静かな時限爆弾〜アスベストの話〜

最近、アスベストの健康被害がマスコミを賑わしています。 我々は身近な問題としてどのように受け止め、対応していけばいいのでしょうか?
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アスベスト――。最近になって急に騒がれ始めましたが、我々建築業界の人間にとっては、吹付けアスベストが禁止になった1975年頃からアスベストの持つ発ガン性は周知の事実でした。 実際に悪性中皮腫等のガンに侵されている事が明らかになった被害者は、アスベストを使った建材を製造していた会社の従業員だけにとどまらず、その工場の周辺の住民の方々にまで拡大。マスコミ等が騒ぎ始め、一般 の方々にも周知の事実となりました。
 アスベストとは天然の鉱石から採取される繊維のことです。 日本の鉱石からはアスベストはまったくといっていいほど採取されず、アフリカや南北米大陸からの輸入です。アスベストの太さは0.02ミクロンと言われています。 ミクロンと言われてもどのくらいの太さなのかイメージできませんが、だいたい髪の毛の約5000分の1の太さです。目ではまったく見えませんが、長さが数ミリであれば呼吸によって容易に体内に入ってしまうのは想像できますよね。
 アスベストはそもそも鉱石から採取されますので、燃えにくく、耐久性も抜群で、軽量 さや加工性が良いという理由で「魔法の鉱物」とさえ言われた時代があります。 国内で消費されたアスベストのほとんどは建築資材に使用されていますが、かつてはヘアドライヤーやオーブントースターなど熱を遮断する必要のあった家電製品や、ベビーパウダー、化粧品の一部にまで使われていたことがあるそうです。 現在使用されている吹付けロックウール(岩綿)や、住宅の断熱材に用いるロックウール断熱材そのものがアスベストだと勘違いされる方々が少なくありませんが(建築業界にも勘違いされている方はいらっしゃいます)、ロックウール断熱材をはじめ、現在生産されている建材のすべてはアスベストは一切含有していませんのでご安心ください。

ではまったく私たちの周りにアスベストは存在しないのかと言いますと、残念ながら確実に存在しています。1980年代に学校などの公共建築物への吹付けアスベストが社会問題化されました(1975年に吹付けアスベストが禁止になったのですから当然ですね)。
現在では公共建築の70%〜80%からはアスベストが除去されているという話です。
では、可能性として私たちの周りのいったいどこにアスベストは潜んでいるのでしょうか? 
  テレビのワイドショーなどで声高に言っているのが住宅の屋根材。総称して「石綿スレート板」という製品です。日本人なら誰もが知る大手企業が生産していました。
ただ、不幸中の幸いと申し上げますとお叱りを受けるかも知れませんが、「石綿スレート板」は安価で軽量 で耐久性も良い割には、雪下ろしを必要とする当地ではあまり使われませんでした。
なぜなら、耐久性などはすばらしかったものの粘り強さが製品にないため、スコップでつつけば間違いなく割れてしまうからです。私が若かりし頃(いやいや今でも若いと思っていますが……)、東京近郊のマンモス住宅分譲地に建つ家の8割が「石綿スレート板」の屋根でした。
そのすべてにアスベストは潜んでいます。

 また、最近では滅多に見かけなくなりましたが、Pタイルという内装床用の厚さ5mm程度のタイルにもアスベストは存在します。事務所の床はもちろん、住宅の台所やトイレなどに使用されていました。市松模様に張られたりしていた30センチ角くらいの薄いタイルですね。
このPタイルと言う代物は角が欠けやすく、その欠けた部分からアスベストが空気中に放出されます。
そして、私が考える一番の厄介者は1975年(昭和50年)以前に建築された鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建物です。鉱物であるアスベストは燃えません。
その特性を生かして主に鉄骨造などの耐火材として鉄骨の柱や梁に吹付けられてきました。
ですから、1975年以前の鉄骨造に吹付けられている物はアスベストを含んだ材料であることはほぼ間違いないと思っています。
 では、現在お住まいの住宅に使用されている建材がアスベストを含んでいるか否かを判別 するにはどうすればいいのでしょうか? 一般の方では絶対に不可能ですし、残念ながら私にもできません。
ただ、建てられた(あるいはリフォームされた)年代、建材メーカーなどから推測することは可能です。あくまでも推測の域ですので大して当てになるものでもありませんし、無責任に物は言えませんのでやはり私にも不可能ですと言わざるを得ません。
おそらく、建築業界従事者のほぼすべての方々が不可能なはずです。
本当にお知りになりたいのなら、専門の業者に専門の検査を依頼して判別する以外にはありません。
そして最終的にその建物が寿命をまっとうし、解体の時を迎えたら、専門の業者に委ねるしか手はありません。
 2005年7月に「石綿障害予防規則」なる規則が定められました。アスベストが使用されている建築物の所有者や管理者にも、アスベスト処理についての一定の責務を課する規則です。
アスベスト対策の遅れを国も認めています。私ごときが何も言える立場ではありませんが、規則で建物所有者にアスベスト処理の責務を負わせるなら、その処理代金の一部でも補助してもらえないものだろうかと考えてしまいます。
アスベストの除去作業は非常に高額な工事費が掛かるのです。
 アスベスト被害が大きくなるのはこれから先です。ニュース等でご存知の通り、人体の肺に呼吸とともに送り込まれたアスベストの潜伏期間は20〜40年と言われています。
アスベスト輸入が全盛期だった時代を経て、潜伏期間から目覚めようとしている時期に差し掛かります。「魔法の鉱物」から一転『静かな時限爆弾』と呼ばれるようになったのは、この潜伏期間の長さによります。
 さて、脅かすだけ脅かしておいてこんな事を申し上げるのもおかしな話ですが、不必要に心配はしないでください。たとえ皆さんのお宅にアスベスト建材が使用されていても、通 常の場合はアスベストの濃度は基準値以下に収まっているはずです。
アスベスト建材、あるいは疑わしい建材が使用されているとしても、危険だから気味悪いからと下手に触ったりしないでください。間違っても除去してしまおうなどとは思わないことです。
日常生活においてアスベストがそこにあること自体は大きな問題ではありません。
触れたり、振動させなければ、アスベストは空気中に飛び散る心配はほとんどありません。
 それでもご心配なら応急処置を。
たとえばPタイルが張られているお宅なら、その上からクッションフロアなどのビニール系のもので床を覆うように張ってしまうのも手です。
吹付けアスベスト(または疑わしいもの)が施工されている鉄骨の柱や梁が見えているお宅は、石膏ボード等で覆ってしまい、ビニールクロスで密閉してしまうのも一つの方法です。
高性能の空気清浄機も有効です。
シックハウスの原因であるVOCはガス化した気体ですので空気清浄機では太刀打ちできませんが、アスベストは粉塵の部類に入りますのである程度は空気清浄機で対応できるはずです。
 私を含めて、アスベストに関するプロがいるとは思えませんが、大体の予測は可能なはずですし、当時の図面 等で品番がわかればアスベストの有無を調べることも可能です。
とにかくあわてずに、ご自分で何とかしようとは決してお考えにならずに、ご近所、お知り合いの建築屋さんに一度ご相談ください。