族そのものを表現する僕の中の「いい家」を。

追記 本日(2月8日)、福岡県で新たに3棟の耐震偽装のマンションがあったと発表されました。まったく……まだ他にもバカがいたのかっていう感じです。私を含めた一級建築士の名誉のために申し上げますが、ほぼすべての建築士はきちんとした正義感も職能も持っています。ほぼすべて……すべてではなかったのが悲しいですが、ああいった輩ばかりだとは決して思わないでください。