住まいは夏を旨とすべし〜「断熱編」

夏は蒸し暑く、冬は厳しい寒さの長岡市。 本格的な冬を迎えるにあたって、住まいに必要な断熱性とは? 一級建築士の稲垣隆がお答えします。
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記録的猛暑の夏が往き、すぐそこまで冬が近づいてきています。
日本の四季は気候がはっきりと違い、だからこそ春夏秋冬の風情があります。
過ごしやすい春と秋は別として、ここ長岡の住まいは気温40度手前まで上がる夏と気温0度まで下がる冬、どちらに重心をおいて考えるべきなのでしょうか?

 鎌倉時代、吉田兼好が「徒然草」の中で「住まいは夏を旨とすべし」と記しています。
これは「人の住まいは夏に重心を置いて考えなさい」と解釈されています。
冷房も暖房もない昔の家では、寒さは重ね着で耐えられますが、夏の暑さは裸になってこれ以上脱ぐものがないというところまでしても調節は効かなかったから、「夏を快適に過ごせる家」を造ることに重点を置きましょうということだと思います。

 ただ、現代は鎌倉時代ではありませんので事情がだいぶ違います。断熱材の誕生はおよそ30数年前、住宅金融公庫の仕様書の中に記載されてからです。
現在ではその当時の断熱材と比較にならないくらいの多くの種類、そして圧倒的に高い性能を持つ断熱材が多くあります。どれがいいのかは別 として。高断熱高気密という言葉をご存知でしょうか?
 日本の高断熱高気密の住宅は北海道から発信されました。
冬の寒さが厳しく(実際に10数年前までは家の中で凍死された方もいると聞きます)、夏は涼しく過ごしやすい北海道の住宅は驚くほど窓が小さいです。
どんなに高性能なサッシを使ってもその断熱性は壁の断熱性能よりはどうしても劣ってしまい、熱がサッシから逃げていく弱点があるので、極寒の地北海道では窓が極端に小さいのです。サッシが小さいということは季節の良い時に窓を開けてもあまり風は通 りません。
高断熱高気密の家の走りの時代のキャッチフレーズは「魔法瓶のような家」でした。暖房(あるいは冷房)のランニングコストを抑え、少ないながらもコストを掛けて作った熱環境をできるだけ逃がさないという考え方です。
果たして私たちの住むここ長岡で、北海道のような「魔法瓶の家」が必要なのでしょうか?

「魔法瓶の家」は快適なの?

冬の寒さもさることながら、夏の異常なまでの高温多湿なこの地で「魔法瓶のような」気密性と断熱性を持つ家が果たして必要なのでしょうか?
南北に長い日本列島の中で、こと住宅の断熱方法が、あるいはその住まい方が、同じでいい訳はないと思っています。
 では「夏を旨とすべし」は、どうすればその回答になるのでしょうか?
私どもなりの回答は、断熱の方法論だけで住まいの快適さを図るのは無理だという事。
断熱材の種類や断熱の方法を語っても、それは一部の断片的な答えであって、解決策ではないように思うのです。
 断熱材は同じ種類であれば厚さを厚くするほど断熱効果は上がります。が、夏場の日中にどなたもいらっしゃらなくなるご家庭(窓も開けず、冷房も切るお宅)ではその断熱材が蓄熱体となり、昼間の日射から熱を蓄え、涼しくなる夜間に徐々にその熱を放出し始めるのです。
一部の高断熱高気密工法が冬は暖かいが夏も暑いといわれるのはこのためです。
 少し話はそれますが、最近流行の外張り断熱の話を。外張り断熱のメリットは大工さんの腕にあまり左右されずに断熱性能が期待できること、気密性の保持が比較的容易なことなどです。
逆にデメリットの筆頭が外壁材の選定と、その下地を留めつけるビスの選択です。
外張り断熱は断熱材を完全に柱の外側から打ち付けるので外壁材があまり重い材料ですと、長い期間の間に外壁自体が自重で下がってしまう可能性が否めず、それを回避するために専用ビスで「ドウブチ」という下地材を留めつけます。
これは外張り断熱専用のビスで、一般的なビスを使用いたしますと大変な事になります。
私の知人の他県で外張り断熱住宅専門にしておられる住宅会社の方は外壁の自重落下を恐れるあまりに自重の軽い鉄板系の外壁にするか、専用ビスだけで一軒当たり30万円以上掛けなくては怖くて仕方ないと言っていました。また外断熱は内断熱に比べて、同じ熱エネルギー下では温まりにくい特性があります。
ただしいったん温まった熱はなかなか冷めにくいので、一日中どなたかが家にいらっしゃるお宅に向いているといえると思います。
内断熱のメリット、デメリットは外張り断熱のまったく逆だと思っていただければ大きな間違いではないと思います。
 話はそれましたが、私どもには「住まいはこうあるべき」といった目指す形(外観や固定観念ではありません)があります。もともと「魔法瓶の家」不要論者の私といたしましても、目指すべき住まいを造るのに断熱性は不可欠です。
断熱性がなければ間取りの発想が広がりませんから。
冬、生活に不自由ない程度の断熱性があり、夏、いろんな意味(ここが実はポイント)での風通 しを良くしてやれば住まいはご家族とともに良い歳を重ねられると思うのです。
 私どもが目指す家づくりは、冬、ほんのり暖かく、夏、部屋の中はもちろん壁の中や天井裏のどこにも熱気が溜まらず、ご家族にとっての「風通 し」の良い家づくりです。
家の風通しと家族の風通しを両立させてこそ、私どもの目指す家づくりです。
そのへんは次回「住まいは夏を旨とすべし〜間取り編」を。
 まったく関係ない話ですがこの原稿を書いているは10月7日。また台風22号が上陸しそうですね。すごい数ですよね?
日本中の集中豪雨の回数は100年前の1.3倍だそうです。ニュースでは毎日のように人里に熊が出没している様ですし、どれもこれも異常気象のせいにしたくなります。
そういえば今年の晩夏は毎年感じている「夏の終わりの匂い」を感じなかったなあと思い出しました。

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