住宅価格を決めるもの

住宅の価格というものは、素人からしてみたら、まさにブラックボックス。 価格を決める要素とは、どんなものがあるのか、稲垣隆がお答えします。
イラスト
編集部
今回のテーマは「住宅価格を決めるもの」ですか。 ずいぶん大胆な題名ですね?  施工業者さんにとってのブラックボックスなのではないですか?
稲 垣
私ども「稲垣建築事務所」は、その社名からよく誤解されるのですが、設計事務所ではありません。設計と施工、双方のプロがいる工務店です。 とすれば、「住宅価格」についてはわが身のことであり、決して関係のない川の向こう岸から文句を言っているわけではないので、書いてもいいかなと思いました。
編集部
現在家づくりをご検討されている方々に参考になれば、ということですね。 それでは、住宅の価格を決めるものとは何ですか?
稲 垣
とても一言では言えませんが、箇条書きにするなら「建物形状、間仕切り率、外周率、収納率、設備率、そしてもちろん仕上材料」などです。
編集部
では、建物形状から説明してください。
稲 垣
例えば一般的に言われる坪単価、床面 積が同じであれば、総二階建ての建物の方が、平屋建ての建物より安くなるのはご存知ですよね?
編集部
聞いたことはありますが、それが何故なのかもう一度教えてください。
稲 垣
面積が同じ住宅で、片や総2階建て、片や平屋だとしたら、圧倒的に数量 の違う部位が発生します。どこかお分かりになりますか?
編集部
屋根の面積ですか?
稲 垣
正解です。屋根の面積は極端な話、半分です。 もうひとつ圧倒的に違うのが基礎です。 平屋の方が当然基礎の長さが長くなりますから。 同じように、矩形に近い建物と凸 凹の多い建物では基礎長さも外壁の面積も大きく違ってきます。
編集部
その辺は良くわかります。が、間仕切り率とか収納率ってなんですか?
稲 垣
そう言った単語が通常使われているわけではないのですが、解かりやすくするために使ってみました。間仕切り率とは、間仕切壁の長さの比ですね。 この場合壁だけでなく、間仕切りの引戸やドアも含むのですが、例えれば40坪の総2階建ての家の間仕切壁が合計して40mの家と80mの家があったとします。 40mの間仕切壁を持つ家は40m÷40坪=1坪あたりの間仕切壁が1m。 80mの間仕切壁を持つ家は80m÷40坪=1坪あたりの間仕切壁が2m、となるわけです。
編集部
そうすれば当然、間仕切壁に必要な材料の量 が違ってきますね。
稲 垣
そう、下地材、仕上げ材が大きく違うわけです。 収納率も同じです。 その家の収納の面積の合計を床面積で割れば、一坪当たりの収納面 積が算出されます。 収納は思われるよりコストの掛かる部分ですから、収納率が高くなればなるほどコストも掛かると思ってほぼ間違いはないと思います。 外周率は床面積あたりの外壁の長さ、設備率は給排水の箇所数で想像していただければ考え方はまったく同じです。
編集部
かなりシステマチックな話ですね。 常日頃こんな難しいことを考えながら、業務をされているのですね?
稲 垣
いえ。まったく考えていません(笑)。 価格を決めているのは、確かに上に書いたいくつかは重要な要素です。 でも、なにか足りないでしょ?  おっしゃる通り上記のようなシステマチックな考え方をすれば、狙った坪単価にするのはそう難しいことではありません。 逆の言い方をすれば、私がお客様から「総2階40坪、坪単価40万円」の家を依頼されたら、そこに金額を合わせるのはいとも簡単な作業です。 ただし、ご要望をお聞きする前であれば……。
編集部
なるほど、少しわかってきました。 足りないものとは住まい手の夢とか要望ですね?
稲 垣
そうなんです。 夢やご要望だけでなく、どうしても譲れないこだわりや、その土地の形状や法的な制約、様々なものが絡み合って家は家として成立します。 お客様のいない、例えば建売住宅などであればシステマチックな考え方のみで形になると思います。 けれど、皆さんが欲している住まいはそんな住まいではないはず。 もう十分お分かりいただけたと思いますが、「坪単価」はあくまでも目安です。
編集部
モデルハウスや住宅見学会でも坪単価が表示されていますが、その家固有のものということなんですね。
稲 垣
極端に言えば50坪で坪単価50万の家の100万円のキッチンを、50万円のキッチンに変えただけで坪単価は1万円下がるのですから。 あくまでも目安。 されど目安と思って、参考程度には聞いておいてください。 すし屋さんに行って「時価」と書かれているネタを注文するのは勇気が要るのと同じように、ある程度の目星を付けてから出ないと打ち合わせも進みませんから。   
編集部
目安には必要だけれど、坪単価がすべてではないということですね。 価格の話のついでに、読者の方から住宅の建築工事見積書の見方を教えてほしいとの要望があるのですが。
稲 垣
正直、同業他社様の見積もりを目にすることは私もほとんどありません。 が、ひとつチェックしていただきたいのです。見積書は何ページありますか?  まさかA4かA3の紙2、3枚で終わってはいないですよね?
編集部
ページ数が少ないというのは、どういうことなんですか?
稲 垣
「一式」という項目ばかりで、明細がないということです。 そんなものは、見積もりではありません。 一式でしか現せない、あるいは現しにくい工事も確かにありますが、一式項目はそれこそブラックボックスです。明細がないのですから、お客様の想像と実際がかけ離れていることも考えられます。 
編集部
そういった意味で、明細のない「一式」の多すぎる見積書は要注意ということですね。
稲 垣
実際に聞いた話ですが、「カリン床柱」の項目でそれなりの金額が記載してあったので、当然、無垢のカリンの木だと思ったら集成材の張物だったとか。 「無垢床板」と記載してあったので、打ち合わせ通りの床だと思ったら、実際は「この金額ではこの木しか張れません」と、見たこともない床材を見せられたとか。 見積書を通してのトラブルも多いようです。 私どもにとって見積書はお打ち合わせを重ねて得られたひとつの結果 、答えです。 私どもが考える見積書は品番が決まっていればその品番を、定価があるものはその定価まで見積書内に記載してこそ見積書だと思います。
編集部
稲垣さんのところだと、何ページくらいになるんですか?
稲 垣
私どもの書式で言いますと、平均的にはA4の紙で40ページくらいでしょうか。 そのくらいないとお伝えしなくてはならないものが伝わらないと思いますし、お客様にとってもご安心いただけるのではないかと思います。 地盤調査費用も現在は調査実施が当たり前なので、見積書内にその項目がなければ聞いてみたほうがいいですね。当たり前の事は当たり前に記載してあり、お打ち合わせ時にこだわった部位 では、一見してそれと解かる書き方をしなければ、プロがお客様に対してする説明手段ではないと考えます。 いずれにせよ、納得いくまで説明してもらったほうがいいですよ。お互いのために。
トップへ 次へ