風のあやぐ〜間取りの話(家相編)

家づくりをするにあたって、考えなければいけないのは家相? それとも間取り?  素朴な疑問に一級建築士の稲垣隆がお答えします。
イラスト
編集部
そもそも家相って何なんでしょう? 普段は気にされていますか?
稲 垣
家相の総論は住宅の向きや間取りでその家の吉凶を占うものですね。 鬼門(きもん)という言葉を聞かれたことがあるとは思いますが読んで字のごとく鬼の門ですから、その方角にトイレやお風呂などの水回り、玄関等を配置しない方がいいですよと言うことです。 私自身はお客様から特にご要望のない限り、あまり家相は気にしません。 ご要望のあった場合には、対処できる程度の知識を持つように心がけてはいますが。 家相や風水にあまりに細かくこだわると、まともな間取りができなくなる可能性がありますので、その辺はご自分がどの程度家相や風水にこだわりたいのか、設計担当者にお伝えください。 家相を全否定される方は「昔の迷信。現代の住宅は設備が良くなっているからまったく気にする必要はない」とおっしゃいますし、家相のみで設計を考えられるお客様もいらっしゃいます。 たしかに「昔の迷信」の部分もあると思いますし、昔の家と現代の住宅を同じ土俵で考えてもしかたない部分もあると思います。 ただ家相や風水を勉強すると、一概にすべてを否定はできないんですよ。ある意味、理にかなった間取りの作法としてとらえられる部分もあるのです。
編集部
と申しますと?
稲 垣
たとえば裏鬼門に当たる南西の方角に台所やトイレ水回りを配置するのはもっとも凶相だと言われていますが、家相学が云々ではなく、単純になぜだと思います?
編集部
南西といえば比較的日当たりも良いし、西日が強いことを除けば環境的にはいいような気がするんですが?
稲 垣
もう答えを言われてますね。 その西日の強さです。西日が強ければ真夏の室温は上昇して、台所であれば食材が早く腐りやすくなる、トイレや水回りでも水そのものが腐りやすい等、問題が多くあるんです。 昔の汲み取り式のトイレが南西にあれば虫や臭いなどの問題も発生したわけです。
編集部
でも現代では水洗トイレですし、エアコンもあります。食材が腐りやすいといってもどのお宅も大きな冷蔵庫をお持ちですよ。
稲 垣
そうです。 それこそが語り継がれてきた家相を現代の住宅に照らし合わせた時、矛盾と言うか、一概に納得できない要素を含んでいるという事です。 けれど、こういった考えも成り立ちます。 たとえばあるお宅の2階のトイレが南西で日当たりは良い。そのお宅は核家族でご夫婦でお勤めされている。 お子さんもまだ小さいので普段の生活の大部分を一階で過ごし、2階のトイレはめったに使わない あっという間に腐ります。 腐った水は便器に汚れの輪を作ったりします。どうですか? たしかに家電や設備で家相のすべてを肯定はできなくなっていますが、そのすべてを否定もできないのです。
編集部
……。我が家がそうです。 2階のトイレはほとんど使わないので水が腐ります。 いざ掃除する時は大変です。他にも身近な所で教えてください。
稲 垣
その家の奥様の動線が単純で短くなるように、台所〜洗面 所〜浴室と一直線に並ぶ間取りをご提案することが多いのですが、実はこれも家相上は凶相です。 理由は、浴室や洗面所は湿気のたまり場で、そのたまり場と食材を扱う台所を隣接させると湿気の影響を受けて物が腐りやすいとか、洗濯物を扱う洗面 所の隣で調理は不衛生だとかいう理由なのですが、どう思います?
編集部
う〜む。考えすぎかと。
稲 垣
私もそう思います。おおげさに考えすぎですよね。 言っている事はわからなくはないですが、それを他の手段(たとえば換気設備とか)で補えば、やはり奥様の動きやすさを優先したくなります。 こういった現代の住宅には、そっくりそのまま当てはめにくい部分もあります。 また、家相上の間取りにおいて『張り』や『欠け』、他の言い方をすれば凸 凹を造るなといわれています。 これも家相の本当の意味はわかりませんが、凹を造ることで風の流れにくいところができたり、凸 凹を作ることで耐震性がマイナス側に働いたりする事への警告なのではないかと思っています。
編集部
以前から言われていた、単純な間取りで陽や風や家族の「よどみ」を造らない事と共通 するみたいですね。
稲 垣
その通りです。 これは私個人の見解ですが、極論を言えば家相とは“風の流れ”のような気がします。 風がよどみなく流れる家は健康的な家だとの教えのような気がしてなりません。
編集部
なるほど。難しく考えないで自然に逆らわずに、逆に自然と同化した間取りのススメ。 そう思えばいいわけですね。 けれど、言われてしまうと気になるのが人間の性。 どうしても家相に徹底的にこだわりたい方へのアドバイスと、題名の「風のあやぐ」の意味を教えてください。
稲 垣
徹底的に家相にこだわって家造りをしたい方は、相談先をひとつにしぼってください。 例えば○○神社と○○寺、という具合に神仏両方に相談してまったく違うことを言われ、結果 、疑心暗鬼になり家造りのスタートが楽しくないものになってしまった方も少なくはありません。 「風のあやぐ」の「あやぐ」とは琉球語で場所、居場所といった意味です。 私の中の結論は現代版凶相の家とは、やはりよどみのある家だと思っています。 陽と風と家族の関係、ここによどみを造ってはならない。家相とはそういうものだと判断しています。
編集部
最後に先日の「まるごと暮らし博覧会」には多数の無垢材の板を展示されていましたが、ご来場いただいた皆さんの反応はいかがでしたか?
稲 垣
当然といえば当然なのですが、ああいった本物の板材を並べますと、まず無垢材に興味のない方、興味津々の方に分かれます。 そして興味のある方の中で、実際に手で触ってご覧になる様子を拝見していたら、年齢層によって触ってご覧になる木の種類がおおまかに分かれるのは興味深かったです。 比較的若い方々がまず触ってご覧になるのが、桜や杉などの比較的ざっくりとした表情を持ち、かつどちらかといえば身近にある木でした。 ご年配の方はまったく逆で、ケヤキやクス、青森ヒバなどのどちらかというと木目が揃って節がなく、高価な木を触っていらっしゃいました。 これはおそらくは無垢材への価値基準の相違だと思います。ただ、どの木を触られていく方も「気持ちいい」とおっしゃっていただけたのはうれしかったですね。 逆に一番ショックだったのは、後から聞いた話なのですが、私のビジュアルが近寄りがたく、話をしてみたかったが声をかけられず、帰られた方がいらっしゃったということ。 それも複数の方が。まあ、優しげな顔はしていませんが、そこまで近寄りがたいかなあと少しショックでした。
編集部
僕もその話は聞きましたよ。たしかに男の僕でも初対面 であれば声をかけにくいかも……。
稲 垣
そんな……借りてきた小動物のような人間だとご存知でしょ?
編集部
冗談がお上手ですね……。