間取りの話1

住み心地の良さの基本となるのがやはり間取り。 家族が仲良く健康的に過ごすには、どんな間取りがベターなのか。 一級建築士の稲垣隆さんにお伺いしました。
イラスト
編集部
読者の方から間取りについて書いてほしいとの要望がありました。 とっくに間取りの話は終わっている気がしていましたがまだだったんですね。
稲 垣
私も書いたつもりになっていましたが間取りについては今まで触れていなかったんですよね。 で、今回はあわてて間取りの話を(笑)
編集部
まずは間取りを考えていく上での基本の考えを教えてください。
稲 垣
私自身は間取りに基本……というかセオリーはないと思っています。 建築業界で昔から言われ続けていることですが、間取りは「敷地に聞け」と言う言葉があります。 これは敷地の大きさや方角、そして周りの状況がどのようになっているかを確認した上でないと間取りなんか考えられないと言う事ですね。 たとえば南側に大きな建物、マンション等がそびえ建っていたらその敷地においては南側が一番条件のいい方角ではないと言うことになります。 敷地の図面だけ見ていては読み取れない事でも実際に敷地の真ん中に立ってみると見えてきたりもします。 そこから間取りを考えるという作業がスタートします。 俗に言う「うなぎの寝床」のような細長い敷地や、住環境としては決して好ましくないと思えるような敷地に計画するときが一番わくわくしたりします。
編集部
家は買う物ではなく造り上げていく物だということですね。
稲 垣
そうですね。その敷地とご家族の要望、ライフスタイルにあった物をカタログの中から選ぶわけではありませんのでご一緒に間取り造りを楽しめればと思います。 今回は間取りの細かい話を書いてもしかたありませんので総論として私の考えを書かせていただきます。 間取りについての考えは設計者により千差万別ですのでこれからお話しすることが皆さんにとってベストな方法なのかどうかはわかりません。 私個人の考え方ですからそれがすべてだとは思わないでください。
編集部
細かいところは置いておきまして、稲垣さんが間取りを考える上でまず考えることはどんなことですか?
稲 垣
『よどみ』を造らないことです。 ここで言うよどみとは、人と空気のよどみ。それを極力造らない事を第一に考えます。
編集部
よどみ……ですか?
稲 垣
よどみと言うと大げさに聞こえるかもしれませんね。 行き止まりがないといいますか、私は「抜ける」と言う表現を使うのですが例えば「風が抜ける」「光が抜ける」「人の動線が抜ける」。 要は行き詰まりや行き止まりを人も光も風も作らないように心がけています。よく言われる「廻れる動線」もその一部ですね。
編集部
なるほどよくわかります。 最近推奨されている間取りとはどういったものですか?
稲 垣
一番はお子さんを孤立させない間取りでしょうか。 多くの家は玄関から階段にまっすぐ進むとお父さんお母さんの顔を見ずに子ども部屋まで行けてしまう。お子さんが夜中まで起きていても何をしているのかさえわからない。 親は子どもに気を使い、子ども部屋にはなかなか近づけない。 なんかおかしいですよね? 子どもにだってプライバシーはあるという人もいます。 私もある程度はそれを認めます。けれど家の中で子どもを孤立させてしまう、言い方を変えれば孤立できてしまうのは家族の問題もあるのでしょうが間取りの問題も多々あるような気がしてなりません。 文字では漠然としたイメージでしかお伝えできませんが、先ほどの「抜ける」と言う事の中に「気配」「雰囲気」を付け加えさせてください。 子どもさんが学校から元気に帰ってきたのか、そうでないのか。夜中に勉強しているのか、音楽を聴いているのか。そういった「気配」さえ通 り抜ける間取りを考えています。
編集部
同じ家に住んでいても、おたがい何をしているのかわからないというのはちょっといやですものね。
稲 垣
子ども部屋の話になりましたのでついでに私個人の子ども部屋の考え方をお伝えします。 恐らく反論したい方もいらっしゃるのは承知の上で。 ほとんどの親御さんは子ども部屋を南に配置してくれとおっしゃいます。 家の中で一番いい条件のところへお子さんの部屋を作りたいという親心はわかりますし、私も他の理由で「やむを得ず」子ども部屋を南に配置することはあります。 でも本当に子ども部屋が南にあったほうがいいんでしょうか? お日様が一日中当たる明るい子ども部屋。イメージはいいですね。 では、お日様が当たっている真昼間の時間、お子さんに子ども部屋に閉じこもっていて欲しいのですか? 恐らく外で遊んだり、リビングで家族と過ごす事を望まれる親御さんが多いはずです。 私は自分の子どもが真昼間から個室に閉じこもってほしいとは思いません。 子ども部屋が好条件である必要はないのです。むしろ、中学、高校と勉強にさく時間が増えれば増えるほど、一日あるいは一年という単位 の中で一番日射の「量」が安定している北側のほうが目に優しいとさえ思います。 (日射量が安定しているということで明るいという意味ではありません)その家は苦労して手に入れたご両親のものだと思っていますので一番いい場所はご両親が使って当然だと考えます。
編集部
僕も今の今まで家を造るなら子ども部屋を南に……と思っていましたが考えがコロッと変わりました。 説得力のある話ですね。二世帯住宅の間取りの注意点の問い合わせのおはがきをいただいていますが?
稲 垣
まず完全二世帯の場合はお風呂やトイレなどの水回りの位 置を上下階でなるべく同一の位置に配置したほうがいいと思います。 給水、排水のコストの事もありますが、音の問題も大きいです。 水回りは一番音の発生する場所ですからね。 上下階分離型の二世帯住宅で音の問題は必ずついてまわります。 この紙面の読者の方々は大人の方がほとんどだと思いますのであえて書きますが寝室の位置は親世帯と子世帯では同一位置にしないでずらしたほうがいいと思います。 大真面目に言ってるんですがこの意味わかりますよね?
編集部
わかります……設計やってられる方って色んな事考えてるんですね。 遮音構造とかにすれば問題はないのではないですか? さっきの水回りも。
稲 垣
う〜ん……。遮音構造とか言い出すと間取りの話ではなくなってしまいますし、極論を言えばまったく窓のない部屋に機械で太陽光を送ることまで可能な時代ですから、ここでは構造とか工法とか設備に頼った話はしてもしかたないと思います。 百歩譲って遮音構造にしたとします。 それもかなりの高いレベルの遮音構造にしたらご両親(親世帯)のお休みになられているすぐ上にご夫婦の寝室を配置することに本当に何の抵抗もないですか?
編集部
……少しありますね。
稲 垣
そうでしょ? それは工法とか設備とかとはまったく違う次元です。 言ってみれば「心理的」に抵抗がある。抵抗までいかなくても何かが心理的に引っかかると思うんです。 少し下世話な話になってしまいましたがそういったことも大真面目に考えないと人間が何十年も住まう家の間取りは考えられないですよ。 ある意味、そこに住まうご家族のあり方さえ左右しかねない事なのですから。
編集部
なるほど。 奥が深いんですね。間取りの話は今回では終わらないようなのでまたの機会に続けていただきます。
稲 垣
そうですね。間取りの話に絡めて色んな話をちりばめるとしばらく終わらないかもしれません。 今回は特に子ども部屋について力が入ってしまいました。 特に若い世代のお父さんお母さんへ、一緒に考えていただきたかったです。 あんなに可愛かった子もあっという間に背を軽々追い越され、靴のサイズなんて2.5cmも違うんですよ!
編集部
何の話ですか? 愚痴ですね?
稲 垣
……ええ……愚痴です。 
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