ローコスト? ロープライス?

最近よく目にする「ローコスト住宅」。しかしそれは本当にローコストと呼べるものなのでしょうか。家づくりにおいて本当に大切な物は何なのか。一級建築士の稲垣隆がお答えします。
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稲 垣
今回は住宅の価格に触れます。
県外の友人から、ちょうどこれからお話しする内容の相談があったもので。
編集部
価格に触れるのは二度目ですね。
そもそもローコストとロープライスはどう違うのですか?
稲 垣
ローコストは読んだそのままコストがロー(低い)、ロープライスもそのまんまプライスがロー(低い)と言うことでしょうか。
編集部
……。僕をバカにしてるでしょ?
稲 垣
(笑)いえいえ。とんでもない。
けれどローコストとロープライスを履き違えて考えている方は多いと思いますよ。
コストは広義では物の価格そのものを指すような使われ方をしていますが、本来、コストの意味は生産原価です。価格そのものを指すのはプライスですね。
ローコスト=原価を抑える事と、ロープライス=価格を抑える事では意味が違いますよね。よく「コスト削減」って言うじゃないですか?
 プライス削減とは言いません。コストを削減してもプライス削減にはならないケースの方が多いとは思います。
ロープライスと言うと安売りみたいで聞こえは悪いですが、ローコストと言うと工夫してますよ的で耳障りが良いじゃないですか。
編集部
我々の世界でも例えば100枚印刷するのと1000枚印刷するのでは一枚当たりの印刷コストが違います。
それはスケールメリットと呼ばれるものです。ローコストとはその辺も含まれるのではないですか?
稲 垣
当然ながら同一品を大量発注して仕入原価(コスト)を下げた上で、売値(プライス)を下げるやり方はあります。
そういった意味では大きいハウスメーカーさんの方が、商品が同じであれば地元の工務店よりコストは安いでしょう。
それがプライスの安さに繋がるのかどうかは私では判断できませんが。
メーカーさんでも工務店でもある程度の価格の目安として坪単価というものを使います。
たとえば坪単価が50万円、床面積が40坪だとしたら、総工費2000万円、という具合に。
先回、価格の話をさせていただいた際に、坪単価は一つの目安にしか過ぎないとお話させていただきました。
よくモデルハウスや住宅見学会で坪単価○○円と言われたけれど、実際に我が家を見積もってもらったらとんでもなく高い見積が出てきたという話を耳にします。
ここでまず知っておいていただきたいことは、多くの場合の「坪単価」というのは本体価格のことで、水道の引き込みや下水道の繋ぎ込み、カーテンやエアコンなどは含まれていないのが多いということ。
なぜなら水道の引き込み、下水道の繋ぎ等は敷地の形状、道路からどれくらい離れて建つのかとか、その家々によって変わってくるんです。
そういった不確定要素を坪単価に含めることはできないということだと思うんですね。
それはそれで良いとしても、坪いくらと言われた「本体価格」が聞いていたのとまるで違うということもあるようです。
編集部
それはどういうことなのでしょう?
稲 垣
恐らくはよく言われる「標準仕様」の構成だと思います。
「標準仕様」より高くて見栄えのする物を取り付けたモデルハウスや見学会会場で、編集さんが坪単価を聞いたとします。返ってくる言葉は標準仕様での坪単価でしょう。
けれど実物を見ながら話をされてる編集さんは自分が今見ているその物の価格を教えていただいたと思われますよね? 
聞いている人間と答えている人間が次元の違うものを頭に浮かべて話をしているわけですから話は食い違ってきて当然です。
最初に申し上げた私の友人は標準仕様価格を実際に見ている家の価格と思ってしまいました。

友人「坪単価はおいくらくらいですか?」
営業さん「標準仕様で坪20万円台です」
友人「すごく安いですね。そのくらいなら建てられるかも。見積お願いします」

という会話がなされたそうです。
ここで友人の相手をされた営業さんが標準仕様とモデルハウスの仕様の違いを説明すれば問題はなかったのですが説明のないまま見積ができあがりまして、モデルハウスとまったく同じ間取り、仕様で見積を依頼していた友人は金額をみて驚いたそうです。
本体価格坪20万円台と言っていたものが坪40万円を超えている。
たとえばキッチンやお風呂、便器や床材その他諸々を最低レベルの商品で構成された家をローコストと呼んで良いのでしょうか?
編集部
コスト=生産原価だとすればローコストと呼ぶにはちょっと疑問符が付きますね。
それはロープライスだと言いたいんですか?
稲 垣
(笑)怒ってなんかいませんよ。
私の存じ上げている限りはこと長岡には私の友人が遭遇したような住宅の売り方をされているところはないでしょう。
けれど恐らくはそう遠くない将来にそういったビルダーが長岡にも入ってきます。
ですから家造りをお考えの皆さんには、どうか人生の大部分を過ごす家を「買う」のではなく「建てる」と考えていただきたいのです。
誰もが決められた予算の中で住宅を手にしたいと考えます。
メーカーや工務店、もちろん私どもにもお勧めの設備、お勧めのメーカーといった「お勧め仕様」はあると思うんです。
けれどもこだわりたい部分は思い切りこだわって家造りを楽しまれたらいかがでしょうか?標準仕様にとらわれることなく、キッチンの仕様を上げたい。でも総体予算は上げたくない。であればこだわりたいところに予算を掛け、その分を他の部分で調整していくような作業を楽しんでいただきたいのです。
編集部
建築屋さんからしてみれば面倒ではないですか?
稲 垣
確かにご提案した物のみで決まっていけばこれは楽です。
それでご満足いただけるならそれに越したことはありません。
それを嫌がるようならその建築屋さんは家造りを軽く見てますよね。
実は、この話は仕様の話にとどまらず、価格やそれぞれの間取りなんかにも共通してくる話です。
予算がなくてもそれが非現実的な予算でなければ妥協することなく建築屋さんと何を捨てて何を取るのか、取捨選択を突き詰めてください。
うなぎの寝床みたいな敷地だから、変形敷地だからと、まともな家が建たないとあきらめることなくご相談ください。
恐らくは意外なほど身近に実現できる建築屋さんはいらっしゃるはずです。
私どもの社名に建築事務所と付いているがために敷居が高いとおっしゃる方がいらっしゃいますが、まったくそんなことはないので一度お茶を飲みに来てください。
ご近所の建築屋さんだって話を聞いたら工事をお願いしなければならないなんて事は絶対にありませんからご相談されてもいいと思いますよ。
編集部
自社の宣伝なのか地場工務店全体の宣伝なのか良くわかりませんね(笑)
稲 垣
両方です。切磋琢磨ですよ。
ローコストの話からここまで話を広げて来ましたが、結局のところ真剣に家造りをやろうよって話でした。
編集部
ひょっとしたら、紙面の話題に困ってきました? 
家造りの質問の葉書を結構いただいてますので来月はそれに答えていただけますか?
稲 垣
あのさ・・・なんでもっと早く言わないのよ(怒)。